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「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その⑦―

著者:高岡法科大学 教授  石川啓雅

「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その⑦―

売上のもつ意味-新型コロナウイルス感染症拡大で浮き彫りになった基本問題-

企業経営にとって、新型コロナウイルス感染症のまん延で何が問題だったのかというと、前例にない感染防止対策を迫られたこともあるが、一番の問題は売上の問題であろう。

自分の財産だけでやるにしろ、他人の財産を使うにしろ、企業経営は資本の前貸しとして行われる、財産を投じて、マーケットが要求する財・サービスの生産を行う。当たり前の話であるが、まず費用が発生する。財産が減るわけであるから、それを回収しなければならない。回収は財・サービスの販売、費用に見合う売上を確保することによって行われる。

しかも、ただ回収すればいいというのではない。利益をともなわなければならない。

確かに、費用を回収すれば、事業に投じた財産を維持し、事業も継続できることになる。
しかし、市場での競争を前提とする限り、それは事業継続の必要条件ではあっても、十分条件ではない。というのは、前年並みの売上を見込んで計画を立てたとしても、計画通りの売上を確保できる保証はないからである。

「成長の限界」が指摘されているなかで言うのは憚られるが、国民経済レベル(マクロ)の話はともかく、個別企業レベルの話としては、簡単に成長を放棄するわけにはいかない。そもそも、市場競争がなくとも、様々なリスクがあるわけだし、経済活動には余剰の確保が求められる。いずれにせよ、売上の維持拡大が経営の基本である、


「経営分析」考-経営指標の多くは「売上」を中心に組み立てられている-

売上は経営を左右する重要な要素である。

人によっては利益が重要だという意見もあるだろうが、その利益、すなわち収益を左右するのは売上である。重要なのは利益とすると、費用も重要な要素になってくるが、費用は財・サービスの生産に投じられ0にはならない。したがって、利益が重要だというときも、最終的には売上の話になってくる。

売上の減は「稼ぐ力」の低下を意味し、元手の回収を悪化させる要因でもある。そして、売上の減は損益分岐点売上高比率を低下させ、不況時の耐性(抵抗力)を低下させる。売上が費用を下回れば「元手を回収できていない」ことを意味し、CFベースで赤字であれば、事業期間に投じた「現金を回収できていない」ということなので現金資産の減少を意味する。
さらに、そうした状況は、資産・負債の構成やバランス、資金循環(資金の調達と支出)の歪みへとつながっていく。

したがって、経営分析を行う際の「指標」とされているものの多くは、売上高を分母や分子にして組み立てられている。


生産性「指標」をどう考える?-「必要性」は言えても中身が出てこない-

が、生産性指標だけはちょっとメンドくさい。

生産性は付加価値生産性とされ、

労働生産性 = 付加価値 ÷ 人数・時間

として示されるが、これを分解すると、

労働生産性 = (売上-物財費) ÷ 人数・時間

 

となる。

ということは、広義の意味で企業所得であり利益でもある付加価値には、財・サービスの販売価格とか売れ行きだとか物財費の単価のように、流通過程(販売・購入の過程)のなかで決まり、経営にとって与件となるものも含まれるわけである。

そこで、経営内部でコントロール可能な要素を抜き出してみると、財・サービスの生産量と財・サービスの生産に使用する物財や設備や機械等の消費量ということになる。

したがって、生産性を上げるためには、物的生産性の引き上げと使用する物財の「節約」が必要になる。

 

が、大きな問題がある。

物的生産性の引き上げにしろ、物財の節約にしろ、それは販売状況や見通しに規定されるのであって、それ単独で決まるわけではないという点だ。
そもそも、つくっても売れない、客がこない、仕事がない時に、少ない人数や短時間で多くのものを生産しても意味がないわけだし、使用する物財の量も財・サービスの仕様によって決まっているわけだから、その節約にも限度がある。

かくして、生産性の上昇が必要だというときに、それはどのような意味なのか、どのようなことをするべきなのか、その中身をよく考える必要がある。

生産性は収益を左右する要素である。分子である付加価値はもちろんのこと、分母である人数・時間は「人件費」で費用、「投下した資本」であり、生産性は「費用に対する収益」「資本に対する収益」でもあるから、当然と言えば当然ではある。

しかしながら、生産性指標から生産性の引き上げの必要性を指摘できても、それをどうやって実現するか、どのような方向で追求すべきかなのかは、指標それ自体からは出てこない。


大企業と中小企業の生産性格差からみえてくるもの

ところで、生産性が付加価値生産性をもって議論されるという観点からいうと、その格差についても一概にはジャッジすることは難しい。

というのは、分子である付加価値が金額ベースのものであってみれば、市場における企業のポジションというのも関係しているはずであり、生産性格差という「成果指標」をもって企業行動の差とすることはできないからである。それは物的ベースでみても同じである。

ただ、一般的には次のようなことはいえるだろう。

大企業は協業・分業による生産性の向上の恩恵を受けている。
もちろん、資金力があるので設備投資をしたり、高度な情報処理システムを導入したり実装ができることに起因する部分もあるのだが、大企業と中小企業の生産性格差の要因として、生産・労働組織におけるちがいを指摘しないわけにはいかない。大企業の場合、人がいるので分業が可能であるし(手分けをして作業することが可能であるし)、分業が可能であれば、それぞれの事業や業務において専門性を高めることもできるし、研究開発も可能になってくる。
しかし、中小企業にあっては人がいないので、従事者は多くの事業や業務を兼務することになる。こうした状況は、全体を見通すことができるので、従事者のマネジメント能力の向上には寄与するが、専門性の追求や組織としての事業の拡張性という点ではどうしても限界が出てくる。

単純な話で、1人では1人分の仕事しかできないし、異なる業務を同時並行的に行うことはできないが、2人いれば3人分の仕事ができる。異なる業務を同時並行的に行うことができるし、時と場合によって役割を交代することもできる。

したがって、労働力人口が減るなかで生産性を上げなければならないという時、2人→1人の変化に対して、どのような役割分担、分業関係をつくるのかということを考えなければならない。それは、組織のあり様を変えなくてはならないことを意味する。

中小企業をめぐっては、売上の確保と生産性向上のために、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が急務とされているが、以上のような問題の解決とセットで行われることを期待したい。


中小企業の「DX対応」論の陥穽-費用対効果の見極めも必要…

そこで、DXへの対応という点について一言。

新型コロナウイルス感染症の拡大で倒産を余儀なくされた業種には、非製造業、すなわち非物的生産、とりわけ対面式の業種が多かった。具体的には、宿泊業、飲食業、織物・衣服・身の回り小売業、生活関連サービス・娯楽業、飲食料品卸売業、繊維・衣服等卸売業である

で、課題のひとつとして言われているのが、オンラインビジネスの導入・転換であるが、これが必要であるのは一般論や方向性として当然としても、取組みの費用対効果としてどうなのか?これも考えなければならない事柄のひとつである。

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著者プロフィール

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石川啓雅

高岡法科大学 教授

岐阜大学大学院連合農学研究科修了。建設コンサルタント会社勤務を経て大学教員へ。専門は経済学。中小酒造業を中心に地域産業の活性化に関する研究を行っている。

著書に、「ワークショップ・エコノミーの経済学―小規模酒造業の経営分析―」高岡法科大学紀要32号(2021年)、「現代地方中小酒造業における生産・労働に関するモノグラフ―ワークショップ・エコノミー論序説―」高岡法学39号(2020年)等。

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