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【他社事例で学ぶ健康経営】IT系企業の事例:健康に向けていかに自走させるか、いかに気づかせるか

健康経営シリーズ

【他社事例で学ぶ健康経営】IT系企業の事例:健康に向けていかに自走させるか、いかに気づかせるか

この記事の著者
株式会社月刊総務 代表取締役社長   戦略総務研究所 所長 

健康経営はいかに自走させるかがポイント

ダイバーシティが進展している現在、管理部門の施策を考えるのに必要なキーワードが「個別最適」。従来は、画一的な、そして最大公約数的な施策を実施していた。しかし、働き方の多様化、コロナ禍による働く場の多様化、個々人の働き方も個々人の自律性に委ね、自由に選択できるようになった。

そもそも価値観はそれぞれにより異なり、また、パフォーマンスを最大化する働き方もそれぞれだ。その最たるものが健康状態。それぞれに健康状態も異なり、何か一つ施策を打ったから、全員が健康になる、そのようなものではない。それぞれの健康状態に合った施策を、それぞれが選択できるようにすることが企業としてできることなのだ。

健康経営のもう一つの課題が「自走」という概念。自らが自らの意志で動き出す、その状態を作ることが健康経営には重要となる。健康状態は定期健康診断で把握でき、事業者や管理者が確認し、再検査が必要であれば検査を促す。そのようなデータから明確に不調と分かる場合は、検査をしてもらえれば対処の仕方がある。

しかし、腰が痛い、頭が痛い、目が痛い、など検査では客観的に把握できないものや、気分的な落ち込みのような精神的なものは自覚症状での把握だけであり、本人が「これぐらい大丈夫」と思ってしまえば対処のしようがない。

生産性の観点で言えば、少しでも不調を抱えたままでは、なかなか向上することは難しい。そのため、本人が少しでも不調を感じたら、「この不調を何とかして、仕事に邁進したい。何か方法は無いだろうか」と考えるような動機づけ、意識の変容が必要となる。そうでないと、管理部門が何か施策を打ったとしても活用してもらえない。

この自走する状態を作り出すとともに、さらにその前段階の、自走するための気づきをどのように仕掛けるかが、まさに管理部門、健康経営主管部署の腕の見せどころである。今回は、気づきを提供した事例を紹介する。


富士山に登るなら、どこから登ってもいい

まずは、健康に全く興味のない人たちをどうやって動かしていくか、健康に興味を持ってもらうかについていろいろと試してみた。健康によさそうな食物を社員食堂で提供したり自販機に備えてみたり、健康器具を置いたエクササイズエリアや仮眠室を設置してみたり。気がついたら日常の中に健康的なものが入り込んでいる状態を作っていった。

こうした意識変容の取り組みが進むと、姿勢を正すと腰が痛くなくなることを実感した社員が、健康に興味を持ち始める。そういうタイミングで、専門家によるセミナーを開催すると、進んで参加してくれる。これにより意識が健康に向き始め、行動も変化してくる。しかし健康に意識が向き始めても、健康というカテゴリーの中においての関心事は個人で異なる。そこで、先に記した個別最適というキーワードが登場してくる。

つまり、専門家によるセミナーも、一つの種類だけの開催ではなく、さまざまなテーマで開催することが重要となる。ストレッチ、食べ物、ストレス解消、ウォーキング等々、それぞれの関心事にヒットするように多種多様なコンテンツを提供し、どこかでさらに踏み込んで健康について学ぼう、行動を変えようと思うように仕向けるのだ。

健康になって生産性の高い仕事をして成果を上げることが最終目的だ。富士山の頂上に到達する登山道は、いくつもある。山梨側からでも、静岡側からでも、頂きを目指すのであればどこから登っても良いのである。ただ、富士山に登ろうと思ってもらえるか、この登山道であれば登りたいと思ってもらえるよういかに仕向けるか、ここが健康経営の最も大事なところなのだ。


いずれは健康経営推進部署は無くなって良い

また、健康経営の実践には、社風や文化が非常に重要だ。健康を強制したり、一つの考え方を押しつけることをしていけない。繰り返すが、各自の価値観に則って、各自の健康状態に合わせて、各自が選択できるように仕向けるのだ。各自が自発的に選べる健康的な選択肢をいろいろと用意することが重要だ。

それを進めるにあたっては、社風や文化に沿うことが肝要だ。しっかりとロジカルに説明する社風があるのであれば、そのように説明してあげる。ノリがいい文化であれば、ゲーミフィケーション的に進めるといったように、スムーズな進め方を意識したい。

注意したいのは、自分のライフスタイルが、健康経営という名の下に変えられてしまうことを好まない人もいるということだ。管理部門が主体となって、「従業員のみんなが健康になれるよう環境作りはするけれども、たばこを吸うなとは言わないし、インスタント食品の自販機もなくしませんよ」と発信することを忘れてはいけない。あくまでも、各自の判断に基づいた、各自が楽しく仕事ができるように環境を整えているのだ、という姿勢を示したい。

そして理想を言えば、健康経営を推進する部署は、いずれ無くなっていくようにしたい。冒頭に示したように、各自が自走できるようになり、各自で健康的な活動を進めてもらえれば良い。それがあるべき姿である。誰かに指示を受けるのではなく、各自が各自の方法で健康を維持、増進していくのが理想である。そのきっかけを作ってあげて、その方法を示してあげて、後は各自が行う。それさえできれば、常にサポートする必要はなくなり、自走の世界が実現できる。

さらに言えば、健康は結果であり、健康経営の本来の目的は、各自が成果を上げること、幸せなビジネスライフを送ることであり、健康になること自体を目的としないことである。健康であってもパフォーマンスが上がらなければ意味がない。

働き方改革のテーマである生産性向上も同様に、成果を上げるための生産性向上であり、生産性向上そのものが最終目的ではない。このように、管理部門ではその時々にテーマとなるキーワードが出現するが、それが目的なのか、手段なのかをしっかりと見極めることだ。手段が目的化することが、ことのほか日本においては多くみられる。

健康経営は、従業員の自走を促しつつ、成果の実現と幸せなビジネスライフを目的とする。そのようにしっかりと腹落ちさせて、実現に取り組みたいものだ。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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