簿価とは? 残存簿価・減価償却との違いをわかりやすく解説
簿価とは、資産・負債・資本の帳簿上の評価額である帳簿価額の略称です。企業の財政状況を表示するため、欠かせないものとなっています。
この記事では、企業が保有する資産・負債・資本の金額を把握することはもちろん、税務申告や利害関係者への情報開示に必要となる簿価をわかりやすく解説しています。
残存簿価や市場価格との違いや、簿価からわかること・わからないことなどもまとめてあるので、ぜひ参考にしてみてください。
簿価とは
簿価とは帳簿価額の略称であり、帳簿上の資産・負債・資本の評価額を意味します。
企業経営にあたって保有する資産・負債・資本の金額を把握するためだけでなく、税務申告や利害関係者への情報開示のため、会計基準に基づき財政状態を簿価で表示します。
簿価は棚卸資産や有価証券等のように償却しない資産は取得価額で、固定資産のような償却性資産は「取得価額-償却額=簿価」という数式で計算するのが基本です。
たとえば5年償却する100万円の固定資産を購入した場合、購入時の簿価は100万円ですが、1年後の簿価は、取得価額の100万円から1年分の償却費である20万円を引いた80万円となります。
このように、財政状態を表す貸借対照表では、取得金額の100万円をずっと表示するのではなく、時間の経過に伴い減少した価値を考慮した簿価により金額を表示します。
固定資産の具体例
固定資産には「有形固定資産」と「無形固定資産」があります。それぞれどのような資産なのか、違いや特徴を、具体例と合わせて確認していきましょう。
有形固定資産
「有形固定資産」は、企業が営業活動において長期間使用する目的で所有する資産です。具体例には、土地、建物、構築物、機械および装置、車両などが含まれます。
有形固定資産は、企業の生産やサービス提供に不可欠です。有形固定資産回転率が高いほど、資産を有効活用していることを示します。
無形固定資産
「無形固定資産」は、物理的な形態を持たず、1年を超えて利用される資産です。主な無形固定資産には、特許権、実用新案権、ソフトウェア、のれん(M&Aの営業権)などがあります。
無形固定資産は経年によって価値が減少する点において、有形固定資産と同じです。
たとえば、ソフトウェアは新しい製品に劣るようになり、特許権や商標権も有効期間があるため価値が下がります。しかし実態がない分、物理的に劣化しないところが有形固定資産と異なる特徴です。
減価償却とは
減価償却は固定資産の価値が徐々に減少するという考えに基づき、その減少分を毎年費用として計上します。固定資産の取得費用を耐用年数に応じ、数年にわたって分割して計上する会計処理方法です。
対象となる資産には、建物、機械設備、車両などがあり、これらを減価償却資産と呼びます。
物品やサービスを購入した時の費用は一括で計上するのが通常です。しかし、長期間使用する固定資産については減価償却の分割計上を行います。減価償却の計算方法には、主なものとして二つの方法があります。
- 「定額法」=毎年減価償却資産に一定金額を掛けて求める
- 「定率法」=未償却残高(減価償却資産の取得価額の中で減価償却をしていない額)に一定の割合を掛けて求める
これら以外のものとして生産高比例法がありますが、あまり一般的ではありません。
残存簿価との違い
簿価と似た会計用語に、残存簿価があります。
残存簿価とは法定の減価償却期間が終了した資産の簿価のことで、平成19年度税制改正において、簿価を1円にすることが可能となりました。
残存簿価を1円で残す意味としては、たとえ償却期間が完了した古い資産であっても現物資産がある以上、台帳に1円で記録を残すことで資産がまだ存在していることを把握するためです。
残存簿価を記録しておくことで、実在する資産でありながら帳簿に記載がないという事態を防止できます。ただし、事業の用に供されなくなった場合は、0円にすることが可能です。
簿価と市場価格との違い
簿価は会計原則に従い資産を評価したものであるのに対し、市場価格はマーケットで取引される金額、いわば時価を示しています。そのため簿価と市場価格は必ずしも一致するわけではありません。
たとえば、数年間使用した機械装置の場合、償却費を差し引いた残りの金額が簿価となります。一方で、その機械装置を中古市場で売却した場合、必ずしも簿価の金額で売却できるとは限りません。
このように「簿価=市場価格」であるとは限らないため、企業の財務諸表を分析する場合には注意が必要です。
なお、簿価が著しく市場価格を下回っている場合は、簿価を切り下げる処理(減損会計)を行うこともあります。基本的に簿価と市場価格との間には差異があると考えたほうがよいでしょう。
簿価からわかること・わからないこと
簿価からわかること・わからないことを表にすると以下のようになります。
わかること |
わからないこと |
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簿価から分かることは、企業が持つ資産・負債・資本の帳簿上の金額であり、簿価により企業の財政状態を定量的に把握することが可能です。簿価は会計基準に従い算出された金額であるため、その金額には一定の信ぴょう性があるといえます。
また、固定資産等の償却性資産であれば、減価償却累計額が少なければ新しい資産、多ければ古い資産であることが分かります。
一方で簿価はあくまで帳簿上の金額であり市場価値や時価と同じ金額とは限らないため、その企業が持つ資産・負債・資本の真の価値は分かりません。
そのため、仮に資産が潤沢にある企業といえども、その資産が現預金や換金性の高い資産でない場合、簿価を過信しないことが大切です。また、借入金で現金を調達している場合もあり、金額の多寡で判断することは危険です。
簿価のまとめ
簿価は、資産・負債・資本の帳簿上の評価額である帳簿価額の略称です。企業の資産・負債・資本を把握するためにはもちろん、税務申告や利害関係者への情報開示に欠かせないものです。
簿価では、償却しない資産は取得価額で、償却する資産は「取得価額-償却額」で算出されます。法定減価償却期間が終了した資産の簿価は、残存簿価として最終的には1円で記録され、資産の存在が帳簿上抜け落ちてしまうことを防げます。
会計原則に従って資産を評価した簿価は、必ずしも市場価格と一致するものではありません。簿価は企業が持つ資産・負債・資本の真の価値を表すものではないことを念頭に、過信せず運用することが大切です。
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