銀行融資で個人保証を求められたらどうする? 役員による会社債務の個人保証
~経営者保証ガイドラインについても解説~
1 はじめに
今回は、役員による会社債務の個人保証を取り上げ解説します。
企業が、銀行をはじめとする金融機関から融資を受ける際、役員とりわけ取締役が会社債務の連帯保証人になることを融資実行の条件にされることがあります。
そもそも、所有と経営が分離している株式会社における取締役(単に雇われている取締役)は、会社債務について自ら負担する必要はありません。
しかし、所有と経営が分離していない株式会社(たとえばオーナー会社)の場合、企業規模は小さいことが通例であり、そのような企業自体の信用力だけでは金融機関から提示された融資実行条件を満たさないケースも見られます。そのような場合、金融機関から融資実行の条件を満たすために、役員による会社債務の個人保証(連帯保証・根保証すること)が要求されることとなります。
2 有限責任制度との関係
まず、株式会社制度における有限責任と役員による会社債務の個人保証との関係を整理します。
株式会社と役員(取締役・会計参与・監査役:会社法329条括弧書き)との関係は、委任に関する規定に従うとされています(同法330条)。
そのため、役員は、会社に対して善管注意義務(民法644条)を負っており、取締役はさらに忠実義務(会社法355条)も負っています。
会社法は、役員が、法令または定款の規定に違反した場合や、上記善管注意義務や忠実
義務に違反して会社に損害を与えた場合など、任務を怠ったときは、会社に対してその損害を賠償する責任を負うと規定しています(同法423条)。
なお、取締役の経営判断が会社に損害を与える結果となっても、当該判断が誠実かつ合
理的な範囲でなされた場合には注意義務違反とはならないとされています(経営判断原則)。また、役員は、任務懈怠があったとしても、過失がなければ会社法423条の責任を負うことはありません。
つまり、取締役は、上記経営判断原則を逸脱するような任務懈怠(善管注意義務違反)がない限り、会社に対して法的責任を負わないこととなります。
さらに、取締役が自ら会社に出資をしているような者、すなわち取締役だけでなく株主でもあるような場合、株主としての責任については株主有限責任の原則により、会社の債務について出資額以上の責任を負担する必要はありません。
このように、本来、役員は、株主を兼ねているような場合も含めて会社債務を負担しなければならないような立場にはありません。
しかし、このような原則論を述べたところで、当該会社に信用力が乏しいのであれば、金融機関から融資を受けようとするにせよ、掛取引をしようとするにせよ、信用力不足を理由に取引自体を断られる可能性が高くなってしまいます。
そこで、かかる信用力不足を補完すべく、金融機関は融資実行の条件として、役員による会社債務の個人保証を要求することになるのです。
3 メリット・デメリット
2では有限責任制度との関係をもとに、役員による会社債務の個人保証が必要となる構造につき説明しました。
それでは役員による会社債務の個人保証がなされた場合、メリットやデメリットはどのようなものが発生するでしょうか。次に、それらについて説明します。
【役員による会社債務の個人保証のメリット・デメリット】
メリット |
デメリット |
・信用力の補完 ・モラルハザードの防止 |
・個人破綻リスク ・事業承継時の障害 |
まず、役員による会社債務の個人保証を行うことにより得られるメリットを説明します。
役員の資力にもよりますが、役員によって会社債務が保証されれば、結果的に会社の信用力が補完されることとなります。金融機関から融資実行にあたって役員の個人保証が必要とされているような場合や、個人保証の有無によって貸出金利の条件が異なるような場合には、役員による会社債務の個人保証の有無が、融資の実行や貸出金利の条件にプラスの影響を与えることとなります。
また、中小企業経営者の中には、ガバナンスやコンプライアンスに対する意識が低い者も存在することから、株主や金融機関からの目線にはなりますが、役員に会社債務を個人保証させることで、経営への規律付け(モラルハザードの防止)や財務諸表の信頼性担保に資することとなります。
一方、デメリットとしては、会社債務を個人保証するため、債務者である会社が債務を履行できない場合には、保証人となった役員が会社に代わって債務を履行しなければならなくなります。なお、会社債務の役員による個人保証の局面では、連帯保証・根保証(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約:民法465条の2第1項)を用いる例が見られます。また、会社が破綻したような場合には、個人保証を行っていた役員個人も連鎖的に破綻するリスクを負うこととなります。
そのほか、会社の経営を他の者(例えば自身の子供)に譲りたい場合には、個人保証の対象者も変更することが通例であるため、会社の経営を譲り受ける予定であった者が、かかる保証関係の存在に難色を示し、結果的に事業の承継がとん挫するリスクもあります。
4 保証契約に関する民法の特則
3で述べたとおり、役員による会社債務の個人保証における最大のデメリットは、会社の破綻に伴う個人(保証人)破綻リスクの顕在化です。事業資金は通常巨額となりますが、かかる資金を連帯保証・根保証した個人には催告および検索の抗弁権は認められず、また根保証することで、主債務の金額が定まっていないため、将来、保証人が想定外の債務を負うこととなります。
そこで、民法では以下のようなルールを設け、行き過ぎた個人保証の弊害防止とモラルハザード防止との間のバランスを図っています。
まず、個人が保証人になる根保証契約については、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となります(民法465条の2第2項)。この極度額については、書面等により当事者間の合意で定める必要があります。
また、5年以内の元本確定期日を定め、それをきちんと更新していない限り、3年間で保証債務の元本が確定します(民法465条の3)。
さらに、主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証または主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、財産および収支の状況や他の債務の履行状況などの情報を提供しなければならないとされています(民法465条の10)。
5 経営者保証ガイドラインの策定
ここまで見てきたように、役員による会社債務の個人保証については、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する一方で、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっています。
そこで、役員の個人保証を解除することなどによってこうした課題を解決するため、2013年12月、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、翌年2月から施行しています。
このガイドラインは、「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」と位置付けられており、法的な拘束力はありませんが、関係者が自発的に尊重し、遵守することが期待されています。つまり、役員の個人保証を解除するかどうかの最終的な判断は、金融機関に委ねられることになります。
そのうえでガイドラインは、役員の個人保証の解除あるいは見直し(例えば、停止条件付保証契約への変更など)には、内部または外部からのガバナンス強化により、以下3要件のすべてまたは一部を、将来にわたって充足する体制が整備されていることが必要としています。
- 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている。
- 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である。
- 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている。
また、ガイドラインは、役員が個人保証を履行するに際して、保証履行後も保証人の手元に残る資産等および保証人情報につき、以下各点について定めています。
- 破産時の自由財産(99万円)は、原則として経営者の手元に残る。
- 金融機関は、事業再生等の早期着手により法人からの回収見込額が増加した場合、自由財産に加えて「一定期間の生活費(雇用保険の考え方を参考に、年齢等に応じて約100万円~360万円)」を経営者に残すことを検討。
- 金融機関は、「華美でない自宅」について、経営者の収入に見合った分割弁済をする等により、経営者が自宅に住み続けられるよう検討。
- 保証債務履行時点の資産で返済し切れない保証債務の残額は、原則として免除する。
- 保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報は、信用情報登録機関に報告・登録されない。
なお、事業承継時に役員の個人保証が後継者候補確保の障害となっていることを踏まえ、金融機関と中小企業経営者双方の取り組みを促すため、政府は「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」(2019年5月)を公表しています。
ガイドラインに従って、役員による会社債務の個人保証を解除することができれば、より積極的な事業展開などが可能となり、経営の自由度を増加させることができるでしょう。
6 おわりに
中小企業が金融機関から融資を受けようとする際、融資実行の条件として役員による会社債務の個人保証を要求されることが多いことは前述のとおりです。
企業(役員)は、役員による会社債務の個人保証のメリット・デメリットを勘案したうえで、かかる金融機関からの要求を受け入れるか、代替資金調達手段を模索するかなど、企業の資金需要に基づいた綿密な資金調達計画を検討・策定・実行する必要があります。