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今ひそかに注目の経営資源引継ぎ補助金は日本経済の低迷を救えるか

著者: 中小企業診断士  山本 哲也

今ひそかに注目の経営資源引継ぎ補助金は日本経済の低迷を救えるか

今回は、“経営資源引継ぎ補助金”について、その概要をお伝えします。

申請期間や事業期間が短いため、活用は簡単ではありませんが、もし引継ぐ相手が決まっていなくても、申請は可能です。

「どのような制度なのか?」「具体的にはどういった活用ができるのか?」を知った上で、事業革新のよいきっかけにしていただければと思います。備えあれば憂いなしです。


1.経営資源引継ぎ補助金とは

経営資源と聞いて、みなさんは、何を思い浮かべるでしょうか?土地や建物?人材?資金?お客様?そうですね。それらはすべて「ヒト・モノ・カネ・情報」などと呼ばれている、いわゆる経営資源の一例です。ほかにもノウハウや知見、取引先や在庫などもすべて経営資源です。今回ご紹介するのは、それらの経営資源を次代の経営者に引継いでもらうために国が行っている支援策です。事業の“売り手側”と“買い手側”の双方に対する支援のお話が登場するので少々読みづらいと思います。まずは、あなたご自身の立場が売り手なのか、買い手なのか、を明確にした上でお読みいただくとより理解しやすくなります。
また、2020年度の公募は、8月下旬と10月下旬に終了していますが、令和2年度第3次補正予算に56.6億円が「事業承継・引継ぎ推進事業」としてすでに計上されていますので、2021年度も同様のペースで公募されることは間違いないとみられています。


(1)“経営資源引継ぎ補助金”とは、こんな制度です

日本では、中小企業経営者の高齢化はますます進んでおり、平均年齢は、61.73歳(東京商工リサーチ調べ、2018年)となっています。そして、70代以上の高齢経営者の企業では、業績の低迷が目立ち、減収減益となっているケースも多い状況です。しかしながら、開業率及び廃業率ともに4%前後と、他の先進国の半分以下という相当程度低い水準で推移しており、企業経営者の新陳代謝が進んでいません。下のグラフのように70歳を超える経営者の半数超で後継者が未定となっており、日本企業の3割にも迫る勢いです。

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出所:経営資源引継ぎ補助金ホームページ

このような中小企業に事業承継を促進し、雇用の維持や技術の伝承、組織再編による企業の効率化を支援するために本制度が設置されました。つまり、企業の新陳代謝を促進し、「日本経済の活性化を図りたい」という国の思惑が感じられる制度です。
仲介手数料やデューデリジェンス費用などM&A関連の費用が補助金の対象となるため非常に注目が集まりました。気になる採択率ですが、2020年度の第1回公募における買い手支援型は627件の申請のうち500件の交付が決定し、売り手支援型は739件の申請のうち589件の交付が決定しました。いずれも80%程度ですので、採択率は高めと評価してもよさそうです。ただし、公募期間はおよそ2週間となっており、こんなにタイミングよく活用できる案件は少ないのではないかと考えています。
しかし、以下の表をご覧ください。買い手支援型、売り手支援型の合計で229者、採択者の約20%が経営資源の引継ぎを促すための支援で申請し、採択されています。つまり、公募期間が短いため準備段階だけでも支援を受けることで、今後、事業承継などを行うためのよいきっかけを得ているのではないかと推察されます。

covid19-column44_02.jpg出所:経営資源引継ぎ補助金ホームページ

(2)補助される経費は?

売り手側へは、最大650万円、買い手側には最大200万円が一括支給されます。売り手側への補助が大きい理由は、廃業費用が最大650万円も補助されるためです。
一方で買い手側は、そのM&Aが指定された期間内(数か月)に完了する計画の場合は、「経営資源の引継ぎを実現させるための支援」を申請し、200万円の補助を受けることができます。ただし、期間内にM&Aが完了しない場合には、補助金額の上限は100万円となりますので、ご注意ください。

covid19-column44_03.png   

出所:筆者による独自作成

(3)経費申請のルール

すべての経費が認められるわけではありません。申請に関するルールを大まかに説明すると以下の通りです。

1 使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
2 補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費
3 補助事業期間完了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費

原則として2者以上の相見積もりが必須となっています。また、廃業費用に関しては、補助事業期間より前に契約・発注していた場合でも、補助事業期間内に再開したことが分かる覚書等を提出することで、補助事業期間内に支払った経費として認められます。いずれのルールも一般的な補助金と同内容となっており、特別使いづらいということはありません。

(4)経費の中身はどうなっていますか?

この補助金では事前の準備経費も補助対象として認められています。例えば、

1 謝金・委託費

士業などへの相談費用や書類作成を依頼した場合の代行費用がこれに当たります。

2 旅費

先方との打ち合わせなどで移動する際に生じた経費のこと。

3 システム利用料

バトンズなどのM&Aサイトへの登録料や利用料がこれに当たります。

その他、外注費や委託費などの項目もあるので、さまざまな費用を含めて補助を受けることが可能です。

一方、事業承継の場面では、売り手側だけに生じる費用があります。事業譲渡をした際の会社や個人事業の廃業に関わる費用です。これらにも補助が受けられる手厚い制度になっています。

1 廃業登記費

登記事項変更にかかる登録免許税や、士業へ委託した場合の申請資料作成費などがこれに該当します。

2 在庫処分費、解体・処分費

事業に利用していた在庫や設備の一切を引継ぐことができればよいのですが、実際の現場では、そうならないケースも多々あります。引継ぐ資産が顧客や従業員だけの場合や、まだ新しい設備だけに限定して引継がれるケースなどが考えられます。そのような場合に、手元に使わなくなった資産が残り、廃棄処分するようなケースを想定した支援です。また、賃貸物件では、原状復帰工事が必要になることが一般的ですが、その費用も支援が受けられます。


2.まとめ

このように大きな支援が受けられる補助金ですが、その目的は、

「事業再編・事業統合等に伴う中小企業者の経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助する事業を行うことにより、新型コロナウイルス感染症の影響が懸念される中小企業者に対して、

①経営資源の引継ぎを促すための支援

②経営資源の引継ぎを実現させるための支援

によって、新陳代謝を加速し、我が国経済の活性化を図ること」

となっています。

そして補助事業の要件は

1 事業再編・事業統合等に伴う引継ぎの後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれること

2 事業再編・事業統合等に伴う引継ぎの後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること

とされています。


つまり、国の方針も、すべての事業者を守る方針から、“一定の合理的な規模への再編”や“新規開業者の支援”を進め、日本経済を活性化させる方針へと変化していることが感じられます。
M&Aは、売り手にとっても買い手にとっても大きな事業です。今回の記事をご覧いただき、少しでも事業再編のイメージが持てましたら、まずは、各種プラットフォームへの登録や、無料セミナーなどを受講され、もう少し詳しく知識を習得することから始めてください。
今年の後半から、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた業種を中心に、事業再編が進むと予想されています。良い案件といつ出会えるかは未知数ですので日頃より自社の事業計画及び成長戦略についてブラッシュアップを繰り返しておくことが重要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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著者プロフィール

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山本 哲也

中小企業診断士

PROFILE
ライター,コンサルタント
1966年生まれ,大阪府大阪市出身。
1998年ビルクリーニング技能士取得
2019年年中小企業診断士登録
総合サービス事業会社にてオープンイノベーションによる新規事業開発を担当。得意分野は新規事業開発、事業企画、営業チームビルディング、フランチャイズビジネス

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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