努力義務とは? 違反・守らないとどうなる?法的拘束力や罰則、契約書など解説
努力義務とは、一定の事項について努力しなければならない、という義務をいいます。
法的義務が定められている規定と違い、違反にはならないものの、努力を怠り問題が起きた場合には、行政指導を受けたり損害賠償を請求されたりする可能性があるのです。
この記事では、努力義務の概要や種類、ビジネスで使われている事例などを詳しく紹介します。
努力義務とは
ここでは、努力義務とはなにか、概要や種類について解説します。
努力義務とは
努力義務とは、法律上の条文において「〜するよう努めなければならない」「〜努めるものとする」といった形で表される義務を指します。
法律の条文には「〜しなければならない」などという表現により法的義務を定める条項が多くありますが、それとは異なります。努力義務は、違反した場合でも何らかの法規制の処罰対象になるわけではありません。
これに対して、刑法や道路交通法など法的義務が規定されている事項に違反すると処罰の対象となることがあります。
努力義務規定の条文
実際に、努力義務規定に該当する内容を確認していきましょう。
例えば、労働基準法の中にも、努力義務規定が存在します。労働基準法第1条には、以下のように記載されています。
第1章 第1条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
②この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
参照:労働基準法
先述したように、「~するよう努めなければならない」と規定されている部分が努力義務です。
努力義務の種類
努力義務には「訓示的な規定」と「具体的な努力を求められる規定」という2種類が存在するとする考え方があります。
訓示的な規定とは、法律の基本理念や目的を示し、その方向性に沿った努力を促すものです。
これに対して、具体的な努力を求められる規定は、該当する事項を法的義務とする内容での法規制の立法化について立法関係者の合意が得られなかった、または立法化が時期尚早であると判断された場合に採用されることがあります。
法的義務・配慮義務との違い
労働法の中には、努力義務のほか、「法的義務」や、「配慮義務」に該当する内容があります。ここからは、努力義務とそれぞれの違いについて解説します。
法的義務
法的義務とは、法律や契約書などの条文に、ある特定のことを「~しなければならない」「~してはいけない」といった強い表現が用いられているものです。
例えば、法律で「正社員と契約社員の双方に食堂を利用できる機会を与えなければならない」と定めてあれば、待遇にかかわらず同じ条件で食堂を利用できるようにしないと法違反となります。
法的拘束力が強く、原則罰則規定があるものが義務で、法的拘束力が弱く、罰則規定のないものが努力義務です。
配慮義務
配慮義務とは、法律や契約書などの条文に「~するよう配慮しなければならない」「~するよう配慮するものとする」と定められたものです。
例えば、法律で「正社員と同様に契約社員にも食堂利用の機会を配慮しなければならない」と定めてあるとします。
この場合、同条件で利用させる必要はありませんが、利用できるような具体的なアクションをとる必要があります。
このように、法的拘束力が弱いため、原則罰則規定はありませんが、なんらかの具体的な行動をとる必要がある点において、強制力は努力義務よりやや上であると言いやすいことが多いと思われます。
努力義務に関する契約書について
努力義務が契約書に定められることがあります。契約書は、契約当事者間で取り決められた内容を、証拠として残すための書類です。そのため、契約書内の努力義務は、契約書における努力義務規定を見ることで確認が可能です。
契約で締結された努力義務は、あくまで努力を求めるのみで強制力はありません。したがって、原則努力義務違反をしたからといって契約を解除されるような制裁は受けません。
努力義務に違反・守らないとどうなる?
努力義務には基本的に法的拘束力がなく、違反をした場合でも法令上罰則はありません。契約書上も違反がある場合の制裁条項は定められないのが通常です。
しかし、しなければならないと定められている努力を怠ったり、努力義務とは正反対の行動をしたりする場合は、相手方から、努力義務違反に関して損害賠償を請求される可能性があります。
例えば、努力を怠ったことが原因で第三者が損害を被った場合には、その努力義務の内容によっては、第三者から損害賠償請求を受けることが考えられるでしょう。
努力義務違反による罰則は通常考えられないものの、このように法的リスクに発展する可能性があるため、努力義務の遵守は重要です。
ビジネスシーンで努力義務が課されている制度事例
ここでは、ビジネスシーンで努力義務が課されている制度の事例について紹介します。
勤務間インターバル制度
勤務間インターバル制度は、労働者の健康と生活の質を守るために設けられた制度です。労働時間等設定改善法により、企業への導入が努力義務として課されることになりました。
この制度では、1日の勤務が終了した後から翌日の勤務が始まるまでの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保することが求められます。
例えば、当日の仕事が終わらずに残業をしたケースでは、超過した分を翌日に回して対応するか、翌日の始業時刻を遅らせるかする必要があります。
就業機会確保
就業機会確保の努力義務とは、2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法により、企業に課せられたものです。
70歳までの定年の引き上げや定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入などが努力義務となっています。
ストレスチェック制度
ストレスチェック制度は、2015年12月1日から改正労働安全衛生法が施行されたことにより、すべての企業で義務づけられた制度です。
しかし、常時雇用している労働者が50人以上の事業場のみ義務化されており、それ以外は努力義務とされています。
労働者の心理的な負担を確認し、医師の意見をもとに作業内容の変更や労働時間の短縮をする必要があります。
日常生活でも見かけられる努力義務の事例
最近話題となった身近な努力義務規定としては、新型コロナワクチン接種と自転車乗車時のヘルメット着用が挙げられます。
それぞれが、具体的にどのように規定されているのか見てみましょう。
新型コロナワクチン接種
近年の感染症流行の際には、努力義務という言葉をよく耳にしました。予防接種法上では、努力義務として「ワクチン接種を受けるよう努めなければならない」と規定されています。
そのため、ワクチン接種は強制ではなく、あくまでも本人や保護者が有効性や安全性を考慮して接種するかどうかを決めることが可能です。接種しなくとも、罰則はありません。
自転車乗車時のヘルメット着用
近年、道路交通法が改正され、自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務化されました。これによって、以下のような内容が追記されました。
- 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるように努めなければならない(第1項)
- 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるように努めなければならない(第2項)
- 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない(第3項)
上記の例でいうと、守らなかったとしても罰則・罰金はありませんが、自転車の運転者と同乗者はヘルメット着用に努める必要があります。
努力義務についてのまとめ
努力義務規定は、法令において「〜するよう努めなければならない」「〜努めるものとする」といった形で設定される規定を指します。これは法的な義務ではなく、違反しても罰則が科されることはありません。
しかし、努力義務規定が法改正により将来的に義務規定に変わることもあり得ますし、所定の努力をしていたとの説明ができるよう、規定の内容に沿った努力をすることが重要です。