収益性分析とは? 各指標や分析方法、改善するためのポイントを解説
「収益性分析」は、企業の総合的な利益創出力を評価する手法の総称です。
利益を上げられなければ継続的な事業運営は不可能なため、収益性分析はどの企業でも重要です。
この記事では、収益性分析の概要と代表的な指標・分析方法、改善に向けた取り組みのポイントを解説します。
収益性分析とは
収益性分析とは、企業が持っている「利益を生み出す力」の度合いを測るために行うものです。
収益性分析をする際は「売上高総利益率」や「売上高経常利益率」といった指標を使うことで、自社の収益性をさまざまな角度から把握できます。
ただし、自社が目指すべき売上高や利益と比較して行うため、自社内で売上高や利益の目標があることが大前提となります。
収益性分析の指標と分析方法
収益性分析の指標にはさまざまなものがありますが、大きく分けると以下の2つです。
- 売上高をベースに見る指標
- 資産や資本をベースに見る指標
該当する指標と、それぞれのパーセンテージから読み取れることを解説します。よく似た名前の指標もあるため、混同しないよう注意しましょう。
売上高をベースに見る指標
売上高をベースにした収益性分析の指標は、以下の4つがあります。
- 売上高総利益率
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 売上高当期純利益率
それぞれについて、詳しく解説します。
売上高総利益率
売上高総利益率は、売上高のうち売上総利益が占める割合を測る指標です。
計算式は、以下のとおりです。
売上高総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100
パーセンテージが高いほど利益率も高い、すなわち商品・サービスの価格設定や仕入・調達が効率よくできていることを指します。
一方でパーセンテージが低い場合は、商品・サービスの価格設定の見直しや仕入・調達コストの削減を検討する必要があるでしょう。
ただし、利益率の高低は業種によって差があります。比較する前に、自社が属する業界の利益水準を大まかに知りましょう。
中小企業庁の「中小企業実態基本調査」、総務省の「経済センサス」など中央省庁が定期的に公開している情報や、新聞社、その他メディアが公開している上場企業のデータが参考になります。
たとえば2021年度の「中小企業実態基本調査」を見ると、業種別の売上高総利益率は、以下のとおりとなっています。
- 全体:27.3%
- 製造業:21.9%
- 卸売業:15.9%
- 小売業:30.4%
参考:中小企業庁「中小企業実態基本調査 / 令和4年確報(令和3年度決算実績) 確報」
なお、利益(率)は社会情勢や景気によっても大きく変動します。たとえば製造業の場合、商品の原料価格が高騰した場合は売上高総利益率は低くなりやすいです。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、売上高のうち本業で得られた利益の割合を測る指標です。
以下の式で算出されます。
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
※営業利益=売上高-売上原価-販管費
パーセンテージが高ければ、売上高に対して売上原価や販管費が抑えられていることになります。
一方パーセンテージが低い場合は、売上高に対して売上原価や販管費が多いことを示します。
商品・サービスの仕入・生産から販売・管理に至る企業の本業に関する活動が効率よくできているか否かが測れるため、業務効率を見直す際の良い指針になるでしょう。
売上高経常利益率
売上高経常利益率は、売上高に対する経常利益の度合いを示します。
計算式は以下のとおりです。
売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
※経常利益=売上高-売上原価-販管費-営業外損益
パーセンテージが高ければ、営業利益または営業外利益が大きく、本業・本業外を含めたトータルの事業活動の経営状況が良いことが分かります。
パーセンテージが低い場合は、本業・本業以外の一方もしくは両方の活動が芳しくないことが想定されるため、早急に対処を考える必要があるでしょう。
売上高当期純利益率
売上高当期純利益率は、売上高のうち当期純利益が占める割合がどの程度かを測る指標です。
具体的には、以下の計算式で算出します。
売上高当期純利益率(%)=当期純利益÷売上高×100
※当期純利益=税引前当期純利益ー法人税等
パーセンテージが高いほど、売上高に対して最終利益の収益力が高く、総じて良い経営ができていると考えられます。
また、当期純利益は純資産(利益剰余金)の増加にダイレクトに影響するため、純資産増加への寄与度を図ることもできます。
資産・資本をベースに見る指標
続いて、資産や資本をベースにした以下の4つの指標について解説します。
- ROA(総資産利益率)
- ROE(自己資本利益率)
- 自己資本回転率
- 総資産(総資本)回転率
これらの指標は、投資家が投資先候補にしている企業が、優良企業かどうかを判断する際にも使用されます。
ROA(総資産利益率)
ROA(Return On Asset)とは、自社の総資産(総資本)に対してどの程度の利益が生み出せたかを測る指標です。
ROAの計算式は以下のとおりです。
ROA(%)=当期純利益÷総資産(総資本)×100
ROAは、一般的に5%以上だと優良と判断される傾向にあり、数値が高いほど自社の財務パフォーマンスが高いことを示します。
ただし、5%という数字は、あくまでも目安です。ほかの指標同様に、業種・業界の平均値や中央値と比較するのが望ましいと考えます。
なお、ROAは株主だけでなく金融機関などの債権者についても焦点を当てていますが、後述のROEは自己資本、つまり株主が投資した資本に焦点を当てています。
したがって、ROEとROAは評価する観点が異なり、ROAが高い場合は企業全体の資産を効果的に運用し利益を最大化させている姿勢がうかがえます。
ROE(自己資本利益率)
ROE(Return On Equity)は、自己資本(株主資本)がどの程度活用できているかを示します。
「自己資本利益率」とも呼ばれ、以下の式で計算可能です。
ROE(%)=親会社株主に属する当期純利益÷純資産(自己資本)×100
※自己資本=純資産-新株予約権-少数株主持分(被支配株主持分)
前述のROAの計算式とよく似ていますが、こちらは負債は含まないことに注意しましょう。
一般的には、ROEは5%が目安で、10%以上だと優良です。自己資本は返済義務のない資本であるため、この割合が高ければ高いほど企業は自己資本を効率よく運用し、利益を上げていることを示します。
ただし、ROEが高くても、それは自己資本を効率的に運用できているのではなく、他人資本、つまり借入のような債務の運用が、利益創出の大部分に貢献している可能性があります。
ほかの指標と組み合わせて、総合的に評価すべきです。
総資本回転率
総資本(総資産)回転率は、自社の総資本の活用度合いを示す指標です。
「投資→販売→回収」という収益発生までのサイクルを「回転」として考え、自社の総資産が何回転したか(どれだけの売上を生み出したか)を表します。
総資本回転率の計算式は、以下のとおりです。
総資本回転率(回)=売上高÷総資本
数値が大きいほど効率的に資産を活用し、収益を創出できていることが分かります。
業界によっても多少変動しますが、大まかな目安は1.0(回)です。
たとえば、売上高2,000万円、総資本200万円の企業の例を考えてみましょう。この場合の総資本回転率は、計算式に当てはめると2,000万円÷200万円=10(回)となります。
つまり、総資本が売上として10回転しており、非常に効率の良い経営ができていると言えるのです。
反対に、売上高100万円、総資本500万円の企業の場合、総資本回転率は0.2(回)です。総資本が売上として0.2回転しかしていないことになり、経営効率の早急な見直しが必要だと言えます。
自己資本回転率
自己資本回転率は、自己資本がどれだけの売上を生み出したかを回転数で示します。
計算式は、以下のとおりです。
自己資本回転率(回)=売上高÷自己資本
こちらも業種ごとに多少変動しますが、1.0(回)以上となることが望ましいとされています。
収益性改善に向けた取り組みのポイント
収益性分析に使える指標には、さまざまなものがあります。
しかし、どの指標を使うにせよ、分析して終わりではなくその後に活用しなければなりません。
収益性分析をした結果、自社の収益性に課題があると感じた場合の対策を解説します。
収益性を時系列で分析する
収益性分析をした事業年度を、さらに細分化してみましょう。「1年間」として捉えるのではなく、「第1四半期」「第2四半期」といったように、いくつかの期間に分けてみてください。
たとえば、その事業年度の収益性が低かった場合も「第1四半期に大規模な投資をしたため、収益性が下がった」のか「特に変わったことはしていないが、通年で売上が伸びなかった」のかでは、その後の対策が変わってきます。
収益性が高かった場合も同様です。
同業他社の資料を見て、自社の同時期の業績と比較しても良いでしょう。
自社の販売戦略と傾向に沿って分析する
自社の販売戦略と照らし合わせ、ズレがないかを確認してみましょう。
今回紹介した指標のほとんどは、パーセンテージの目安が業種・業界によっても大きく異なるものです。
収益性分析をする際は、自社が属する業種・業界における目安や平均値・中央値などを知るところから始めてください。
そして、分析の結果が自社の販売戦略と合致しているかも、注目すべきポイントです。
「薄利多売」を目指す企業もあれば「厚利少売」のビジネスを展開している企業もあります。
たとえ平均値や中央値より低くなったとしても、自社の販売戦略に沿った結果になっているのであれば、それほど悲観する必要はないかもしれません。
変動費や固定費を削減する
売上を増やして、利益を伸ばそうとすることももちろん必要です。
一方で、事業にかかる変動費や固定費の見直しも効果的です。
方法はいくつか考えられますが、一例として以下のようなことができるでしょう。
- 調達する原材料を変更して材料費を抑える
- 事務所の規模を縮小してテナント代や地代家賃を減らす
- 取引先に行っている過度な値引きをやめる
- 使用頻度の低い設備のリース契約を終了する
- ペーパーレス化を進め、消耗品費や印刷費等を減らす
ただし、削減しすぎて現場に混乱をもたらしたり、かえって作業効率が低くなったりしないよう注意しましょう。
収益性分析の事例
今回紹介した指標は、自社の収益性分析に使うだけではなく、他社の業績の分析にも活用できます。
ここからは実際に、2社の収益性分析を行ってみましょう。
塩野義製薬|自己資本を多くして優れた売上高総利益率を実現
医療用医薬品の開発・製造・販売を行う「塩野義製薬」は、収益性の高さで知られています。
同社は長年「自社創薬」にこだわっており、現在は既存製品の約60%が自社で開発したものです。
これが他社製品の仕入にかかるコストや、他社へ支払うライセンス費用の削減につながっており、2023年3月時点で売上高総利益率は85.4%、ROEは17.8%に上りました。
年度と企業規模は異なりますが、2021年度における中小企業の売上高総利益率の平均が27.3%、一般的に優良とされるROEの数値目安が10%であることを考えると、かなり良い結果が出ていると捉えられます。
総資本回転率は0.3とそれほど高くありませんが、これは同社の総資本が多いことに起因すると考えられるため、それほど悲観する必要はなさそうです。
以上のことから、同社は自己資本を大いに有効活用し、多くの利益を出している企業であると言えるでしょう。
イオン|営業収益は多いが利益率・経営効率に課題あり
「マックスバリュ」「イオンリテール」などを経営する「イオン」は、国内有数の小売業者です。
2023年2月期の営業収益(売上)は9兆円を超え、国内の小売業トップクラスの数値となっています。
しかし、同時期の売上高総利益率は28%と小売業の平均をやや下回っており、売上高経常利益率も2.5%ほど、売上高当期純利益率は1%ほどに留まっています。
つまり、多額の売上が出ているものの、実際の利益率はそれほど高くないことが読み取れるのです。
資産の面から見ても、ROAは0.1%、総資産回転率は0.6となっており、それほど効率の良い経営ができていないことが読み取れます。
ただし、同社の業績はここ数年で回復傾向にあります。今後さらに業績が改善されれば、さらに数値が良くなる可能性もあるでしょう。
収益性分析のまとめ
収益性分析では、売上高総利益率や売上高営業利益率など、さまざまな数値を確認しながら比較する手法が採られています。
さまざまな指標を使って適切に分析を行えば、よりよい売上増加やコスト削減に対する活動へつなげていくこともできるでしょう。
また、自社の経営に課題を感じているときだけではなく、自社の経営に問題がないかを把握するためにも収益性分析を行うことが大切です。
他社の事例も踏まえて、自社の状況を確認してみましょう。