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【他社事例で学ぶ健康経営】IT系企業の事例:健康経営で長時間労働を見直しへ

健康経営シリーズ

【他社事例で学ぶ健康経営】IT系企業の事例:健康経営で長時間労働を見直しへ

この記事の著者
株式会社月刊総務 代表取締役社長   戦略総務研究所 所長 

働き方改革と健康経営は不即不離の関係

コロナ禍により、デジタル・トランスフォーメーションが促進されている。リモート・ワークを実践するために、リアルのモノ、紙が氾濫していることが足かせとなっているからだ。しかし、コロナ禍以前よりデジタル・トランスフォーメーションは進められており、その際のテーマは働き方改革の実現であった。一方で、長時間労働削減から端を発した働き方改革も、生産性向上実現のための手段でもあった。

健康経営も働き方改革の少し前から大きなテーマとなっており、健康経営銘柄やホワイト500などの認証取得のために多くの企業が実践していた。この健康経営も本質的には、生産性向上が目的である。体調不良、あるいはメンタル不調の状態では満足に仕事もできないし、生産性も上がりはしない。従業員が精神的にも身体的にも万全の状態であって初めて、仕事にもフルスロットルで取り組むことができるのだ。

つまり、働き方改革も健康経営も目指すべきは生産性向上であり、働き方の視点で見たものが働き方改革であり、健康的側面から見たものが健康経営なのである。本コラムでこれから紹介していく事例においては、常に、働き方改革と健康経営がセットとなり効果を上げている点に着目してほしいのだ。繰り返すが、働き方改革も健康経営もあくまでも手段。その先に実現したい世界があって行うものである。その点を常に意識してほしいのである。


時間外労働の削減を目指して

1000名規模のIT系企業。業種柄、残業が多くキツイというイメージから人材採用に苦戦していた同社は、健康経営をテーマに時間外労働削減に取り組んできた。また定着率の問題もあり、IT業界での離職要因の一つとされるメンタル疾患には労働環境が大きく影響されると考え、特に長時間労働削減に取り組むことにした。

一年目に対前年比で20%の削減、二年目には30%、三年目には50%と意欲的な目標を定めた。「やるからには目標を高く」との熱意をもって、経営トップが自ら健康経営推進の責任者となった。毎月、社長と本部長によるディスカッションを実施。時間外労働の削減が進んでいない場合には、厳しく原因を追究し、翌月どれだけ是正されたかを検証していった。そのミーティングの内容は、データとともにイントラネットで公開され、社内での情報共有がされていった。

メンバーの残業削減時間数を部課長の目標として、評価にリンクするようにした。役員による管理職向けの健康経営説明会も開催。特に、なぜ健康経営を推進するのか、その背景が理解できなければ、仕事量が変わらない中で時間外労働削減に取り組むのは難しい。役員が説明して、管理部門としても長時間労働者への状況確認や、本部長への改善依頼などを着実に行っていった。

さらに踏み込んだ施策として、顧客に対する理解促進である。社長名で「弊社社員の総労働時間低減に関するお願い」という協力依頼文書を発信し、役員や本部長が説明に伺い、労働時間の改善の依頼をした。顧客にも同様の課題があり、好意的に受け取ってくれた。


人事制度の新たな取り組みの実践

その他に、半日有休の取得制限の撤廃。従来は年次有休のうち、原則七日を限度として半日に分割しての使用を許可していたが、その制限を撤廃した。もう一つは、出社時間の選択制の実施。9時出社を基本として、7時15分、8時、10時の出社時間を選択できる制度に改定。朝の時間を有効活用して作業効率が上がれば、総労働時間削減につながる。また、顧客の業務時間に合わせて働くといった使い方もできる。

8時出社であれば、16時半に退社することになり、残業を減らそうといってもなかなか動かなかった人も、早い時間に人が居なくなることで、残業削減への意識が高まってくる。目に見えてわかりやすいこの活動は、いい影響を与えている。

企業としては、様々な選択肢を提供し、社員側が自らの働き方を見直しながら、自律的に選択していく。まさに働き方は多様性を実践している事例である。重要なのは、なぜ選択肢を増やすのか、その理由と、それにより何を目指すのか、あるべき姿の提示である。単に制度だけを増やしても、社員としても判断軸が見えない中選択のしようがない。あるべき姿と理由を理解してはじめて、それを自分に置き換え、そして自らの判断で選択していく。人生100年時代、自らの生き抜く力を養うためにも、個々の社員の自律性を涵養する意味でも、しっかりと理由とあるべき姿を提示していきたい。


自社の勝ちパターンを見定める

全社でのノー残業デーも毎週水曜日と金曜日に実施。社内放送で帰宅を促すなど啓発活動を継続している。社員側もこうした取り組みを好意的に受け取り、「健康経営ですから」と帰る人もいる。今後は、社員から健康経営のアイデアを募集し、表彰するような仕組みや、良い取り組みの横展開ができるような仕組みづくりを考えていく。それにより、採用面接の際に、学生から健康経営についての質問が出るようになった。

特段奇抜な施策を実践したわけではないが、当初立てた目標は達成。社員にも「やればできる」という達成感があった。管理部門としても同様に「やればできる」という実感を得た。この実感は大きく、今後、他の課題がでてきても、しっかりと理由とあるべき姿を提示し、そして、その解決のための選択肢を提示していくという、自社の勝ちパターンが使えるのである。

まさに、全社を挙げての取り組みの成果である。最もまずいパターンは、管理部門だけがしゃかりきとなり、しかし、現場がついてこない。結果、取り組みが継続されず、どこかでフェードアウト。そのようなパターンが繰り返されると、いつしか、「笛吹けど踊らず」が社風となり、なにも改善されないことになる。

往々にして、そのようなパターンでは、施策だけが示され、その理由であるとか、目指すべきものが提示されずに、「とにかくこれをしてほしい」の一点張りで、現場としては納得できずに、結果、だれも動かない。

繰り返すが、今回の事例では、施策の背景がしっかりと説明され、トップが本気になって部課長とコミュニケーションを取り、進捗とそのコミュニケーションの内容が現場にオープンになっていた、この点が素晴らしい事例である。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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