第1回:新型コロナウイルス感染症における 中小企業の支援策
Q:当社は、居酒屋を経営する株式会社です。新型コロナウイルス感染症が蔓延し、特に2020年4月の緊急事態宣言が出されてから来客が激減し、店の売り上げが落ち込んでいます。
それまでの売上は順調であり、顧客も多いので、客足が戻れば営業を継続できると考えています。
そこで、当面の資金繰りの目処をつけたいと考えていますが、どのような方法があるでしょうか。
A:政府はさまざまな支援策を示しています。
金融機関による資金繰り支援策がありますので、検討してみてください。
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症により、移動の自粛要請から緊急事態宣言も発令されたため、2020年3月以降経済活動が停滞しました。その影響は中小企業ほど深刻です。政府は、急速に資金繰りが悪化した中小企業への支援策を打ち出していますが、これには、①返済不要な「給付型」と②金利や保証等の条件を緩和する「貸与型」に分類できます。
①給付型には、雇用調整助成給付金(経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的に休業等を行って労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当等の一部を助成するもの)等があります。
②貸与型は返済が必要ですが、通常の融資よりも金利等が優遇されているため、新型コロナウイルス感染症の影響が収まるまでの当面の資金繰りに役立てることができます。借入金になるため、資金の必要性の有無を検討して利用申込みをするとよいでしょう。
貴社は新型コロナウイルス感染症の影響で一次的に業績が悪化したとのことですから、①給付型はもちろんのこと、②貸与型を検討してはどうでしょうか。以下、②貸与型について紹介します。
2.金融機関による資金繰り支援策
経済産業省は、事業者への支援策として、「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」をまとめています(2020年6月19日更新)。ここでは、金融機関による新型コロナウイルス感染症特別貸付制度(6頁以下)を取り上げます。それには2種類あります。
①日本政策金融公庫や商工中金等の公的金融機関が扱うものと、②信用金庫など民間金融機関が信用保証協会の保証をつけて扱うものです。
(I) 公的金融機関による支援策
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- (1) 金利の引き下げ
- まず0.9%の金利引き下げを行う特別貸付制度です。
日本政策金融公庫および沖縄公庫による①「新型コロナウイルス感染症特別貸付」と②「小規模事業者経営改善資金融資(マル経融資)」、商工中金による③「危機対応融資」があります。売上高が5%以上減少した者に対し、信用力や担保によらず一律金利とし、融資後の3年間まで0.9%の金利引き下げを実施するものです。ここでは①を取り上げます。 -
融資限度額 中小企業事業6億円、国民生活事業8,000万円 貸付期間 設備20年以内、運転15年以内(うち据置期間5年以内) 金利 基準金利(1.36~1.65%)から3年間は▲0.9%の金利優遇。つまり中小企業事業1.11%→0.21%、国民生活事業1.36%→0.46%。 融資対象 新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一時的な業況悪化を来たし、「一定の要件」を満たす者 - 融資対象の「一定の要件」とは、次の①または②のいずれかに該当する者です。
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①最近1ヶ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少した者 ②業歴3ヶ月以上1年1ヶ月未満の場合、または店舗増加や合併、業種の転換など、売上増加に直結する設備投資や雇用等の拡大を行っている企業(ベンチャー・スタートアップ企業を含む)等、前年(前々年)同期と単純に比較できない場合等は、最近1ヶ月の売上高が、次の(a)~(c)いずれかと比較して▲5%以上減少している者
(a)過去3ヶ月(最近1ヶ月を含む。)の平均売上高 (b)令和元年12月の売上高 (c)令和元年10月~12月の売上高平均額
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- (2) 特別利子補給制度(実質無利子)
- 特別利子補給制度は、(1)と組み合わせて、借入を行った中小企業者等のうち、売上高が急減した事業者などに対して、利子補給を実施するものです。公庫等の既往債務の借換えも実質無利子化の対象となります。
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補給対象上限 中小企業事業2億円、国民生活事業4,000万円 利子補給期間 借入後当初3年間 融資対象 前述(1)により借入を行った中小企業者で、特別貸付等借入申込時点の最近1か月またはその後2か月の3か月間のうちいずれか1か月と前年または前々年同月の売上高を比較し、以下の要件を満たす者
①個人事業主(事業性のあるフリーランス含み、小規模に限る) 要件なし ②小規模事業者(法人事業者) 売上高が15%減少 ③中小企業者(上記➀➁を除く事業者) 売上高が20%減少 - ※「小規模」要件については、(a)製造業、建設業、運輸業、その他業種は従業員20名以下、(b)卸売業、小売業、サービス業は従業員5名以下である。
(Ⅱ) 民間金融機関による支援策
銀行や信用金庫等の民間金融機関が行う新型コロナ対策資金は、信用保証協会が保証を行い、それに金融機関が融資するという形で行われます。信用保証協会に対する政府の支援があるため、要件に合致して保証を受ければ、銀行からの融資が受け入れられやすくなります。
そのための制度として、信用保証協会のセーフティネット保証の拡充と危機関連保証があります。
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- (1) セーフティネット保証
- セーフティネット保証とは、経営の安定に支障が生じている中小企業者を、一般保証(最大2.8億円)とは別枠の保証の対象とする資金繰り支援制度です。①セーフティネット保証4号(中小企業信用保険法2条5項4号)と、②セーフティネット保証5号(同項5号)があります。
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種類 対象措置 制度概要 適用対象 ① セーフティネット保証4号 突発的災害(自然災害等)の発生に起因して売上高等が減少している中小企業者を支援するための措置 幅広い業種で影響が生じている地域について、一般枠とは別枠(最大2.8億円)で借入債務の100%を保証する制度 売上高が前年同月比▲20%以上減少等 ② セーフティネット保証5号 (全国的に)業況の悪化している業種に属する中小企業者を支援するための措置 特に重大な影響が生じている業種について、一般枠とは別枠(最大2.8億円、①と同枠)で借入債務の80%を保証する制度 売上高が前年同月比▲5%以上減少等 - まず、①セーフティネット保証4号は、令和2年3月2日に全都道府県を対象に指定されました。信用保証協会が100%保証するのですから、金融機関にリスクはなく、この保証を得ることができれば融資を受ける確率は相当高いでしょう。
次に、②セーフティネット保証5号は、令和2年5月1日より全業種が指定されました。信用保証協会が80%保証するのですから、金融機関のリスクは20%と低くなります。もっとも、金融機関にもリスクがあるため、新型コロナウイルス感染症対策が発生する以前から業績が悪化していた企業では融資を受けることができないケースも考えられるところです。
さらに詳しい情報は、中小企業庁のHPを参照してください。
- (2) 危機関連保証
- 危機関連保証制度は、取引先等の再生手続等の申請や事業活動の制限、災害、取引金融機関の破綻、大規模な経済危機等による信用の収縮等により経営の安定に支障を生じている中小企業者について、保証限度額の別枠化等を行う制度であり、一般保証や前述(1)のセーフティネット保証に加えて支援制度を拡充したものです。「大規模な経済危機、災害等による信用収縮への対応」(中小企業信用保険法2条6項)として制度化されたものです。
全国の中小企業・小規模事業者の資金繰りが逼迫していることを踏まえ、全国・全業種の事業者を対象に「危機関連保証」(100% 保証)をする制度です。「売上高が前年同月比▲15%以上減少する中小企業・小規模事業者」が適用のための要件です。前述(1)とは別枠(2.8億円)の保証です。
これには、信用保証協会や金融機関による審査がありますが、前述(1)の保証に基づく融資枠に加えてさらに融資枠が必要な場合にこの制度を利用することで、融資枠を拡張(最大5.6億円)することができます。
3.申請について
経済産業省のサイトに概要が記載されていますので、申請方法を確認しておくとよいでしょう。新型コロナウイルス感染症対策として、インターネットや郵送による申請方法も用意されているようです。
その際、必要書類に不備があると申請が認められなくなるため、どのような書類が必要となるか確認しておく必要があります。