屋号とは? 商号との違いやメリット・デメリット、注意点まで解説
これから自分の店を開く人や、自身で事業を行う人であれば、屋号をつけるか迷ったことがあるかもしれません。屋号は事業内容を周りに分かりやすく示すものであり、つけることで多くのメリットのあるものです。
本記事では、屋号のつけ方の基本から、注意点、具体的な事例まで幅広く紹介しています。事業を始めようと考えている方は、屋号についても軽視せずにしっかりと考えてみてください。
屋号とは
屋号は店の看板のようなものです。屋号を使用することで多くの方に事業内容を知ってもらいやすくなります。まずは屋号について最初に覚えておきたい基礎知識を解説します。
屋号の特徴
屋号とは「個人事業主が自分の店につける名称」のことです。屋号をつけることで、顧客や取引先に事業内容をわかりやすく伝えられるでしょう。
屋号は、ブランディングやマーケティングの観点からも大きな役割を果たします。
わかりやすい屋号は、ブランドイメージを定着させたり、幅広い人に自身のサービスを知ってもらえたりする可能性が高くなるでしょう。
たとえば、以下のものは全て屋号に該当します。
- 「〇〇屋」「〇〇商店」(販売店舗の名前)
- 「〇〇事務所」「〇〇ラボ」(企業・事務所の名前)
- 「〇〇チャンネル」(YouTubeチャンネルの名前)
また、ライターや画家などでペンネームをつけている人は、そのペンネームを屋号に使うこともあります。
屋号が使われるシーン
屋号が使用されるシーンは多岐にわたります。主な例としては以下のようなものが挙げられます。
- 名刺
- 店の看板
- 開業届や確定申告書類
- 見積書や領収書
- 屋号付きの銀行口座開設
- 融資の申込書
屋号が名刺や店の看板、見積書・領収書などの書類や銀行口座に使用されることで、公的に事業を運営している証明となるので、事業主としての信頼にもつながるでしょう。
また、屋号をつけていること自体が社会的信用の向上につながるとも言われています。特に金融機関からの融資を考えている場合は、屋号があったほうが無難です。
商号との違い
商号とは「会社が法人登記をする際につける名称」です。
個人事業主がつける事業の名称が「屋号」であるのに対し、会社や法人が法務局で登録する名称が「商号」となります。たとえば「〇〇株式会社」や「〇〇銀行」などが商号に当たります。
屋号と比べ、商号には法律上の規定があります。屋号と異なる点は以下のとおりです。
対象 |
名称設定の義務 |
名称に関する制約 |
法的拘束力 |
|
---|---|---|---|---|
屋号 |
個人事業主 |
任意 |
なし |
なし |
商号 |
会社 |
必須 |
あり
|
あり |
屋号は使用する記号の種類に制限があるものの、特筆するほどの制約はありません。それに対して商号は、使用可能な文字・記号に限りがある、同一住所にて同じ名称を使ってはいけないといった決まりがあります。
参考:法務省「商号にローマ字等を用いることについて」
また屋号はつけても税務署への提出が必須ではないため、法的拘束力がありません。一方で、商号は法務局にて必ず登記しなければならないことから権利を守る力が強くなります。
屋号の変更方法
屋号には税制上の定義がないため、確定申告の際に申告書に変更後の屋号を記載するだけで簡単に変更できます。そのため、税務署での手続きも不要です。
確定申告時以外で変更したい場合は、開業届を提出し直せば可能です。その際、開業届の「その他記載事項」に屋号を変更する旨を記載して提出してください。
屋号がなくても開業できるのか
屋号がなくても開業できます。たとえば肩書だけで事業内容が分かるような税理士やコンサルタント、または店舗や事務所を構えず、本名で活動しているライターなどは屋号をつける必要はありません。
しかし、肩書だけでは何をしているのかわかりづらい場合や、個人名を公開したくない場合には屋号をつけた方が良いでしょう。
屋号をつけるメリット
屋号をつけることで事業者にとっていくつかのメリットがあります。ここでは以下の3つについて説明します。
- 事業内容のアピールにつながる
- 法人化の際に有利になる
- 融資を受けられる可能性があがる
事業内容のアピールにつながる
先述の通り、屋号をつけることで事業内容が伝わりやすくなります。
事業主の本名だけでは、実際にはどのような事業を営んでいるのか分からないものです。事業内容が一目で識別しやすい屋号をつけることで、多くの人に事業の内容を認識されやすくなるでしょう。結果的に、自身や事業の認知度アップにつなげることができます。
法人化の際に有利になる
個人事業主から法人化する際に、屋号をそのまま商号として使用できます。個人事業主時代に培った実績や信頼が、法人になってもそのまま活用できるのです。
そのため、屋号をつけておくことで法人化の際に有利な状態で始められるといえます。
ただし、商号には使えない文字もあります。いずれ法人化を考えているなら、屋号をつける時点から慎重に考えておくと良いでしょう。
融資を受けられる可能性があがる
屋号をつけることで、金融機関での融資の審査が通りやすくなると言われています。
屋号をつけるには税務署で開業届を提出する必要があります。
開業をした事業者として確定申告をしていることを証明すれば、事業の信頼性や透明性が増し融資の審査がスムーズに進むことが期待できます。
屋号をつけるデメリット
屋号をつけることにはメリットが多いものの、いくつかのデメリットもあります。屋号をつける際には、この点も覚えておきましょう。
選定や登録後の手続きに時間や手間がかかる
屋号を決めるには、ある程度の時間がかかります。すでに存在している屋号や商号との差別化を図りながら、自身の事業内容をわかりやすく伝えられる名称を決めることは容易なことではありません。
また屋号の設定や変更に伴い、名刺や看板や銀行口座などに屋号を反映させる作業が発生するため、時間と労力がかかることを心にとめておいてください。
事業のイメージが限定される
屋号によっては、つけることで仕事の幅を狭めてしまう懸念があります。事業内容がすぐにイメージできるかわりに、限定的なイメージになってしまうことで特定の仕事しか来ない可能性があるからです。
事業の専門性を打ち出すという面ではプラスに働きますが、それ以外の強みが伝わりづらくなるため屋号の選定には考慮が必要です。
屋号をつける際の注意点
屋号をつけるときには気を付けなければならない点が3つあります。
- 事業内容が分かりやすいものを設定する
- 他企業や製品と重複しないようにする
- 長すぎる・不適切な屋号を設定しない
事業内容が分かりやすいものを設定する
屋号は事業内容がイメージできるものにしましょう。事業内容のわかりやすい屋号にすることで、インターネット検索をされやすくなったり、人々の興味を惹きやすくなったりするため集客率アップに期待できます。
事業内容に沿ったものであっても、一般的な認知度が低い専門用語を使うことは避けましょう。屋号をつける際は誰が見ても分かるように、簡単な言葉を組み合わせて内容のわかりやすいものがおすすめです。
他企業や製品と重複しないようにする
すでに使用されている屋号や、それと似たような屋号をつけることは避けましょう。
とくに他社や有名企業で使用されている文言や屋号の名称が被ってしまうと、他の企業と混同されてしまうリスクがあります。
これにより、インターネット検索で上位に表示されづらくなるという悪影響も考えられます。結果的に事業の認知度を上げるためのハードルを高めることになります。
また、商標登録されたものは使用禁止となっているので注意してください。
前もって、すでに似たような屋号や商標登録されている屋号ではないのか、法人番号公表サイトや特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で確認しておきましょう。
参考:法人番号公表サイト
長すぎる・不適切な屋号を設定しない
屋号の文字数に規定はありませんが、認知の観点からは短くシンプルで、覚えやすいものが推奨されます。また以下のような屋号は避けるべきです。
- 公序良俗に反する不適切な屋号
- 「株式会社」「会社」といった法人と誤解される屋号
- 「銀行」「証券」など特定の業種の名称を使用した屋号
たとえば、性的な文言や差別的な文言など公序良俗に反している言葉は事業のイメージダウンに直結しやすいものです。
また、以下のように個人事業主ではなく法人と誤解されやすい屋号や、法令で定められた特定の業種の名称をつけることも禁止されています。
- 〇〇株式会社・〇〇会社
- 〇〇銀行・〇〇証券
屋号の事例を紹介
ここからは実際にどういった屋号があるのかみていきましょう。店舗、医院や事務所、フリーランスに分けてそれぞれご紹介しています。具体的にどういうものにするか迷った際には参考にしてみてください。
店舗の事例
扱っている商品を分かりやすく認知させるためには、以下のようなつけ方が一般的です。
- 〇〇ショップ
- 〇〇堂
- 〇〇サロン
- 〇〇家
- 〇〇屋
ただし、屋号だけだと事業内容が分かりにくい場合は、副題のように「〇〇の店」や「〇〇専門店」と付け加えてわかりやすくすることもあります。
医院・事務所の事例
医院や事務所の場合にも同様に事業内容を想像できる屋号にしましょう。それぞれの事業内容に合わせて以下のような例があります。
- 〇〇オフィス
- 〇〇事務所
- 〇〇塾
- 〇〇デザイン
- 〇〇院
- 地域名+(診療科目)クリニック
事務所を構えている場合はわかりやすく「〇〇事務所」や「〇〇オフィス」にすることが多いです。
クリニックなどの専門性が高いサービスを提供しているところは、地域名や診療科目を織り交ぜることで親しみやすく覚えやすい屋号になるでしょう。
フリーランスの事例
個人で活動するフリーランスの場合には、以下のような例が挙げられます。
- 〇〇プロジェクト
- 〇〇技研
- アトリエ〇〇
- 〇〇ライティング
- 個人名(または個人名+仕事内容)
フリーランスの場合、店舗や事務所に比べると、オリジナリティーのある屋号がつけられるでしょう。差別化のためにも字面や語感にもこだわってみると良いかもしれません。
また、本名でなくペンネームを使うことで見る人にインパクトを残す方法もあります。ほかにも有名人と同姓同名で、別の人を想起させてしまう場合にもペンネームが使われる傾向にあります。
屋号とは?まとめ
屋号は、事業内容を認知してもらうために重要なものです。
昨今では、サービスを受けたいと思ったときにインターネット検索するのが一般的です。分かりやすい屋号をつけることで、認知拡大のきっかけになるでしょう。
屋号は社会的信用の獲得にも役立ちます。その一方で、屋号はブランドイメージにも直結するため慎重に行わなければなりません。
屋号をつけるメリット・デメリットを考慮しつつ、自身の事業の成長や発展のために屋号を考えてみてください。