ビジネス文書の書き方 第4回 年賀状のマナー
この連載では、ビジネス文書の適切な書き方をお伝えします。
ビジネス文書や挨拶文には、一定の書式があります。今回は、年賀状のマナーを考えてみましょう。
【宛先】
文字の大きさや行頭の位置をバランス良く整えましょう。書体は端正なフォントを選ぶのが無難です。
通常はがきを使う場合は、「年賀」と朱書きを入れましょう。記載せずに投函すると年内に配達されてしまうため、ご注意ください。
-
住所
郵便番号の右側2つの枠の中央に位置を合わせます。番地などの数字は、縦書きの場合は一般的に漢数字を用います。マンション名などはできれば省略せず、住所より一回り小さめに書きます。都道府県名も略さず記載しましょう。
-
宛名
郵便番号の太枠3桁の中央に合わせ、大きめの文字で書きます。
<社用>
会社や部署など宛先が団体・組織の場合、敬称は「御中(おんちゅう)」を用います。
A社宛の場合は、
株式会社○○○○御中
A社のB部宛の場合は、
株式会社○○○○ ○○部御中
のように書きます。
宛先が個人の場合は「様」とするのが一般的です。
「御中」と「様」を併記するのは、宛名の重複に当たります。
A社のB部に所属するCさん宛の場合、
株式会社○○○○ ○○部
○○ ○○様
と、社名や部署名には「御中」をつけず、氏名に「様」を付します。
先方の全員を宛先とする場合は、
株式会社○○○○ ○○部
ご一同様
とするのが良いでしょう。
<私用>
次に、私信として送る年賀状を考えてみましょう。
宛先を夫婦連名とする場合は、
○○ ○○様
○○様
と、いずれも「様」をつけます。
家族全員に宛てる場合は、
○○ ○○様
ご一同様
と書くのが一般的です。「ご一同様」の代わりに「皆様」でも差し支えありません。
<社内の人に出す場合>
会社の上司や同僚に年賀状を出すこともあるでしょう。
自宅に送る場合、氏名の敬称は「様」とし、「社長様」「部長様」のように肩書と「様」を併記するのは誤りです。
- 差出人
住所・氏名とも、差出人側の郵便番号の幅に収まるように書きます。
<社用>
社用の場合、どの役職の人を差出人とするか検討してみてください。
・宛先が会社の場合:差出人は社名のみ、または社名と代表者名を併記
・宛先が部署の場合:差出人は社名と部門長名
・宛先が個人の場合:差出人は社名・部署名・差出人名
など、ケースに応じて記載しましょう。
<社内の人に出す場合>
差出人の氏名に
(本社 企画部)
といった具合に所属名を記載すると、受け取った人も分かりやすいでしょう。
- 筆記用具
毛筆や万年筆を使用するのが端正ですが、使い慣れていなければ筆ペンやボールペンで十分です。
- 文字の色
黒が基本ですが、青でも構いません。薄墨は弔事用なので、年賀状には使用しません。
書式4例を別紙に添付しています。年賀状サイズで印刷できますので、ご活用ください。
【文面】
<社用>
ビジネス年賀状は、会社の印象を左右するだけでなく、取引先や顧客との良好な関係を維持するためにも効果的です。特に、サービス業や店舗にとっては重要な販促ツールにもなりますので、有効に活用しましょう。
<私用>
年に一度、年賀状のみのお付き合いの人もいるでしょう。心をこめて書きたいものです。
<文例>
次の要素が入るよう組み立てましょう。
・新年を祝う賀詞や挨拶
・日ごろの感謝やお礼を述べる文
・変わらぬ親交や指導を願う文
・自分の近況や抱負などを伝える文
・先方の健康や幸福を願う文
・年号、日付
<手書きで一言添えましょう>
「お嬢様のご入学が楽しみですね」「久しぶりにみんなで会えたらいいね」など、送り先に合わせて手書きで一筆添えると、いっそう喜ばれます。
<横書きでもOK>
はがきは慣例的に縦書きで使いますが、私信の年賀状は横書きでも問題ありません。ただし取引先や目上の人に対しては、縦書きを用いるほうが端正な印象になります。
<望ましくない文例>
文言を確認し、次の点に注意しましょう。
①賀詞
漢字一文字や二文字はやや略式ですので、目上の人には四文字の賀詞や文章を使うのがふさわしいとされています。
一文字 … 寿/福/賀/春
二文字 … 賀正/賀春/頌春/迎春/初春/新春
四文字 … 謹賀新年/恭賀新年
文章 … あけましておめでとうございます/謹んで新春のお慶びを申し上げます
英文 … Happy New Year
②賀詞の重複
この例文では「賀正」と「あけましておめでとうございます」の賀詞が重複しています。
また「新年あけましておめでとうございます」は、「新年」と「あけまして」の意味が重複しますので、「新年おめでとうございます」とするのが良いでしょう。
③忌み言葉
切・終・枯・衰・破・失・倒・滅・落・離・消・壊・崩・苦などの忌み言葉を使用しないよう気をつけたいものです。
「去」も避けたい言葉ですので、「去年」ではなく「昨年」「旧年」としましょう。
④句読点
句読点( 、 。 )は「区切り」「終わり」を意味するため、お祝い文にはふさわしくありません。改行やスペースを活用して、句読点がなくても読みやすいよう工夫しましょう。
⑤日付の重複
この例文では「正月」と「元旦」が日付の重複になります。「旦」とは「地平から日が昇る様子」を表した象形文字で、「元旦」は「元日の朝」すなわち「一月一日」を指します。
年号は西暦で表記しても構いませんが、元号と西暦は併記しません。
以上を踏まえて、次のように改めましょう。
↓ 修正例
【年賀状の豆知識】
●縁起物
年賀状のイラストによく描かれる縁起物には、次のような意味があります。
・富士山
末広がりの姿が秀麗な富士山は、古くから信仰の対象であり、文化芸術の源でもあります。「富士」は「不死」に通じて不老長寿を表し、「無事」にも通じて無病息災や家内安全の祈願にも良いとされています。「一富士、二鷹、三茄子」の言葉通り、初夢に見たいものとして一番に挙げられます。
・鶴亀
「鶴は千年、亀は万年」と言うように、どちらも長寿を表す縁起物です。鶴のつがいは仲睦まじく一生相手を変えないことから、夫婦愛の象徴とされます。亀の六角形の甲羅は「亀甲」と呼ばれ、模様が連続して崩れないことから日本伝統の吉祥文様の一つです。
・門松
お正月に玄関や門前に飾られる門松は、年神様が迷わず家に入ってくるための目印です。年神様とは、家々に新年の幸福と豊作を運んでくれる神様で、祖先の霊や田の神、その年の福徳を司る神などが一緒になった民間信仰です。
・七福神と宝船
幸福や運、財産などを運んでくれる七柱の神様たち。宝船に幸せを象徴する宝物をたくさん乗せてやってきます。年の始めを華々しく飾る、めでたさ盛りだくさんの年賀状モチーフです。
●年賀状の歴史
日本では古来、お世話になった人や一族の長のもとへ、年の初めに挨拶に出向く「年始回り」の習慣がありました。直接訪問できない遠方の人には、文書によって年始の挨拶を述べるのが礼儀でした。明治以降には郵便制度の確立により、安価で簡便な年賀はがきが定着しました。
近年は、メールやSNSの普及により年始の挨拶をデジタルで済ませる人が増えました。書く手間も投函する手間もいらず、住所を知らない相手に送ることもでき、とても便利なツールですね。
しかし年賀状には、デジタルにはない魅力があります。ごぶさたしている人と年に一度のつながりを確かめ合ったり、温かさやお正月らしさを感じたり。
年賀状は、贈り物だと思う。――これは日本郵政の年賀状キャンペーンのキャッチコピーですが、「その通りだな」と感じさせるものがありますね。