新規事業につながるイノベーションが起きる組織と起きない組織 その3
「なぜ当社では新規事業が育たないのか?!」についての3回目のコラムです。
第1回では、新規事業開発に携わる人たちの処遇や評価などの人事面について考えました。そして第2回では、彼らが活躍できる組織とはどのようにあるべきか?についてお話ししました。
最終回の今回のテーマは、トップです。不透明な新規事業開発にトップがどのように向き合えば良いのか?について一緒に考えていきましょう。
はじめに
近年、国や自治体が盛んに“新規事業開発”の後押しをしている様子が、各種の報道や白書などからうかがえます。
また、コロナ禍にあってもたくさんのスタートアップ向けイベントや、SDGsなど社会課題解決ビジネスにまつわるイベントが行われています。
大企業では、オープンイノベーションを進めるための新規事業開発拠点を作り、大企業から開発型ベンチャーまで全方位で接点強化をしています。
一方、中小企業においても補助金制度を活用することで、コロナによって大きく変化した外部環境の下で生き残りをかけた新規事業開発を進めています。
このように日本全体で新規事業開発機運が高まっていますが、みなさんは最近、何か新しいサービスを利用してお金を払った経験がどれくらいあるでしょうか?
ニュースなどで紹介される新しいビジネスは東京に集中していますし、話題のビジネスもその後は一体どうなったかよくわからない。
“成功”と評価されている新規事業開発の現場では一体何が起きていて、“失敗”と評される事例にはどのような原因があり、そしてどんな解決策があるのかについて、みなさまと一緒に考えていきたいと思います。
イノベーションとは
まず、最近ではみんなが知っている“イノベーション”という言葉について考えてみたいと思います。
イノベーションという言葉は1911年に、ヨーゼフ・シュンペーターによって「イノベーションとは、経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義されました。
そして彼は、以下の5つに類型化しました。
- プロダクション・イノベーション
新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産 - プロセス・イノベーション
新しい生産方法の導入 - マーケット・イノベーション
新しい販路の開拓 - サプライチェーン・イノベーション
原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得 - オルガニゼーション・イノベーション
新しい組織の実現(独占の形成やその打破)
日本ではイノベーションという言葉が1958年の『経済白書』に初出し、イノベーションを「技術革新」と翻訳紹介したため、日本では長きにわたりこの認識が定着しています。つまり、1と2の周辺に限定して認識されてきました。
その背景にあるのは、当時の日本には、新技術の発見と技術の革新、あるいは技術の改良が死活的であり重要な時代だったためだと思われます。
その後、日本は、技術立国として高度成長期を迎えるのですが、みなさまもご存知の通り、やや技術面に偏重していたイノベーションは、オーバースペックな商品開発に行きつきました。このため、今となっては、「技術革新」は誤訳だったと批判されています。
最近の“中小企業白書”では、「経営革新」にイノベーションの括弧書きをしていたり、経済白書などでも「新しいビジネスモデルの開拓なども含む一般的な概念」とされていたり、そもそもの意味合いに落ち着いてきています。
イノベーションとは似て非なるもの
私たちは、「イノベーションとは何か新しくて良いもの」と捉えているのではないでしょうか?
そもそも、それが少しずれています。イノベーションとは、連続性がないことなのです。過去からの流れとは無関係に突然生まれるものなのです。何か、イノベーションらしいものを頭に思い浮かべてみてください。
例えば・・・。スーパーコンピュータ、量産タイプの電気自動車、iPhone13、iPS細胞。
いずれもイノベーションとは呼べません。いずれも過去にあったものの進化でしかありません。iPS細胞は発見であり、今後何らかの拍子でイノベーションと関連するかもしれませんが、いまは単なる発見です。
では、私たちの身の回りでこれまでに起きたイノベーションには、どんなものがあるのでしょうか?
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授の楠木建氏によると「進歩では説明できないものがイノベーションになる。イノベーションなのか進歩なのかを判断するのに、程度の大小は関係ない。程度が大きくても『すごい進歩』としか言えないものも多く、程度は小さくてもイノベーションと言えるものもある」とのことです。
具体例を見てみましょう。
例えば、SONYウォークマンは、音楽を持ち歩けるようにしました。
それまで音楽は、家や喫茶店などの室内で楽しむものでしたが、小さくすることでどこでも音楽を楽しめるようにしました。それまでは音質向上のための技術開発が主流でしたが、音質を無視した開発に切り替えたからこそ実現したのでしょう。
また、小型デジタルカメラの登場もイノベーションと呼べるのではないでしょうか?
それまでカメラは非日常の記憶のためにありましたが、デジタルになり小型化したことで日常の記録のための道具になりました。その後、自撮り専用デジカメなるものが登場したことも、あらたなカテゴリを生み出したイノベーションと呼べると思います。
トップが最初に取り組むべきこと
では、このようなイノベーションを起こすためにトップが取り組むべきことには、どんなことがあるのでしょうか?そもそも、このようにイノベーションは“進歩”ではないため、改善や改良、努力などいわゆる通常の企業活動とは一線を画しています。
誤解を恐れずに言うと“普通でない”ことをしなくてはいけません。ですから、もっとも危険な行動には「イノベーション推進本部なる組織体を作って経験豊富な責任者を置く」などがあります。
逆に、普通ではない人を普通ではない場所に集めて普通ではない評価基準や報酬体系などを設定すれば、できていくのかもしれませんが、これまでのコラムで書いたようにそれも簡単なことではありません。
しかし、まったく何のルールもなく放置というのも、簡単にできることでも、一般的な社会人が馴染めるものでもありません。そこで私は、いつもそれらの折衷案を提案しています。
まず原則として、「コンプライアンス上の問題点がなければ、自由な手法で開発をして良し」とします。そのうえで最低限のルールや手法を必要に応じて徐々に設定しましょう。
リソースの観点で整理してみましょう。
まず、人的資源の観点では、自由に考え行動できる人材を投入することや継続的な人材育成を行うことが基本です。また、既存の組織の枠を取り払うために、PJ単位でのレンタルや逆に他部門に入り込むなどもOKとしておきます。
次に、投資です。これは、ある程度の基準を作ってリーダーに委ねるか、トップがすべて決裁するか?などルールではなく誰かの嗅覚に委ねましょう。そして、開発の範囲や事業規模、撤退ルールなど、基本的なところだけを設定しておきます。
このようにできるだけ少ないルールからスタートし、運用上の問題が出てくれば都度トップが判断して変更していくような柔軟性が有効です。
そして、どんどん例外を認めて、ルールを一つずつ無くしていくような方向に進めれば、よりイノベーションに近づくと考えられます。
まとめ
今回は、新規事業につながるイノベーションの正体やイノベーションを伴う事業開発を起こすためのコツについて一緒に考えてきました。
決して簡単なことではありませんが、トップの頭の切り替えだけでできることもたくさんあるはずです。新しいことに取り組むわけですから、必ず今までにないリスクも伴います。
しかし、リスクの種が生まれると同時に新しいことが生まれる可能性がアップするわけですから、その2つを比較したうえで、どのようにハンドルを切るのかを検討すべきではないでしょうか?
前回も書きましたが、新規事業開発をストップし、既存事業の立て直しに全リソースを傾けるべき企業もたくさんありますから、自社にとって新規事業開発が必要か否かについて、まずは検討するところから始めてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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