文章スキルを磨く 第9回 敬語の「お」と「ご」をどう使い分ける?
ビジネスでも私生活でも、読みやすく分かりやすい文章を書きたいものですね。
この連載では、昨日より少しだけ文筆を上達させるスキルや、日本語の豆知識をお伝えします。
今回は、使い分けに迷う敬語「お」と「ご」について考えてみましょう。
敬語の種類
敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類がある、と学校で習ったことを記憶している方が多いでしょう。
尊敬語は、相手を高める表現です。
- 社長がおっしゃっています。
- お客様がお見えになりました。
謙譲語は、自分がへりくだる表現です。
- 私から申し伝えます。
- 後ほどお伺いいたします。
丁寧語は、言葉を柔らかくする表現です。語尾の「です」「ます」の他、名詞に「お」や「ご」を付けて敬語にすることができます。
- 尊敬表現:お心遣い お気持ち ご教示 ご都合 ご意見
- 謙譲表現:お届け お伝え ご進言 ご相談 ご説明
などです。
「美化語」という分類も
その後、新たな分類が加えられ、「美化語」という区分が設定されました。
「社長、私がお鞄(かばん)をお持ちします」と言う時の「お鞄」は社長への敬語であるため丁寧語に当たりますが、「お花にお水をあげる」の「お花」や「お水」は誰かに敬意を示す表現ではありません。このような語を「美化語」と呼びます。
- 美化語の例:お買い物 お茶 お天気 ご飯 ご本
といった言葉です。
和語は「お」、漢語は「ご」
では、「お」と「ご」の違いを意識したことはありますか?
この2つの使い分けには、実はしっかりとした決まりがあります。和語(日本古来の言葉)には「お」を付け、漢語(中国伝来の言葉)には「ご」を冠する、というルールです。
簡単に言えば、漢字の訓読みの場合は「お」、音読みの場合が「ご」となるのです。
- 「お」+和語:お車 お手紙 お知らせ お断り お金
- 「ご」+漢語:ご注意 ご用件 ご住所 ご利用 ご計画
だとお考えください。
多くの例外も
ルール通りに、訓読みの「友達」は「お友達」、音読みの「友人」は「ご友人」のように、基本形が守られた語もあります。
ところが、「大事」「大切」はともに音読みであるのに、「お大事に」「ご大切に」と、「お」と「ご」の使い方が分かれます。
このように実情はずいぶん揺れがあり、漢語に「お」が付く語や、和語に「ご」が付くケースなど、例外が多数見られるのです。
- 「お」+漢語:お野菜 お化粧 お食事 お礼状 お時間
- 「ご」+和語:ごゆっくり ご入り用
- 「お」「ご」どちらも使う語:お返事/ご返事 お誕生/ご誕生
う~ん、混乱しそうです。
世間の人は何と言う?
「お」と「ご」のどちらを使うか、『明鏡国語辞典』編集部が調査したデータがあります。
<質問>
次の語を敬語表現で使う時、「お」「ご」のどちらを付けますか。場面や相手によって使い分ける場合には「どちらでも良い」を選んでください。
<回答>
改まった場面では「ご」、日常会話では「お」
なぜ、こんなにルールが乱れてしまったのでしょうか。
まず、漢語と和語を簡単に区別できないことが理由として考えられます。それに、そもそも漢語か和語かを意識することは滅多にありませんよね。
漢語の場合、「ご」を冠することが定着しているものは、当然「ご」となります。また、普段あまり使わなくても漢語的に感じられる語にも、「ご」を付ける傾向が見られます。
しかし、耳になじんだ言葉は、漢語であっても「お」になることが多いようです。
「礼状」「加減」「時間」「会計」などに「お」を付けるのは、これらの言葉は日常語で、和語とあまり隔たりのない感覚で使われるためだと思われます。
一方、和語について見てみると、ほぼ「お」を冠する基本が守られているようです。
ただし、「ごゆっくり」や「ご入り用」などは、このルールに当てはまりません。
「ごゆっくり」がなぜ「ご」なのか理由は分かりませんが、「おゆっくり」とは発音しにくいからとも考えられます。
「ご入り用」は、「用」の読み方が漢語らしい印象を与えるため、「ご」を付けるのかもしれません。
「葬儀」「葬式」はともに漢語であるものの、手紙の文面など改まった場面では「ご葬儀」、日常会話では「お葬式」と言いますね。
「餞別」は、「お餞別」「ご餞別」のどちらも使われます。
熟語の語順が入れ替わった「誕生」と「生誕」では、漢語らしい硬い響きの「生誕」には「ご」を冠します。
「誕生」なら、「ご誕生おめでとうございます」「お誕生おめでとうございます」のどちらでも、という人が多いでしょう。
そして、「お誕生日」「お誕生会」のような柔らかい言葉づかいでは「お」となるのですね。
「お」と「ご」は母音が同じで近い音であることも、揺れの原因のひとつなのかもしれません。
そして基本ルールだけでなく、慣用性や発音のしやすさも関係するようにも思えます。
さらに、「おはよう」や「ごめんなさい」のように慣例として定着し、今では接頭語の「お」「ご」がなければ意味が成り立たない言葉もあります。
外来語の場合は、どちらを付ける?
なお、カタカナ表記の外来語の場合は、「お」か「ご」か、どちらが良いのでしょうか? 答えは簡単です。和語でも漢語でもありませんから、どちらも付けませんよ。
この連載の前回で「変な接客言葉」を紹介しましたが、「おビールお持ちしました」の「おビール」も、当時はとても珍妙な印象を与える言葉でした。
元は「接待を伴うお店」(この言葉、コロナ初期によく耳にしましたよね)の接客用語でしたが、現在は広く飲食店で使われています。
近年は「おジュース」「おソース」などの言葉も聞かれるようになりましたが、「おウイスキー」「おステーキ」とは言いません。でもいつか、これも日常語になる日が来るのかもしれませんね。
使い分けに困ったら
意外に難しい「お」と「ご」の使い分けですが、迷った時のために、とっておきの秘策をお授けしましょう。
漢字で「御」と書いてしまえばいいのです!
「御返事」と書けば、読み方は「お返事」でも「ご返事」でも、相手の判断次第ですから。
もっとも、口頭ではこの手は使えませんが…。
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