ビジネスチャットのセキュリティは十分? 主な対策とツールの選び方を解説

ビジネスチャットは利便性が高い反面、セキュリティ面での不安を感じる方も多いのではないでしょうか。実際、ビジネスチャットを上手く活用するためには、セキュリティ問題を正しく把握しなければいけません。
本記事では、ビジネスチャットのセキュリティ性能や主なリスク対策、ツールの選び方、必要な機能、社内で実施すべき対策などについて詳しく解説します。セキュリティリスクを抑えてビジネスチャットを導入したい方は、ぜひ参考にしてください。
ビジネスチャットのセキュリティ性能
ビジネスチャットは、暗号化通信や認証機能により、メールよりも安全性が高いとされています。しかし、なりすましや情報漏洩などのリスクが存在するため、複雑なパスワード設定や定期的な認証情報の更新が必須です。
ビジネスチャットは一般的に、業務用途を前提に設計されています。登録したアカウントのみがメッセージをやり取りできるため、メールよりもセキュリティに優れていると言えるでしょう。
ビジネスチャットと主なセキュリティリスク対策
先述のとおり、ビジネスチャットはメールよりも比較的セキュリティに優れています。ですが、ビジネスチャットも特有のセキュリティ対策を行わないと、後々トラブルを招きかねません。
ビジネスチャットの主なセキュリティ対策は、以下のとおりです。
- ウイルス・マルウェア対策
- 誤送信による情報漏洩防止
- アカウント乗っ取りとなりすまし攻撃の防御
- シャドーITのリスク管理
ここでは、上記の対策について詳しく見ていきましょう。
ウイルス・マルウェア対策
ビジネスチャットを通じて受け取った添付ファイルやリンクは、マルウェア感染の経路となる恐れがあります。全ての添付ファイルは開く前に必ずウイルススキャンを実施し、全ての端末に最新のウイルス対策ソフトを導入することが重要です。
マルウェア感染は情報漏洩だけでなく、端末内のデータを完全に削除されるリスクもあり、業務の大幅な中断や機密情報の流出につながりかねません。
企業はビジネスチャットで共有されるファイル形式の制限や、ファイル共有時の自動スキャン機能を持つツールを選定しましょう。不審なリンクをクリックしないよう、ユーザー教育を徹底することで、リスクを最小化できます。
誤送信による情報漏洩防止
チャット内での誤送信は、機密情報漏洩の主要な原因となります。メッセージ送信前には必ず宛先と内容を再確認し、重要文書には別途パスワードを設定して、別の連絡手段でパスワードを伝達するのが望ましいです。
名前が似ているトークルームや、社内外のメンバーが混在するグループチャットでは、特に誤送信のリスクが高まります。社外メンバーを含むチャットルームは、視覚的に区別できるように設定する工夫も効果的でしょう。
万が一、機密情報が誤って共有された場合の対応手順(メッセージの即時削除、管理者への報告、影響範囲の確認など)をあらかじめ定めておくことも、被害を最小限に抑えるために重要です。
アカウント乗っ取りとなりすまし攻撃の防御
アカウント情報の漏洩は、なりすましや情報抜き取りにつながります。大文字・小文字・数字・記号を組み合わせた8桁以上の複雑なパスワードを設定し、全てのユーザーに二段階認証の導入を義務付けることが効果的です。
パスワードは定期的に変更し、複数のサービスで同じパスワードを使い回さないようにしてください。また、ログイン情報を他者に見られないよう周囲に注意することも徹底すべきです。
管理者側では、長時間未使用のアカウントを自動的にログアウトさせる設定や、不審なログイン(通常と異なる時間帯や場所からのアクセスなど)を検知する機能を活用し、不正アクセスの早期発見に努めましょう。
シャドーITのリスク管理
社員が個人所有のデバイスや未承認アプリを業務に使用すると、情報漏洩リスクが高まります。そのため、業務には会社が許可・支給した端末とソフトウェアのみを使用するよう、明確なルールを策定しておくと安心です。
シャドーIT(※)が発生する主な理由は、公式ツールの使いにくさや機能不足にあります。使いやすく十分な機能を持つビジネスチャットを選定し、社員からのフィードバックを積極的に取り入れてツールを改善する姿勢が重要です。
※企業が許可または把握していない状態で従業員が業務に利用する、IT機器やサービスのこと。
完全な禁止が難しい場合は、承認済みの個人デバイス(BYOD)に対するセキュリティ基準を設定しましょう。会社データにアクセスする全ての端末に、共通のセキュリティ対策(リモートワイプ機能、データ暗号化など)を適用するのが望ましいです。
セキュリティが万全なビジネスチャットツールの選び方
ここまで、ビジネスチャットのセキュリティ対策を紹介しました。導入後の対策も大事ですが、まずは自社に適したビジネスチャットツールを選ぶことが大切です。
セキュリティが万全なビジネスチャットツールを選ぶ際は、以下のポイントを意識しましょう。
- 必須のセキュリティ機能が標準化されているかを確認する
- オンプレミス型とクラウド型の安全性を比較する
- 操作性と安全性を両立させる
ここでは、上記のポイントについて詳しく解説します。
必須のセキュリティ機能が標準化されているかを確認する
安全なビジネスチャットを選ぶ際は、必要十分なセキュリティ機能が搭載されているかを確認することが重要です。特に、以下の機能は必須と言えるでしょう。
- 通信暗号化
- 二段階認証
- ログ保存
- アクセス権限管理
- 安全な通知機能
その他には、ログインセッションの管理(複数デバイスでのログイン状況確認、リモートログアウト機能)、データの地理的保存場所の指定(GDPR対応など)、メッセージの自動削除機能、モバイルデバイス紛失時のリモートワイプ機能なども、より高度なセキュリティを求める場合に考慮すべき点として挙げられます。
オンプレミス型とクラウド型の安全性を比較する
ビジネスチャットの導入では、オンプレミス型とクラウド型のそれぞれの安全性と特性を比較検討することが肝心です。
オンプレミス型は、高いセキュリティ性と自社管理が最大の特長です。特に金融機関や官公庁など、厳格なセキュリティが求められる業種に適しており、サーバーやネットワークの物理的・論理的分離による情報漏洩リスクを低減できます。しかし、導入・運用コストは高くなる傾向があります。
一方、クラウド型は低コストで利便性が高いのが魅力です。クラウド型を選択する場合は、国際的なセキュリティ認証を取得しているサービスがおすすめです。また、データの暗号化、アクセス制限、監査機能などを最大限に活用できる担当者の配置が必須となります。
操作性と安全性を両立させる
ビジネスチャットツールは、必要十分な保護機能を備えつつ、直感的に操作できるインターフェースを持つものを選びましょう。導入前には、無料トライアルで社員の使用感を確認することが重要です。
セキュリティレベルを上げるほど、ユーザー体験は低下しがちです。過度に複雑なセキュリティ設定は、社員が非公式なツール(LINEなど)に流れる原因となります。そのため、実際の業務プロセスに合わせた、適切なバランス設定が求められます。
製品選定時には、実際のユーザーとなる部門の代表者を含めた評価チームを結成しましょう。2週間程度のトライアル期間を設けて、日常業務での使いやすさとセキュリティ機能の両立度を評価するのが望ましいです。
ビジネスチャットに必要なセキュリティ機能とは
先述の通り、ビジネスチャットツールの選定では、必要十分な機能が搭載されているかの確認が重要です。
特に、以下のセキュリティ機能は必須と言えます。
- 暗号化技術でデータを保護する
- ユーザー認証と権限管理システムを活用する
- ログ監査とトレーサビリティで対応速度を上げる
- 情報バックアップと復旧機能を確保する
ここでは、上記の機能について詳しく見ていきましょう。
暗号化技術でデータを保護する
ビジネスチャットは、端末、通信、そしてサーバーの各段階で、エンドツーエンドの暗号化が主に採用されています。そのうえで、情報傍受や端末盗難があっても、内容を解読されない保護レベルを確保することが重要です。
特に機密性の高いやり取りには、高度な暗号化機能を備えたツールを選ぶとよいでしょう。たとえ将来的に暗号鍵が漏洩する事態に陥ったとしても、過去の通信内容が保護されるため、長期的なセキュリティが確保できます。
ユーザー認証と権限管理システムを活用する
効果的なユーザー認証と権限管理では、IPアドレス制限と端末認証を組み合わせるのがおすすめです。ユーザーごとに最小権限の原則に基づき、アクセス制御を実装することでセキュリティを強化できます。
特定の社内ネットワークやVPN接続時のみ、アクセスを許可するIPアドレス制限と、事前登録された端末からのみ、ログインを許可する端末認証を組み合わせれば、未承認デバイスからのアクセスを物理的にブロックすることが可能です。
また、ロールベースのアクセス制御(RBAC)を導入し、職務や部門ごとに適切な権限テンプレートを作成しておくのも有効です。人事異動や組織変更時にも、迅速かつ一貫性のある権限設定が可能になり、過剰な権限付与による情報漏洩リスクを減らせます。
ログ監査とトレーサビリティで対応速度を上げる
ログ監査機能では、全操作の自動記録により、不正アクセスや情報漏洩が発生した際の原因追跡と証拠保全を可能にします。定期的にログ監査を行い、不審な活動の早期発見ができる体制を整えることが重要です。
監査ログには、最低でも「いつ、誰が、どこから、何にアクセスし、どのような操作を行ったか」の5W1Hを記録しましょう。これらのログは、タイムスタンプと操作内容の改ざん防止機能を備えたシステムで保存する必要があります。
また、セキュリティ監査の効率化のため、AI分析機能を活用した異常検知システムの導入も検討すべきです。深夜の大量ダウンロードといった、通常とは異なるアクセスパターンを自動検出し、セキュリティ担当者にアラートを送信する仕組みにより、トラブル発生時もスムーズに対応できます。
情報バックアップと復旧機能を確保する
情報保護には、暗号化された自動バックアップ機能が欠かせません。端末障害や紛失時にもデータの喪失なく、迅速に復旧できる仕組みを確保し、定期的な復旧テストでシステムの信頼性を検証しましょう。
バックアップは「3-2-1ルール」に従い、差分バックアップと完全バックアップを組み合わせた体制を構築してください。「3-2-1ルール」とは、データの3つのコピーを2種類の異なるメディアに保存し、そのうち1つは異なる場所に保管するというルールです。
また、四半期に一度は実際のバックアップデータから本番環境と同等のテスト環境への復元を実施し、目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)が達成できるか確認しましょう。この復旧テストにより、実際の災害やサイバー攻撃発生時の事業継続計画(BCP)の実効性を担保できます。
社内で実施すべきビジネスチャットのセキュリティ対策
ここまで、ビジネスチャット側でのセキュリティ対策を紹介しました。ビジネスチャットをより安全に利用するには、社内に向けた対策も欠かせません。
社内で実施すべきビジネスチャットのセキュリティ対策は、以下のとおりです。
- セキュリティポリシーを決める
- 従業員のセキュリティ意識を高める
- 安全なパスワード管理と認証を徹底する
ここでは、上記の対策について詳しく見ていきましょう。
セキュリティポリシーを決める
セキュリティポリシーには、以下の内容が必須です。
- 具体的行動指針の明文化
- 経営層の承認と支持
- 定期的な見直しと更新
- 違反時の対応手順
セキュリティポリシーを作成する際は、単に禁止事項を列挙するだけでなく、「なぜその行動が必要なのか」という理由を説明しましょう。具体的な実施手順まで含めた実用的なガイドライン形式にすることで、社員の理解と遵守率が大幅に向上します。
また、経営層によるセキュリティ宣言を冒頭に掲げ、組織のセキュリティ文化を育んでいくことも大切です。違反時の対応フローと責任範囲を明確化することで、「誰が」「どのように」対応するかの混乱を防ぎ、インシデント発生時の被害最小化につながります。
従業員のセキュリティ意識を高める
セキュリティ意識向上には、以下の取り組みが効果的です。
- 実際の漏洩事例を共有する研修
- フィッシング対応のシミュレーション訓練
- セキュリティ意識の高い行動の評価制度
- 継続的なセキュリティ教育と動機付け
座学だけの研修は効果が薄いため、自社でトラブルが発生した場合のシミュレーションも欠かせません。このとき、実際に起きた情報漏洩事例とその経済的・社会的影響(賠償金額、株価下落、信頼喪失など)を、具体的な数値で示してください。
模擬フィッシングメールを定期的に送信し、騙されやすい部署や個人を特定して集中的な教育を行うのも重要です。セキュリティインシデントの早期発見・報告を評価する制度を設け、「報告すると叱られる」という誤った認識を払拭することで、組織全体のセキュリティレジリエンスを高められます。
安全なパスワード管理と認証を徹底する
パスワード管理では以下の取り組みが、セキュリティと利便性のバランスを保つうえで効果的です。
- 二段階認証の必須化
- 完全に異なるパスワードへの定期的な変更
- 企業向けパスワード管理ツールの導入
パスワードの複雑さよりも長さを重視し、最低16文字以上のパスフレーズを推奨すると、覚えやすく解読されにくいパスワードになります。企業向けのパスワード管理ツールを活用すれば、強力なパスワードの自動生成、安全な共有、アクセス権の一元管理が可能です。
特に、退職者のアカウント管理や緊急時のアクセス権限移譲などが容易になるでしょう。
ビジネスチャットのセキュリティを今すぐ強化しよう
ビジネスチャットの安全性を高めるには、高機能ツールの選定、明確な社内ルールの策定、継続的な社員教育という三位一体の取り組みが不可欠です。常に、最新の脅威に対応できる体制を整えましょう。
セキュリティ対策の第一歩として、暗号化通信や二段階認証を備えたツールを選ぶのをおすすめします。加えて、添付ファイルの取り扱いルールを定め、社員全員に基本研修を実施するのが望ましいです。
情報漏洩は、企業の信頼とビジネスに深刻なダメージを与えます。セキュリティ対策を一過性ではなく、継続的な取り組みと位置付け、定期的な見直しと改善を行うことで、長期的な情報保護を実現しましょう。