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「持続可能な経営」(Sustainable Development Management)を目指して!

著者:高岡法科大学 教授  石川啓雅

「持続可能な経営」(Sustainable Development Management)を目指して!

はじめに

 SDGsという言葉がある。

 あらためて説明するまでもないが、これは国連が世界各国に提示したSustainable Development Goalsの頭文字をとったもので、「持続可能な開発目標」と訳される。

 

 20159月の国連総会で採択され、2030年までに実現しようということで、以下のような17目標が掲げられている。

 ①貧困をなくそう (No Poverty)

 ②飢餓をゼロに (Zero Hunger)

 ③人々に保健と福祉を (Good Health and Well-Being)

 ④質の高い教育をみんなに (Quality Education)

 ⑤ジェンダー平等を実現しよう (Gender Equality)

 ⑥安全な水とトイレを世界中に (Clean Water and Sanitation)

 ⑦エネルギーをみんなに、そしてクリーンに ( Affordable and Clean Energy)

 ⑧働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth)

 ⑨産業と技術革新の基礎をつくろう (: Industry, Innovation and Infrastructure)

 ⑩人や国の不平等をなくそう (Reduced Inequalities)

 ⑪住み続けられるまちづくりを (Sustainable Cities and Communities)

 ⑫つくる責任つかう責任 (Responsible Consumption and Production)

 ⑬気候変動に具体的な対策を (Climate Action)

 ⑭海の豊かさを守ろう (Life Below Water)

 ⑮陸の豊かさも守ろう (Life on Land)

 ⑯平和と公正をすべての人に (Peace, Justice and Strong Institutions)

 ⑰パートナーシップで目標を達成しよう (Partnership)

 (出所:持続可能な開発のための2030アジェンダ)

こうした目標が掲げられるようになった背景には、経済のグローバル化によってますます拡がる経済格差、経済格差の拡大に起因する人間らしい生活を営む権利の不平等、COの排出が原因とされる地球規模での気候・気象変動、マイクロ・プラスチックの海洋流出による環境汚染にみられるような環境問題等々があり、われわれが当然としてきた社会経済活動が立ち行かなくなった、今までと同じようなやり方では社会を維持できなくなったということが明確に意識されるようになったことを意味する。


「持続可能な経営」をめざして

 以上のような状況を、企業経営に引き付けて解釈するなら、経営に「持続可能であること」が求められるようになったということだ。

 しかしながら、「言うは易し行うは難し」でこれをどう日々の事業活動や業務のなかで実践していくかは大変難しい。何せグローバルはもちろんのこと地球規模での問題にもコミットしていくということであるからスケールが大きい。自らの経済活動がどのような形態と規模で影響が及んでいくのかについて、企業規模が小さくなるほど可視的でなくなるし、日々の業務の消化に手一杯というところも少なくないはずである。ましてや今現在の状況でいうと、コロナでそれどころではないというというのが実情だろう。自らの企業自体が持続可能でないとSDGsもない。

 したがって、求められているのは、SDGs自体を目標とするのではなくて、結果としてSDGsの実現につながるような動きをどう経営の中に「埋め込んでいくか」が求められている。


生産性の向上をどう考える?

 そこで、まず手始めに「生産性」の問題を考えてみたい。

 この問題は働き方改革や少子高齢化との関連で話題にされることが多いテーマである。人手不足、長時間労働、過重労働の問題を解消するためには、労働時間の規制もさることながら、所定内労働時間で仕事を終えるようにする生産性の向上も必要だということである。

 そのためには業務を効率的にということになるのだが、この効率的とされる状態は必ずしも「持続可能」となっていない可能性がある。

 

 業務の改善のために、業務を構成する作業のひとつひとつがどのような手順で行われているのかを整理して、不要な待機時間をみつけたり、不要な作業や手続き(会議を含む)を削ったりして、別の作業をする時間をつくったりという「仕事調べ」(資源調査)が行われることが多い。しかし、仕事調べは往々にして「プロセスの省略」ありきが念頭にあるので、「何かを決める場になっていない」からという理由で必要なものまでも削ってしまう可能性がある。何かを決めるわけでもなく、会議自体が目的となってしまったムダな会議ではあるけれども、その場に重要な資料が出ていたりする会議がある。なので、その会議を不要なプロセスとして省略する場合、そこで飛び交っている情報の整理も必要なのであるが、その場に出ていた重要な情報もゴソっと抜け落ちてしまうことが往々にしてある。こうなると、仮に意思決定がスムーズになされたとしても、後々どこかで不都合が出てくる可能性が出てくることを否定できない。リカバリーの作業が必要になり、結果としてムダな作業が発生し、職場のどこかに負荷がかかることはもちろんのこと、経営としても非効率となる。このことは、SDGsのひとつである「働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth)」も果たされないことにもつながっていく。

 それ故、SDGsの実現につながるような動きをどう経営の中に「埋め込んでいくか」を考えるとき、生産性をあまり意識しすぎないようにすることが必要だ。ひとつひとつの作業の意味理解、相互の関係を検討しながらの業務改善でないと、いい結果にはつながらない。


生産性向上と分業―役割分担を考える―

 ところで、なぜ作業の意味理解、相互の関係を検討することが必要なのかというと、大抵の業務は組織的に行われるのが常である。自分自身の領域で完結できるような仕事はそうそうあるものではない。つまり、仕事というものは、ある種の作業分担なり役割分担によって行われる。ちょっと難しく言うと「分業」である。分業とは業務を行う際の組織そのものであり、役割分担にほかならない。単純労働を手分けしてやるのも組織的作業である。

生産性の向上も含めて、仕事の成否、作業者が過度な負担を感じることなく、業務を遂行できるかは、どのような組織であるかにも左右される。

役割分担や責任・権限があいまいな役割分担ではうまくいかない。が、役割分担や責任・権限をあまりにも決め決めでやってもうまくいかない。役割分担が必要だとしても、仕事の内容によっては明確に分割できないものがあり、そうかといって手分けをしないわけにはいかない業務は意外と多い。仕事にはグレーゾーンが付きものである。仕事の内容が企画、開発・設計といった非定型なものになればなるほど、そのような傾向が出てくる。したがって、組織づくりには、そうしたグレーゾーンを処理するインター・フェースが必要になってくる。

このインター・フェースは、明確に役割分担をしてつなぎあわせればいいということでは済まないところにその必要性が求められるものであるから、ルールの構築によって備わるものではない。作業の当事者や職場の雰囲気によってつくられる。

こうした主体や職場の雰囲気をつくれるかどうかが、結果として、生産性向上と労働条件の改善につながり、結果として「持続可能な経営」、そして「持続可能な開発目標」の実現につながっていく。

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著者プロフィール

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石川啓雅

高岡法科大学 教授

岐阜大学大学院連合農学研究科修了。建設コンサルタント会社勤務を経て大学教員へ。専門は経済学。中小酒造業を中心に地域産業の活性化に関する研究を行っている。

著書に、「ワークショップ・エコノミーの経済学―小規模酒造業の経営分析―」高岡法科大学紀要32号(2021年)、「現代地方中小酒造業における生産・労働に関するモノグラフ―ワークショップ・エコノミー論序説―」高岡法学39号(2020年)等。

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