タレントマネジメントとは? 目的や効果・導入方法まで解説
タレントマネジメントという言葉を聞いたことはあっても、その意味を詳しく知っていますか。この10年、人材育成の観点から、タレントマネジメントという言葉が広がりをみせています。
「タレント」という言葉の意味を深く知ることで、人材育成の分野においての必要性や目的がわかるようになります。
この記事では、タレントマネジメントのあれこれを、さまざまな視点から紹介していきます。
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントについては二つの概念が存在します。まずは、SHRMとASTDが掲げるそれぞれの定義に焦点を当て、タレントマネジメントについて紹介します。
タレントマネジメントの意味
タレントマネジメント(Talent Management、TMと略される)とは、従業員が持つタレント(能力・資質・才能)やスキル、経験値などの情報を一元管理することで、組織横断的に戦略的な人事配置や人材開発、評価を行うことです。住所、年齢、学歴、職務経歴などの基本的な情報に追加登録し、活用することは、企業には組織成長、業務効率化が図れるというメリットもあります。
タレントマネジメントという概念は、1990年代にアメリカの大手コンサルティング会社、マッキンゼー&カンパニー社が「War for talent(人材育成競争)」というキーワードを発信したことから生まれ、2000年以降「優秀な人材の早期発掘、適正配置、育成支援に至る一連のプロセスを統合的にとらえる人材マネジメント」として、欧米企業を中心に広まりました。
世界最大の人材マネジメント協会である「SHRM」は、2006年度版タレントマネジメント調査報告書のなかで、タレントマネジメントとは、「人材の採用、選別、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること」と定義しています。
また、米国人材開発協会の「ASTD」では、「仕事の目的達成に必要な人材の採用、人材開発、適材適所を実現し、仕事をスムーズに進めるため、職場風土、仕事に対する真剣な取り組み、能力開発、人材補強・支援部隊の強化の4つの視点から、実現しようとする短期的・長期的、ホリスティックな取り組みである」と定義しています。(2009年版)
それぞれ定義する説明文に違いはありますが、「人材の採用、人材開発・評価などの人事施策の効率化と適正化による組織成長が目的」と、目的と意味において同じ方向性を持っています。SHRMやASTDではタレントマネジメントの導入状況を、成功事例として発表しています。
人中心の考え方を起点に、さらにグローバルで組織横断的に人材の活用と開発を進めようとしているのが、タレントマネジメントです。日本では、2011年から急激に注目を浴び始めたシステムです。
タレントマネジメントの必要性
日本でタレントマネジメントが必要とされるようになった背景に、次のような課題解決への期待があります。
- 少子高齢化による労働力不足
今後ますます進む少子高齢化によって、これまでのように新卒採用でまとめて多くの人員を確保し続けることが難しくなっています。そこで、今の限られた人的資源でいかに生産性を維持し、向上させていくかという視点が求められるようになってきました。
- 経済のグローバル化
近年における産業・経済のグローバル化、技術革新、情報化の進展により、企業間競争は激化しています。多くの企業は、経営効率を上げるためにリストラやダウンサイジングを進め、年功序列や終身雇用制を廃止し、成果主義的な要素が強くなり、組織改革やマネジメント強化などを進めています。そのため、世界を相手に競争して勝ち残る力を持つ人材を育成する必要が急務となっています。
- 人材の多様化
「社員=組織の歯車」という考えから、個々人の仕事に対するやりがいや社会的意義を大事にする人が増えてきています。また、時短勤務や在宅勤務、ワーケーションなどの選択の幅が広がり、ワークバランスを重視する人も多くなっています。このように多様化する働き方や仕事に対する価値観に応じて、従来の画一的な人材マネジメントではなく、多彩な人材の能力を最大限に発揮できる仕組みづくりが企業に求められています。
- 働き方改革推進
政府が進めている「働き方改革」のなかでとくに注目されているのが、長時間労働の是正です。この実現には、社員一人ひとりの生産性向上が要となります。
参考:リクルートワークス研究所|日本企業におけるタレントマネジメントの展開と現状 (works-i.com)
タレントマネジメントを会社で行う目的
タレントマネジメントを導入するにあたり、会社がどのように発展していくのか、その目的を知ることは、業務改善に繋がります。ここでは、目的について説明します。
経営目標の達成
タレントマネンジメントの最大の目的は、「売上や利益を上げる」「事業拡大」などの経営目標を達成させるために、人事戦略面からバックアップし実現していくことです。企業の戦力となる優秀なリーダーを育成し、企業の経営目標をどう達成するのかについて、戦略を立てることが重要となります。
人材の確保
経営目標を達成するために、必要となる人材を集めることです。新卒や中途採用で企業外から人材を確保することや、すでに企業内にいる人材からの発掘などがあります。
人材育成の推進
社員の強み、弱点を適切にマネジメントすることで、各自が抱える課題解決に向けた教育、育成を効果的に行うことができます。企業が求める人物像と現状との差を埋めるために、育成計画を立案し、経験を積ませたり、研修を実施したりします。
適材適所への人員配置
社員の経験、能力、スキルなどをデータとして可視化することで、企業が求める人材の把握、管理がしやすくなり、効率的に人選ができるようになります。その結果、適材適所の人員配置が可能になります。
公正な人事評価制度の構築
人事評価は明確で公正な基準が必要です。評価基準が曖昧で、業務内容や評価者によって評価にばらつきが出た場合は、社員から会社に対する不信感や不満に繋がります。タレントマネジメントによって、一元管理したスキルや能力、キャリアビジョンなどのデータに基づいてスコアリングされるため、客観的で公正な人事評価が可能になります。
離職防止
採用し、育成した人材に長く活躍してもらうために、離職を予防することもタレントマネジメントの役割です。企業が目指す方向性と社員のキャリアビジョンのすり合わせや、能力に見合うポストや報酬の提供が必要になります。
タレントマネジメントを導入する効果
タレントマネジメントを導入することで、会社にはどのような効果が生まれるのでしょうか。具体例を挙げますので、導入の参考にしてください。
社員のモチベーション、満足度、エンゲージメントの向上
社員それぞれの特性や能力、スキル、キャリアビジョンなどに応じた育成や適材適所の配置、目標設定、公正な評価が可能になるため、社員の仕事に対するモチベーション、満足度、企業への帰属意識や愛着心が高くなります。その結果、社員の離職を防ぐことにも繋がります。
仕事の質、効率、能力向上
社員一人ひとりに応じた人材育成、適材適所の配置により、もともと備わっていたスキルや能力を伸ばすことや、新たな能力や可能性を引き出すことにも繋がり、仕事の質と効率アップが期待できます。
新規採用や育成コストの削減
新たに採用した社員ではなく、内部にいる社員から必要な人材を発掘し、必要に応じて育成、適材適所の異動を行うことで、新卒や中途採用にかかるコストの削減にも繋がります。内部の社員であれば、新卒のように育成にかかる費用と時間も節約でき、即戦力としての活躍が期待できます。
企業の成長と業績アップ
社員個人の成長や働きがいを高めることによって、ひいては企業の成長にも繋がります。計画的で持続的な人材活用(タレントマネジメント)によって、経営戦略を支え、企業の最大の目的である業績アップや事業拡大などの経営目標の達成の実現が可能になります。
また、企業が提供するサービスや製品の質の向上にも、顧客満足度や企業自体の魅力アップにも繋がることでしょう。
タレントマネジメントの導入手順
タレントマネジメントを導入する目的と効果を知ったところで、次は導入までの流れについて説明します。
1.自社のマネジメントの現状と課題の把握
対象となる社員の人数、スキル、能力、経験、目標、評価などの情報をデータとして可視化をします。そのなかで人事戦略と比較して、各自の能力や目標がどの程度達成しているか否かを把握します。そのうえで、経営戦略や経営目標達成に必要な課題の洗い出しを行います。
なお、社員のデータは常に最新の情報にアップデートしておく体制を整えておくことが重要です。
2.目的・目標の明確化
洗い出した課題を基に、タレントマネジメントを導入する目的と目標を定めます。「何のために導入するのか」「パートやアルバイトを含めた全従業員を対象にするのか否か」「ターゲットを絞るとしたら、どんな人材が何人必要なのか」「新規採用、内部社員の育成のどの方法で人材確保をするのか」「どう経営改善に活かすのか」など、経営戦略と経営目標に応じた人事戦略を明確にする必要があります。
3.人材の選別、整理、採用、育成
タレントマネジメントの導入に合わせて立案し直した人事戦略を基に、データベース化した人材のなかから候補者をピックアップします。社員数が多い企業であれば、グループ化しておくと管理しやすくなります。
求める人材に不足がある場合は、新規採用で補うのか、今いる人材を育成するのかを決めるといいでしょう。
4.適材適所の人員配置
育成計画に基づき、人材を適材適所に配置します。配置後は現場の管理監督者が、社員が想定どおりの能力を発揮できているか、能力やスキルアップに繋がっているか、モチベーションは上がっているかなどを随時チェックすることが必要です。
これらの把握した内容は人事部門と共有し、データ化された個人の情報を更新する必要があります。
5.効果評価と見直し
実施状況と効果測定を定期的に実施し、課題が見つかれば、必要に応じて育成計画や体制、目標の見直しを図り、改善することが重要です。また、管理監督者と部下による面談を随時行うことも欠かせません。
6.PDCAを繰り返す
タレントマネジメントは一度だけで終わらさず、中・長期的な目標を立て、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことが重要です。
従業員情報の集約や一元管理をするのは、従業員数が多いほど容易ではありません。「タレントマネジメントシステム」は、さまざまな企業から開発されています。自社に合うものを選んで活用するといいでしょう。
タレントマネジメントについてのまとめ
人材育成の観点からのタレントマネジメントについて解説しました。
まとめると、以下のとおりです。
- タレントマネジメントとは、従業員が持つスキルや情報を一元管理するシステムのこと。
- タレントマネジメントの必要性が、ここ10年で変化してきている
- タレントマネジメントは目的を持って導入したほうがよい
- タレントマネジメントを導入することで、さまざまな効果を生む
- タレントマネジメントシステムはさまざまな企業から開発されている
業務改善や人材育成の一環として、タレントマネジメントシステムの導入を検討している会社は、ぜひ役立ててください。
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