建設業法違反があった場合、建設工事請負契約は無効になるのか?
〔建設業法違反と罰則〕
今日は、建設業法の違反行為があった場合の話について教えてください。
わかりました。具体的にはどういったことでしょうか。
建設業の許可などについて定めている建設業法の違反行為が発覚した場合についていろいろと教えてほしいのですが、まず、違反行為には罰則があったはずですよね。それから、もし、建設工事の請負契約の相手方が建設業法に違反することをしていた場合、契約を締結した当事者は、契約を無効だと主張することはできるのでしょうか。
まず、罰則の方についてですが、建設業法は第45条以下で罰則を規定していまして、例えば、建設業の許可を受ける必要があるのに、その許可を受けないで建設業を営んだ者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられ、場合によっては、懲役と罰金を併科させられることになります。
〇建設業法(昭和24法律第100号)(抜粋)
(建設業の許可)
第3条 建設業を営もうとする者は、次に掲げる区分により、この章で定めるところにより、二以上の都道府県の区域内に営業所(本店又は支店若しくは政令で定めるこれに準ずるものをいう。以下同じ。)を設けて営業をしようとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所を設けて営業をしようとする場合にあつては当該営業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない。
一~二 (略)
2 (略)
第47条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
一 第3条第1項の規定に違反して許可を受けないで建設業を営んだ者
二 第16条の規定に違反して下請契約を締結した者
三 第28条第3項又は第五項の規定による営業停止の処分に違反して建設業を営んだ者
四 第29条の4第一項の規定による営業の禁止の処分に違反して建設業を営んだ者
五 虚偽又は不正の事実に基づいて第3条第1項の許可(中略)を受けた者
2 前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
〔建設業法違反と建設工事の請負契約の効力〕
なるほど、結構重たい罰則となっていますね…。では、そのような建設業法違反をして建設業を営んだ者と建設工事の請負契約を締結してしまうと、その契約の効力自体にも影響が出てしまうのでしょうか。
いえ、違反行為があった場合であっても、基本的には、建設工事の請負契約の効力自体は有効のままです。
しかし、刑事罰が科されているようなことがあった場合ですよ。契約の効力には問題がないということで本当に良いのでしょうか。
確かに、抵抗感があるところかもしれませんが、建設業法の許可の規定や罰則の規定は、許可を受ける(べき)者と国との関係について定めたものであって、建設工事の契約当事者の間のルールを直接的に規定したものではないのです。建設業法の許可の規定や罰則の規定は、いわばタテ(縦)の関係のルールということになりますね。
契約当事者間の関係はヨコ(横)の関係だ、ということでしょうか。
その通りです。契約当事者は民間の同士ですから、対等の者ということで、ヨコの関係あるいは水平関係というように言えると思います。
違反行為があっても、建設工事の請負契約の効力には影響がないというのは、法律で決まっていることなのでしょうか。
いえ、法律で明確に規定されているわけではありませんが、東京高等裁判所の裁判例があります。昭和51年5月27日の判決ですが、この判決は、建設業の許可について定めた建設業法の規定について、「行政的立場から取り締ることを直接の目的とするいわゆる取締法規にすぎず、違反行為の私法上の行為までを否定する趣旨と解すべきではない」ものであると述べ、その規定の違反行為があっても、工事請負契約は無効であるとはいえないと判断しました。ですから、違反行為があった場合であっても、基本的には、建設工事の請負契約の効力自体は有効のままということになります。
〇東京高判昭和51年5月27日金融・商事判例510号33頁(抜粋、下線は引用者)
「控訴人は、被控訴人とN通商との間の本件工事請負契約は建設業法の諸規定の禁止に違反して無効であることを主張し、これを理由に同契約が被控訴人と控訴人との間に効力を生じたものとしてその工事代金の支払いないしは不当利得に基づく返還の各請求を主張するところ、建設業法によると、建設業を営もうとする者は、その営業の規模に応じて建設大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならない(同法3条1項)ものとされ、これが規定に違反して許可を受けないで建設業を営んだ者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(中略)こととなっているけれども、(中略)前記法条〔※〕は建設業を無許可で現実になされること自体を行政的立場から取り締ることを直接の目的とするいわゆる取締法規にすぎず、違反行為の私法上の行為までを否定する趣旨と解すべきではないから被控訴人とN通商との間の本件工事請負契約は前記法条に照らし無効であるとする控訴人の主張は理由がない。」
※「前記法条」とは建設業法3条1項のことを指している。
そうなんですね…。どのような違反行為があっても、常に建設工事の請負契約は有効ということなのでしょうか。
いえ、限られた場合ではありますが、例外的に、契約が無効とされる場合があると考えられます。建設業法違反が問題となった判例ではありませんが、重大な建築基準法違反があった事例について、最高裁判所は、平成23年12月16日の判決で、建物の建築が「著しく反社会性の強い行為」であり、建物の建築を目的とする請負契約が「公序良俗に反し,無効であるというべきである」と述べました。ですから、問題となる法律が建設業法の場合であっても、例えば多数の規定に違反しているなど、あまりに建設業法の違反行為が重大であり、酷すぎるといえるような場合には、民法90条の公序良俗の規定に違反することになり、建設工事の請負契約が無効とされる場合もありえます。
民法90条ですか。民法というと、先ほどの話だと、つまり、タテの法律ではなくて、ヨコの法律の問題となるということですかね。
そのとおりです。民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と規定しています。もともと「公の秩序」(「公序」)とは国家秩序を指し、「善良の風俗」(「良俗」)とは、性風俗を指すと考えられてきましたが、次第に、「公序良俗」が「社会的妥当性」を指すものとする考え方が有力になってきました1。いわゆる妾契約や賭博のために借金をする契約などが公序良俗違反であるとされ無効となる契約の典型だと言われています2が、建設業法に違反する行為があまりにひどいような場合にも、社会的妥当性を欠き、公序良俗違反となると考えられます。タテの法律(建設業法)の違反の積み重ねが、ヨコの法律の規定(民法90条)に影響することになる、ということです。
〇最二小判平成23年12月16日判例時報2139号3頁(抜粋、下線は引用者)
「本件各契約は,違法建物となる本件各建物を建築する目的の下,建築基準法所定の確認及び検査を潜脱するため,確認図面のほかに実施図面を用意し,確認図面を用いて建築確認申請をして確認済証の交付を受け,一旦は建築基準法等の法令の規定に適合した建物を建築して検査済証の交付も受けた後に,実施図面に基づき違法建物の建築工事を施工することを計画して締結されたものであるところ,上記の計画は,確認済証や検査済証を詐取して違法建物の建築を実現するという,大胆で,極めて悪質なものといわざるを得ない。加えて,本件各建物は,当初の計画どおり実施図面に従って建築されれば,北側斜線制限,日影規制,容積率・建ぺい率制限に違反するといった違法のみならず,耐火構造に関する規制違反や避難通路の幅員制限違反など、居住者や近隣住民の生命,身体等の安全に関わる違法を有する危険な建物となるものであって,これらの違法の中には,一たび本件各建物が完成してしまえば,事後的にこれを是正することが相当困難なものも含まれていることがうかがわれることからすると,その違法の程度は決して軽微なものとはいえない。Xは,本件各契約の締結に当たって,積極的に違法建物の建築を提案したものではないが,建築工事請負等を業とする者でありながら,上記の大胆で極めて悪質な計画を全て了承し,本件各契約の締結に及んだのであり,Xが違法建物の建築という被上告人からの依頼を拒絶することが困難であったというような事情もうかがわれないから,本件各建物の建築に当たってXが被上告人に比して明らかに従属的な立場にあったとはいい難い。
以上の事情に照らすと,本件各建物の建築は著しく反社会性の強い行為であるといわなければならず,これを目的とする本件各契約は,公序良俗に反し,無効であるというべきである。」
※「前記法条」とは建設業法3条1項のことを指している。
〔建設業法違反と不法行為〕
ところで、建設業法違反があった場合に、契約が無効にならなくても、不法行為があったということにはならないのでしょうか。
はい、不法行為となる場合は一応ありえます。とはいえ、関係する裁判例に照らしますと、不法行為が成立する場合は、かなり限定されていると考えられます。
法律では規定がないけれども、裁判例があるということですね。
そのとおりです。東京地方裁判所は、平成27年11月10日の判決で、「建設業法上の許可を受けることが必要であるにもかかわらず,これを得ないまま,そのことを説明せずに,本件契約を締結し,本件工事を行ったことは不法行為に当たる」か、という問題点(争点)について、不法行為が成立しうるのは、「違反した規定の趣旨・目的,違反の態様・程度に加え,建築工事の規模,その服する法的規制,結果等の諸事情を考慮して,違反の程度・態様やそのもたらす影響が重大であって,社会通念上,財産的損害が填補されてもなお精神的損害を被ることが相当と認められる場合に限られる」と述べています。
さまざまな事情を検討して、重大な違反があれば、不法行為となる場合もあるということですね。
はい、不法行為に基づく損害賠償を請求できる場合はかなり限られているといえると考えられます。
〇東京地判平成27年11月10日LEX/DB文献番号25532719(抜粋、下線は引用者)
「本件工事は,被告が従前から継続的に行っていた内装業務の一環として行われたものと考えられるから,被告が『軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者』に当たるということはできず,被告が,建設業の許可を受けることなく,本件工事を営業として行ったことは,同法3条1項に違反する疑いがある。
イ しかし,建設業法が発注者の保護をその目的の一つとしていること(同法1条)を考慮しても,同法は,その目的を達するために種々の規制等の措置を講じており,同法の目的はこれによって果たされることが本来予定されているというべきであって,同法3条1項に違反して建設工事請負契約を締結し,その施工を行ったことが,直ちに法律上保護された利益を侵害するものとして民法上の不法行為を構成するものとは解されない。発注者(請負契約の注文者)の財産上の利益は,請負人に対する債務不履行責任(瑕疵担保責任を含む。)に関する規定や,施工者が建物の基本的安全性を損なう瑕疵を生じさせた等の場合には不法行為が成立することとなること(最高裁判所平成19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁)によって保障されているのであり,建設業法に違反した行為が行われたことがこれとは別個に不法行為を構成し,財産的損害とは区別された精神的損害が賠償されるべき場合があるとしても,それは,違反した規定の趣旨・目的,違反の態様・程度に加え,建築工事の規模,その服する法的規制,結果等の諸事情を考慮して,違反の程度・態様やそのもたらす影響が重大であって,社会通念上,財産的損害が填補されてもなお精神的損害を被ることが相当と認められる場合に限られるものと解される。
ウ これを本件について検討すると,建設業法3条1項は建設業について許可制を導入し,同法は,建設業を営む者の基準等を定めているが(同法7条,15条等),同法が建設業を許可制とした趣旨・目的が,もっぱら発注者の保護を図ることにあると解することはできず,それは,下請業者の保護を含め,建設業の健全な発達といった一般的公益の確保等を含む複合的なものであると解される。また,本件契約が建設業法3条1項ただし書に定める『軽微な工事』に当たらないことは前示のとおりであるが,超過した金額は約38万円と比較的軽微である上,被告が,契約金額が500万円を超える工事を継続的に受注していたといえるかは明らかとはいえず,仮に被告が建設業法3条1項に違反していたとしても,その程度が重大であると評価することはできない。本件工事は,住宅その他の建築物の新築工事などとは異なり,比較的狭小な店舗の内装工事であって,建築基準法上,建築確認を要するものとはいえず,多数の下請け業者等が関与しているものであるとも考えられない。本件工事の一部に瑕疵があったことは前示のとおりであるが,これによって生命や健康を害する事態が生じ,又は本件店舗の営業が長期にわたって不可能な状態であるというほどの事情は窺われない。
エ 以上によれば,他方で,前記のように本件工事を営業として行うためには建設業の許可を得る必要があると考えられることや,それにもかかわらず被告は原告に対してこのことや被告が建設業の許可を得ていないことを説明していないことなどの事情を考慮しても,本件では,被告による建設業法違反の程度・態様やそのもたらす影響が重大であって,社会通念上,財産的損害が填補されてもなお精神的損害を被ることが相当であると認めることはできない。」
最後に確認ですが、建設業法違反があった場合には、契約がなお有効であるという場合であっても、あるいは不法行為が成立しないという場合であっても、建設業法上の罰則が免除されるということではないんですよね。
はい、ここでは、ヨコの法律の関係(民法上の法律関係)がタテの関係(建設業法上の罰則規定の適用関係)に影響をすることはない、と考えられます。建設業法違反があった場合には、建設業法上の罰則が規定されうる、ということになります。ただし、違反行為があった場合に常に刑事罰が科されるというわけではありません。
なるほど、建設業法違反と建設工事の請負契約の効力や、不法行為の成否のポイントがよくわかりました。
何よりです。またいつでもご相談ください。
1 大村敦志『新基本民法1 総則編 基本原則と基本概念の法 第2版』(有斐閣、令和元年)85頁参照。
2 大村・前掲書籍85頁参照。