資本金とは? 意味のほか平均額や必要性について解説
資本金は会社を設立する上で欠かせないものです。資本金の多寡は、税制や会社の信用度などに深く関わっています。業種や企業規模なども複合的に考えた上で、資本金の金額を設定しましょう。
本記事では、資本金の概要や平均額、決め方、税金との関係性などについて詳しく解説します。会社設立を考えている方や、資本金について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
資本金とは
資本金とは、会社経営の元手となる資金のことです。株式会社では、出資により受け取ったお金や、経営者の自己資金が資本金となります。
2006年5月に新会社法が施行されて以降、会社形態に関わらず、1円以上の資本金があれば、会社設立が可能となりました。
また、出資者から募った資本金は、金融機関からの借入金と異なり、返済義務がありません。
資本金の役割
資本金には、会社運営において重要な役割があります。以下では、資本金の主な役割について詳しく見ていきましょう。
会社が自由に使える資金
資本金は登記手続きのため一度銀行に預けても、その後資金が必要になった際には、自由に使用が可能です。そのため開業資金や運転資金として使うことができます。
資本金は会社で自由に使える資金であるため、事業の立ち上げや拡大に役立ちます。会社の資金繰りに余裕がなくなった際には、資本金の活用も視野に入れておくと良いでしょう。
会社の社会的信用を示す
パンフレットやホームページの会社概要によく資本金欄が設けられているのは、会社の社会的信用を示すためでもあります。会社の手元にある資金を示しているため、会社の規模や体力を測る1つの指標と言えるでしょう。
資本金の金額が少ないと、金融機関などから「この会社は倒産のリスクが高い」と評価される可能性があります。そのため、自由に使えるからといって、むやみに資本金を事業投資に充てて良いというわけでもありません。
逆に、資本金が多ければ、会社の信頼度は高まります。よって、取引先や顧客からの信頼を得るために、ある程度の資本金を手元に残しておくことも重要です。
銀行からの借入審査基準の一つ
上記でも触れましたが、資本金は会社の社会的信用を示す評価の1つであり、銀行から融資を受ける際の借入審査基準の対象です。
資本金が少ないと、銀行から「返済能力が低い」と判断され、融資を受けられない可能性があります。
銀行からの借り入れを考えている場合は、資本金の額にも注意が必要です。
資本金の平均額は?
設立時の資本金の平均額は、300万円〜500万円程度と言われています。資本金が少ないと、業績悪化に遭遇した時に資金繰りができず、事業を続けるのが難しくなります。
資本金の目安は、「3か月間利益が出なかったとしても事業を継続できるだけの額」と言われています。ただし、これは全ての業種を含めた目安です。造業や販売業などは、仕入れ費用や施設費といった初期費用が大きいため、資本金の金額も高くなる傾向があります。
業種や事業規模によって必要な資本金額は異なるので、自社に合わせて、適切な資本金を用意し、手元に残しておくことが大切です。
資本金の決め方
資本金の決め方は、業種や事業規模によって変わります。
以下では、資本金を決める際の主な基準について見ていきましょう。
設立当初に必要な運転資金を基準にする
設立当初は事業経営の見通しが立てづらく、売り上げが発生しない場合も考えられます。事業が軌道に乗るまでの間、会社を維持できるだけの資本金が必要です。
そのため、3か月~半年程度を目安とし、その間に売上が発生しなくても会社を経営できる分の資金を用意しておくと良いでしょう。
取引先からの見え方を考慮する
資本金は、自社のホームページや企業情報のデータベースで公開する情報のため、取引先からも重視されます。取引先が少ない業種であればよいですが、取引先が複数ある場合は、資本金を十分に準備していると信頼度も高まります。
資本金の金額が高ければ、倒産するリスクが低く安心できる企業だと見られやすくなり、取引の継続や新規取引契約にも繋がるでしょう。複数企業との取引を行う会社は、他社からの見え方も考慮した資本金の設定が大切です。
免税対象の範囲で検討する
資本金が1,000万円未満の場合、最大2年間の消費税の免税事業者を選択できます。逆に1,000万円を超えると、消費税の課税事業者として申告・納税義務が課せられます。
ほかにも定款の認証手数料、法人税などさまざまな税がかかるため、免税対象の範囲で検討するならば1,000万円は超えないほうがいいでしょう。
中小企業の要件を基準にする
中小企業の定義には、資本金の金額も含まれています。また、行政の補助金や援助金は、中小企業がベースになっていることが多いです。そのため、受給を考えている場合は、自社が要件に当てはまっているかを確認する必要があります。
補助金や助成金を活用したい場合は、中小企業の要件を満たす資本金にしておくといいでしょう。制度ごとに資本金の細かな規定は異なりますが、中小企業庁による中小企業の定義は以下の通りです。
業種分類 |
中小企業基本法の定義 |
製造業その他 |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は |
卸売業 |
資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は |
小売業 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は |
サービス業 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は |
また税制面でも、中小企業は優遇を受けられる場合があります。
自社の事業内容や規模に合わせて、中小企業の要件を満たす資本金を検討してみてください。
業種によって許認可の条件を確認する
業種によっては、資本金の金額の最低額が決まっていて、その額に達していないと起業できない場合があります。例えば、建設業なら500万円以上、一般労働者派遣事業なら2,000万円以上の資本金が無いと、国から許認可が下りません。
許認可の条件を満たさないと、事業を開始できない可能性があるため注意が必要です。
資本金と税金の関係性
資本金と税金には密接な関係があります。
ここでは、資本金と主な税金の関係性について詳しく見ていきましょう。
消費税
1,000万円以下の資本金で会社を設立した場合、原則として設立1年目と2年目の消費税の納税義務が免除されます。
ただし、2年目については、以下のどちらかに当てはまる場合、資本金が1,000万円未満でも消費税の課税対象となるので注意しましょう。
- 会社設立から6か月間の課税売上が1,000万円以上
- 会社設立から6か月間の給与支払い(役員報酬含む)が1,000万円以上
特に仕入れを行う業種にとって、消費税は売上高や利益に大きく影響します。そのため、会社設立後の消費税負担を軽くしたい場合、起業する時点で資本金は1,000万円以下に設定しておくとよいでしょう。
法人税
資本金が1億円を超えると、法人税の負担が一気に大きくなります。普通法人における法人税の税率は以下の通りです。(令和4年4月1日以降に事業開始した場合)
区分 |
法人税率 |
||
資本金が1億円以下の法人 |
所得が800万円以下の部分 |
適用除外事業者以外の場合 |
15% |
適用除外事業者の場合 |
19% |
||
所得が800万円を超える部分 |
23.20% |
||
資本金が1億円を超える法人 |
23.20% |
(出典:No.5759 法人税の税率|国税庁)
上記の表の通り、資本金が1億円を超えると一律で23.20%の法人税が掛かってしまうのに対し、資本金が1億円以下の企業の場合、所得によっては、15%まで法人税を抑えることができます。
会社設立および事業開始からすぐに大きな所得が発生することは稀です。そのため、起業する際は、事業開始直後の法人税負担を減らす意味でも、資本金は1億円以下に設定しておくとよいでしょう。
法人事業税・法人住民税
法人事業税は、法人が行う事業そのものに課される税です。
法人は事業活動を行うに当たって、整備された交通インフラや上下水道といった地方団体の様々な行政サービスを受けています。法人事業税は、法人が行政サービスの恩恵を受けているため、そのサービスに必要な経費を分担すべきであるという考え方に基づき課税されています。
法人住民税とは、企業も地域社会を構成する一員であるという考え方に基づき、個人の住民税と同じく、警察や消防といった公的サービスに対して支払う税金です。
法人住民税の算出方法は、「法人税割」と「均等割」の2種類です。前者は課税所得を基に算出するのに対し、後者は資本金の額と従業員数によって課税額が確定します。
法人事業税と法人住民税は、会社の所在地によって、資本金額などの規定とその税率が異なります。そのため、会社を設置する地方自治体ごとに、事前に税率と規定を確認しておきましょう。
登録免許税
登録免許税は、会社設立の登録をする際に必要な税金のことです。課税額は会社形態によって異なります。
株式会社の場合:15万円もしくは資本金額×0.7%のどちらか高い方
合同会社の場合:6万円もしくは資本金額×0.7%のどちらか高い方
また、資本金が規定額以下の場合は、特許免許税が一律で課されます。以下の表をご参照ください。
会社形態 |
資本金額 |
登録免許税額 |
株式会社 |
2,140万円 |
一律15万円 |
合同会社 |
857万円 |
一律6万円 |
合名会社 |
規定なし |
一律6万円 |
登録免許税は、会社の登録時のみに発生する税金ですが、初期費用を抑えて起業したい人は、登録免許税も考慮して資本金の設定を検討しましょう。
資本金の増資・減資について
会社の状況に合わせて、資本金を変更したいと考える経営者の方もいるでしょう。
ここでは、資本金の増資と減資について詳しく説明します。
資本金の増資
資本金を増やすことを「増資」と呼びます。
以下では、増資のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
以下の3点が、増資の主なメリットです。
- 業績や経営が悪化した際に、資本金から多くの資金を調達できる
- 取引先や金融機関などからの信用度が上がる
- 増資のために新株を発行し、購入してもらうので、会社の支援者が増える
基本的に新株を発行し、それを購入してもらうことで増資を行います。既存の株主に更に株を購入してもらう方法もありますが、増資の過程で新規の株主が増やせれば、会社の経営基盤を強化することに繋がるでしょう。
デメリット
以下の3点が増資のデメリットです。
- 税負担が増えたり、受けられる補助金・支援金が減額したりする可能性がある
- 1株あたりの株価や利益率が下がる恐れがある
- 持株比率が変わり、第三者の株主の発言力が強くなる可能性がある
資本金をむやみに増やすと、課される税率が上がる可能性があります。
企業に課される各種税金は、資本金に比例して税率も高くなるものが多いです。
補助金や支援金も、資本金の金額ごとで支給額が決まっているものが多いので注意しましょう。
また、前述の通り新株の発行をして増資を行うのが一般的です。新株を発行して株式の流通量が増えると、1株当たりの株価や利益率が下がると考えてよいでしょう。
増資後に持株比率の変化や株価の低下が起こることを考慮したうえで、新株を発行しましょう。
資本金の減資
資本金を減らすことを「減資」と呼びます。
以下では、減資のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
経営状況が良くなかったとき、過去に発生した赤字は「繰越欠損金」として決算書にも表記され、それが原因で融資を受けにくくなります。
しかし、減資をして取り崩した資本金と繰越欠損金を相殺することで、決算書の見栄えを良くすることが可能です。
決算書の見栄えは、経営立て直しのために必要な条件です。金融機関は融資を検討する際に、企業の決算書を重視するので、繰越欠損金を減資で相殺するのも、1つの戦略と言えるでしょう。
デメリット
増資と反対に、会社の信頼度が下がることが減資のデメリットの1つです。特に取引先から、「倒産のリスクがある」と判断され、取引を中止される可能性があります。
税制や支援金受給などの面で減資した場合は、取引先や借入先に対して説明することで納得を得られるでしょう。しかし、業績の悪化などで資本金を経営資金に回した場合は、会社の信頼度に直結します。赤字による減資は会社の信用を失うリスクがあるため、慎重に検討しなければいけません。
資本金と資本準備金の違い
資本準備金は、株主から出資を受けた金額のうち、資本金として計上しなかった残額のことです。
資本金と違い、資本準備金は登記に必要なお金ではありません。そのため、資本準備金は、株主総会による決議のみで取り崩しや積立を行うことが可能です。また、資本準備金に回した分、資本金額を抑えることで、税務上の優遇措置を受けられます。
資本金とは別に、資本準備金を用意しておくと、業績が悪化した際に資本金を減らすことなく、スムーズに資金を調達することが可能です。資本準備金は資本金よりも、使用する自由度の高いお金と考えて良いでしょう。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
まとめ
本記事では、資本金の概要や決め方、税金との関係性などについて詳しく解説してきました。資本金は、各種税金の税率や会社の信用度に関わる重要なお金です。
資本金が大きいと会社の信用度は増しますが、同時に税負担が重くなるリスクがあります。そのため、会社を設立する際は、事業内容や規模、税務上の負担などの要素を考慮した上で、適切な金額の資本金を設定しましょう。