減価償却とは?意味や目的、仕訳のやり方・計算方法をわかりやすく解説
減価償却は、経営者や個人事業主が知っておきたい会計処理のひとつです。
固定資産の取得費用を数年にわたって計上するのが特徴で、キャッシュフローや財務分析にも影響があります。また、貸借対照表や損益計算書への記載が必要になるため、制度を正しく理解したうえで経理作業を行いましょう。
今回は、減価償却の意味や目的、仕訳・計算の方法を、初心者目線でわかりやすく解説します。
減価償却とは
まずは、減価償却の意味や仕組み、目的といった基本的な理解を深めましょう。固定資産の取得経費を数年にわたって計上していくことで、損益計算の適正化や現金の社内留保などの利点があります。
減価償却の意味
減価償却とは、時間の経過や使用によって価値が減少する固定資産の取得価額を、それぞれの耐用年数に応じた費用計上する会計処理のことです。減価償却の対象となる資産を「減価償却資産」といい、車やパソコン、建物などが該当します。時間の経過や、使用による価値の減少が起きないものは、減価償却できません。
固定資産は種類によって耐用年数が定められています。例えば、価格が50万円で耐用年数が10年の資産を購入した場合は、5万円を10年にわたって計上することになります。
減価償却の目的
減価償却の主な目的は、次の3つです。
1.適切な期間損益計算
固定資産には、「費用配分の原則」という考え方があります。これは、資産の取得原価(支出)を、その資産を使用する期間内で規則的に費用として配分することを意味します。それにより、各期の損益計算を適正化できます。
2.貸借対照表価額の決定
減価償却の対象となる固定資産は、使用による劣化や新製品の登場などにより、経済的価値が減少していきます。その分を「減価償却費」として固定資産の取得価額から減少することで、固定資産の適切な貸借対照価額を決定する目的があります。
3.投下資本の回収
減価償却費は、資産を購入した年に支払いが発生しますが、2年目以降は実際の支出を伴わない「非現金支出」と呼ばれる費用になります。2年目以降は支払いが発生していないにも関わらず経費にできるため、減価償却期間中、その分の現金を社内に留保することができ、投下資本の回収効果があります。
減価償却できる資産・できない資産の違いを解説
減価償却できる資産は「時間の経過と共に価値が下がっていくもの」が基本となりますが、それ以外にも決まりがあります。具体的な例を見ていきましょう。
減価償却できる資産とは
減価償却できる資産には次のようなものがあります。
- 建物・・・事務所、工場、店舗、倉庫など
- 建物附属設備・・・電気設備、給排水設備、冷暖房設備など
- 構築物・・・ブロック塀、舗装道路など
- 車両運搬具・・・営業用の社用車、輸送用のトラックなど
- 工具器具備品・・・取付工具、事務机、いす、キャビネットなど
- 機械装置・・・工場の加工設備、輸送機(コンベア)など
- 無形固定資産・・・ソフトウェア、特許権・商標権など
時間の経過と共に価値が下がっていく資産を指し、使用可能期間が1年以上のものか、取得価額が10万円以上のものは減価償却が必要です。
減価償却できない資産とは
減価償却できない資産には次のようなものがあります。
- 土地
- 建設中の建物
- 借地権
- 電話加入権
- 美術品や骨董品等
土地や借地権、電話加入権は、時間の経過によって価値が下がるものではないため、減価償却の対象になりません。美術品や骨董品は、景気の変動によって価値が変わる可能性はあっても、時間経過では価値が下がらないため、同じく減価償却できません。
また、事務所や工場、店舗などの建物は減価償却できますが、建設中の建物は固定資産として計上できないため、減価償却の対象になりません。建物が完成し、使用が始まると減価償却が必要になります。
減価償却の仕訳のやり方
減価償却の仕分けには、「直接法」と「間接法」があります。それぞれの具体的な計算方法と、メリット・デメリットを解説します。減価償却の仕訳を実施する際の参考にしてください。
減価償却の仕訳のやり方1:直接法
直接法とは、固定資産の取得価額から減価償却費を直接差し引く方法です。「借方」に減価償却費を計上し、「貸方」に資産を記入します。
- 例)取得価額100万円の機械装置を購入して、本年度の減価償却費が1万円の場合
- (借方)減価償却費 10,000円 /(貸方)機械装置 10,000円
直接法の場合、貸借対照表上の資産の価額が現在の資産の価値になります。残っている資産価値がわかりやすいのがメリットですが、貸借対照表上には資産の取得価格が掲載されないため、取得価格を確認したい場合は固定資産台帳を参照する必要があります。
減価償却の仕訳のやり方2:間接法
間接法とは、減価償却費を減価償却累計額として計上する方法です。「借方」に減価償却費を計上するのは間接法と同じですが、間接法の場合は「貸方」に減価償却累計額を記入します。
- 例)取得価額100万円の機械装置を購入して、本年度の減価償却費が1万円の場合
- (借方)減価償却費 10,000円 /(貸方)減価償却累計額 10,000円
間接法の場合、「貸借対照表上の資産の価額 = 資産の取得価額」となるため、取得価額がすぐに参照できます。一方で、資産の現在の価値を算出するには、減価償却累計額を差し引かなければなりません
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には、「定額法」と「定率法」があります。定額法は毎年一定の金額を減価償却するのに対して、定率法は年々償却額が小さくなるのが特徴です。それぞれ詳しく解説します。
減価償却の計算方法1:定額法
定額法とは、減価償却資産の取得価額を、法定耐用年数の期間で毎期均等額を償却していく方法です。毎年一定の金額を減価償却するため、帳簿がわかりやすく資産計画が立てやすいのがメリットです。
定額法の計算は「取得価額×定額法の償却率」で行います。
例)取得価額100万円の建物附属設備を耐用年数10年(償却率0.100)で減価償却する場合
1年目 |
1,000,000×0.100=100,000 |
2年目 |
1,000,000×0.100=100,000 |
: |
: |
10年目 |
1,000,000×0.100-1(備忘価額)=99,999 |
減価償却の計算方法2:定率法
定率法とは、未償却の帳簿残高から毎年一定の割合で償却していく方法です。定率法の償却率は資産の耐用年数に応じて定められており、固定資産を取得した初期に多額の減価償却費を計上するのが特徴です。その後、費用計上額が逓減していきます。
定率法の計算は「未償却帳簿残高×定率法の償却率」で行います。
例)取得価額100万円の機械装置を耐用年数5年(償却率0.400)で減価償却する場合
1年目 |
1,000,000×0.400=400,000 |
2年目 |
期首帳簿価額 1,000,000-400,000=600,000 600,000×0.400=240,000 |
3年目 |
期首帳簿価額 600,000-240,000=360,000 360,000×0.400=144,000 |
4年目 |
期首帳簿価額 360,000-144,000=216,000 216,000×0.400=86,400 < 216,000×0.500=108,000 |
5年目 |
期首帳簿価額 216,000-108,000=108,000 216,000×0.500-1(備忘価額)=107,999 |
減価償却の特例
減価償却の特例は、正式名称を「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といい、通常の減価償却よりも早く経費として計上できる点がメリットです。減価償却の特例について、詳しい内容を解説します。
少額減価償却資産
少額減価償却資産とは、個人事業主や中小企業などが取得した減価償却資産の取得価額が30万円未満である場合に、その全額を一括して減価償却費として費用計上できる資産のことです。
本来であれば数年かけて減価償却を行う資産であっても、少額減価償却資産の特例を活用することで一度に費用計上できます。取得価額の全額を当期の損金として算入できるため、資産を取得した事業年度の利益が減少し、節税効果が高まります。
適用対象は、青色申告を行っており、従業員数が1,000人以下 (令和2年4月1日以後に取得する場合は500人以下)の個人事業主や資本金1億円以下の法人です。限度額は事業年度ごとに300万円と定められています。
一括償却資産
一括償却資産とは、取得価額が10万円以上かつ20万円未満の固定資産を取得した場合に、個々の資産の耐用年数ではなく、一括して3年間で均等償却できる資産のことです。通常の資産として減価償却費を計算するか、一括償却資産として計算するかは、取得年度に選択が可能です。
一括償却資産を適用するメリットとして、通常の減価償却よりも経費にできるタイミングが早くなる点があげられます。また、一括償却資産は取得年度ごとにまとめて管理することから、少額な固定資産の減価償却費を計上する事務処理の手間が省けます。
減価償却についてのまとめ
減価償却の仕組みや仕訳・計算方法について、初心者の方に向けて解説しました。減価償却の仕組みは複雑に見えますが、適用できる資産には明確な基準があり、仕訳や計算の方法も、一度覚えてしまえば迷うことは少ないでしょう。
減価償却は、キャッシュフローの改善につながるだけでなく、収入と支出のバランスを保つうえでも重要な仕組みです。一定の基準を満たした中小企業や個人事業主であれば、特例を利用することで節税効果もあるため、制度を正しく理解して活用しましょう。
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