一括償却資産とは? 仕組みや少額減価償却資産との違いを解説
一般的に固定資産は、資産ごとに定められた年数での減価償却が必要です。
しかし、一括償却資産として処理することで、税金対策や経理業務の省力化などが可能になります。
ただし、場合によってはかえって税金額が増えてしまう可能性もあるため注意が必要です。
一括償却資産の仕組みや、注意点を解説します。
一括償却資産とは?
まずは一括償却資産の概要と、一部の事業者に認められている「少額減価償却資産の特例」について解説します。
一括償却資産の特徴
一括償却資産とは、取得価格が20万円未満の固定資産をいいます。
通常の固定資産と異なり、個別に管理する必要がないのが特徴です。
そのため、事業の用に供した日を把握した上で月割り計算をして、減価償却費を求める必要がありません。
また、取得した年度ごとにまとめて管理し、3年での減価償却が認められているのも特徴です。
加えて中古資産であっても耐用年数の見積もりが必要もないため、事務作業の軽減が図られているとも言えます。
ただし、一括償却資産を選択してしまった場合、途中から一般的な固定資産の扱いに変更することはできません。
また、資産を売却・滅失したとしても除却もできません。
そもそも使用可能な期間が1年未満である場合には、金額判定の必要はなく固定資産計上の必要はありませんのでご注意下さい。
少額減価償却資産の特例
青色申告法人の中小事業者等の場合、30万円未満の減価償却資産を購入後に条件を満たせば、その取得価額すべてを経費として算入できる「少額減価償却資産の特例」が認められています。
ただし、減価償却資産を取得しただけでは適用できず、取得した年に実際に使用を開始しなくてはなりません。
また、この制度の適用を受けるためには、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付する必要もあります。
さらに、一括償却資産を選択したうえで少額減価償却資産の特例を受けることはできません。
少額減価償却資産との違い
一般償却資産 |
少額減価償却資産 |
|
---|---|---|
利用できる者 |
すべての企業対象で、条件なし |
青色申告をしている中小企業のみ |
対象になる固定資産 |
10万円以上20万円未満 |
10万円以上30万円未満 ※貸付(主要な事業として行われるものを除く)の利用に供した資産を除く |
事業年度ごとの上限 |
なし |
300万円まで |
固定資産税(償却資産税)の課税対象となるか |
ならない |
なる (課税標準額が150万円以上の場合) |
適用期限 |
恒久 |
2024年3月31日 |
税務上の償却方法 |
3年で均等償却 |
取得価額の全額を損金に算入 |
参考:少額減価償却資産の特例
一括償却資産と少額減価償却資産との大きな違いは、適用事業者の種別です。一括償却資産は特段の制約はありませんが、少額減価償却は小規模青色事業者に限られます。
また、一括償却資産は個別に管理する必要がなく、取得した年度ごとにまとめて管理することや、3年での減価償却が認められています。しかし少額減価償却資産は、通常の固定資産管理が必要です。
一括償却資産の償却方法
一括償却資産の償却方法を、実際に計算してみましょう。
<例> 2年前取得 固定資産30万円(10万円×3台) 1年前取得 固定資産30万円(10万円×3台)→うち1台を今年売却 今年取得 固定資産30万円(10万円×3台) |
この場合の今年の減価償却費は、下記のように計算します。
今年の減価償却費=(30万円/3)+(30万円/3)+(30万円/3)=30万円 |
今年取得した固定資産については、今期の取得時期にかかわらず、取得金額の1/3が減価償却費になります。
また、1年前に取得した固定資産のうち1台を売却していますが、売却処理は行えません。資産はあるものとして、償却完了まで減価償却を継続する必要があります。
一括償却資産のメリット
一括償却資産には、大きく3つのメリットがあります。
償却資産税の節税になる
まず、償却資産税の対象から外れ、償却資産税が課税されないことが挙げられます。
その結果、支払う税金額を減らせて、自社の資金繰りも改善しやすくなります。
費用を前倒しにできる
一律3年間での減価償却ができることもメリットです。減価償却期間は、その種類によって定められています。
例えば、事務机が8年、パソコンが4年、冷房用・暖房用機器が6年です。このように、3年を超える耐用年数は珍しくありません。
一括減価償却資産を選択することで、早期の減価償却費計上が可能となります。
それはすなわち早期の経費化が可能となり、税金の繰り延べを図れることを指します。
償却額の計算が簡単
一括償却資産の利用には、特段の制約はありません。白色申告者でも、大規模法人でも選択できます。
資産を個別に管理する必要がなく、取得した年度ごとにまとめて管理すれば足りるため、経理処理の簡略化や省力化も図れます。
一括償却資産のデメリット
デメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- 利益が下がる
- 損金に計上できる金額が少なくなる
- 固定資産を売却したり除却したりした場合、売却損や除却損を計上できない
まず、早期に減価償却費が計上されてしまい、利益が下がる結果となります。
一括償却資産を適用することで減価償却の期間は一律3年になりますが、前述の通り耐用年数が3年を超える資産も珍しくありません。
そのため、資産の種類によってはその恩恵を受けられなくなる可能性があるのです。
次に、少額減価償却資産を使用することによって、損金に計上できる金額が少なくなります。
本来であれば資産の取得価格は一括で損金計上できますが、一括償却資産を適用すると取得価格の1/3しか損金に計上できなくなってしまうのです。
また先にも述べたように、当該資産が売却されたり除却された場合、個別に売却・除却もできません。
継続的に減価償却を続けるしかなくなってしまいます。
一括償却資産の注意点
一括償却資産には、注意すべき点もいくつかあります。
取得価額20万円未満が必須条件
一括償却資産とするためには、「取得価格が20万円未満の固定資産」でなくてはなりません。
しかし、これ以外にも注意点はいくつかあります。
1.取得価額が10万円以上かどうか
資産の取得金額が10万円以下の場合は、そもそも固定資産に該当せず、経費処理になります。
2.税込経理か税抜経理か
金額基準は、御社における固定資産の経理方式(税込経理か税抜経理か)に基づいて判断します。
3.中小企業者等かどうかは無関係である
少額減価償却資産は「青色申告者で資本金または出資金の額が1億円以下の法人等または常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人」という縛りがありますが、一括償却資産については無関係です。
適用後に変更できない
取得した固定資産を一括償却資産とした後は、一般の減価償却資産に変更できません。
そのため、除却損・売却損を計上することもできなくなります。どのような償却方法にするのか、最初に判断が必要です。
一括償却資産を除却した場合
一括償却資産を除却した場合、税金は増える傾向にあります。
一括償却資産は一般の減価償却資産と比べ、初期の段階で多額の減価償却費を計上しやすいものです。
税金を減らすために選択する場合もあるでしょう。
しかしこれまで解説したように、当該資産が売却・除却されたとしても、個別に除却・売却ができません。
そして、継続的に減価償却を続けるしかなくなってしまいます。
一般の減価償却資産へ変更できない関係上、除却・売却損の計上もできません。
一括償却資産についてのまとめ
取得した固定資産を一括償却資産とすることで、償却期間が3年になる、取得年度ごとにまとめて減価償却できるため経理業務の手間が省ける、償却資産税の課税対象外となるなど、さまざまなメリットがあります。
しかしその分、個別または取得後3年未満で売却・除却してしまうと、かえって自社に不利益をもたらす可能性も否定できません。
償却方法をどうするかは購入当初に判断が必要なため、慎重に検討すると良いでしょう。
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