総務の仕事。「社内報。経営者登場企画」
総務から会社を変えるシリーズ
トップメッセージは伝わりにくい
前回は社内報の作り方について記しました。その社内報の中で最も料理が難しく、また読ませるのが難しいのが経営者登場企画、トップメッセージです。しかし、コロナ禍によってつながり感の欠如が生じている中、そしてリアルな場が減少している中で、トップメッセージは欠かすことのできない組織の求心力となります。今回は、伝えるのが難しいトップメッセージについて、その料理の方法を紹介していきましょう。
トップメッセージはなぜ伝わりにくいのか? そもそも、一般社員と経営者では物事を見る視点が異なるのは当然です。どちらが良い悪い、ということではありません。経営者が会社全体や業界全体を長期的な視座で考えざるをえない一方で、一般社員は目の前の世界、いま関わっているプロジェクトに考えをフォーカスさせがちです。そのため、 トップメッセージを聞いたときの大方の反応は、「言っていることは分かる。で、私たちは何をしたらいいの?」という総論賛成、各論イメージが湧かない、といったものではないでしょうか?あるいは、そもそも何を言っているのかすら分からない、という反応かもしれません。
「個別最適」で日々過ごしている社員に対して「全体最適」という視点で伝えたとしても、理解不能なのは致し方ないかもしれません。では、どうしたら良いのか? 「コミュニケーションは相手により成立する」。これがコミュニケーションの大原則です。だとしたら、相手である社員目線でどこまで伝えられるかがポイントとなるのです。
最も伝わるコミュニケーションスタイルとは
まず考えて欲しいのは、最も伝わるコミュニケーションの形態です。当たり前のことですが、1対1のフェイストゥーフェイスの会話です。その場合は、理解しているかどうか、相手の反応を見ながらメッセージを伝えることができます。相手が理解できていないと見れば、相手が理解できる目線に合わせていくでしょう。つまり、この1対1のフェイストゥーフェイスの会話にどれだけ近づけることができるかが重要なのです。
企業におけるトップメッセージの伝え方には、大きく分けて二つあります。社内コミュニケーションメディアで伝えるケース。例えば、社内報でのトップメッセージ企画。Web社内報での社長ブログ。年頭挨拶の画像を映像社内報で掲載する。このように社内コミュニケーションメディアの1企画としてメッセージを掲載するケースがあります。もう一つは、経営トップが直接メッセージを伝えようとするリアルな場でのコミュニケーション。例えば、キックオフミーティングや経営会議などの社内の公式イベント。タウンホールミーティングや車座といった、社長と社員が直接コミュニケーションする場。もう少しくだけた食事会やオフサイトミーティング的な集まりの場。そのようなリアルな場でのメッセージの発信があります。社内コミュニケーションメディアにしろ、リアルな場にしろ、先に記した1対1のフェイストゥーフェイスの会話にいかに近づけていくかがポイントです。
経営者には語ってもらう
まずは社内報、Web社内報でのトップメッセージの伝え方です。ポイントは「書かせるな、語らせろ」です。トップによる寄稿は避けた方がいいでしょう。文章によるメッセージの伝達は、どうしてもトップ目線となってしまうからです。さらに、トップの寄稿文をリライトすることは、心理的に難しいのではないでしょうか。読みにくい、理解しにくい内容であっても、そのまま掲載するしか手がないわけです。
では語らせるとはどういうことでしょうか? 例えば、インタビュー取材、対談、座談会という手法を取ります。誰かを相手に語ってもらうという形態です。社内報編集部によるインタビュー、社員との対談、社員との座談会というパターンです。相手がいれば、先に記したように相手目線に合わせられます。この場合の相手とは、読者ターゲットです。先に記した1対1のフェイストゥーフェイスの会話でのターゲットは一人です。つまり、明確なターゲットを設定しないと、メッセージを発する経営トップも、どこに目線を設定して良いか分からなくなってしまうのです。伝えようと思ったらターゲットを絞ることが最低条件です。逆に言えば、ターゲットを絞って、そのターゲット目線で伝えようとすれば伝わるのです。
ですから、編集部のインタビューの場合であってもターゲットは必要です。ターゲットとなり得る社員を同席させ、その社員に語ってもらうような取材形式にすることで、ターゲット目線での取材となるわけです。対談や座談会は、当然ながらターゲットとする社員を相手方としてセッティングします。
リアルな場での伝達方法
キックオフミーティングなどの公式イベントでのトップメッセージの発信。この場合は、あらゆる階層の社員が参加するので、ターゲットを絞り込むことはほぼ不可能です。このような場では、インパクトのあるキーワードを使い、とにかくメッセージを絞り込むことです。そのキーワードさえ刷り込めれば大成功でしょう。そして、そのキーワードを「自分事化」してもらうべく、少人数の会合でフォローしていくのです。
タウンホールミーティングや車座といった、トップと現場社員が直接コミュニケーションを取れる場を作り、先のキーワードについて再度会話していくのです。そのキーワードに込めた思いを、相手の目線を意識しながらトップに語ってもらい、各自がどのようにそのキーワードを理解しているかをトップに話す。そのようなやり取りをしていく中で、トップもどのように表現したら伝わるか、理解されるかが把握できるはずです。このような場は、トップメッセージを伝えるだけでなく、トップ自身も伝え方を勉強できる有益な場となるのです。
このような場は、社員の働いている現場で行うことが重要です。間違っても社長室や応接室で開催しないことです。呼ばれた方は萎縮してしまい、本音で話すことはないでしょう。社員の本拠地で、ホームグラウンドで開催すべきです。また、ある会社では、中間管理職をその場から外しているそうです。上司の顔色を見ながら話すことをなくすためです。本音を引き出すにはそのような設えも必要です。トップも本音を開示することで、社員も本音で答える。そのような本音で語り合える場により、少しずつ理解者を増やしていく。確実に伝えようと思ったら、人数を少なくし、回数を重ねることが大切です。つまり、どれだけ1対1のフェイストゥーフェイスの会話に近づけるかが結局は大事となってくるのです。