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建築審査会の手続の概要(2)

著者: 弁護士・法務博士(専門職)  平 裕介

建築審査会の手続の概要(2)

〔建築確認についての審査請求の手続と審査請求適格〕

以前、建築物の建築計画についての建築確認(建築基準法6条1項)等を受ける際に、近隣住民の方々から「建築審査会」(同法78条1項)に対して、建築計画が違法あるいは不当なものだとして、行政上の不服申立ての一種である「審査請求」をされた場合のことを教えていただきましたよね。

はい、その時は、裁判所を利用する行政訴訟とは異なる審査請求の手続のうち、審査請求期間や審査請求の利益のことなどについてお話しさせていただきました→「建築審査会の手続の概要(1)」。

とはいえ、まだ話せていないポイントがあります。

建築確認についての審査請求の審査請求期間や審査請求の利益以外のポイントということでしょうか。

そのとおりです。今回は、どのような方が建築確認についての審査請求(行政不服審査法2条)をすることができるのか、という「審査請求適格」の要点について解説させていただきます。

〇建築基準法(昭和25年法律第201号)(抜粋)

(建築物の建築等に関する申請及び確認)

第6条 建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。

一~四 (略)

2~9 (略)

(建築審査会)

第78条 この法律に規定する同意及び第九十四条第一項前段の審査請求に対する裁決についての議決を行わせるとともに、特定行政庁の諮問に応じて、この法律の施行に関する重要事項を調査審議させるために、建築主事を置く市町村及び都道府県に、建築審査会を置く。

2 (略)

〇行政不服審査法(平成26年法律第201号)(抜粋、下線は引用者)

(処分についての審査請求)

第2条 行政庁の処分に不服がある者は、(中略)審査請求をすることができる。


〔審査請求適格を有する者とは〕

審査請求適格は、誰が審査請求をすることができるのか、という話ですよね。

はい、建築確認についての審査請求は誰でもすることができる、というわけではありません。法律上は「行政庁の処分に不服のある者は」(行政不服審査法2条)審査請求できるとされていますので、審査請求をすることができる者の範囲は限られているということです。

条文では、「不服」があると言えばそれだけで誰でも審査請求できる、というように書いてあるとも読めますが、そうではない、ということでしょうね。

そうです。判例・実務は、審査請求をすることができる者、すなわち、審査請求適格を有する者は、「当該処分について不服申立をする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」1を指すと理解しています。なお、この審査請求適格の範囲は、建築確認についての取消訴訟2の原告適格の範囲と一致し、ここでの審査請求適格と原告適格は同一であると一般的には考えられています3

「不服」があっても「法律上保護された利益」を有していない人は、審査請求できないということですね。

そのとおりです。住民から審査請求をされた場合でも、その審査請求人が「法律上保護された利益」を有する者に該当しないと建築審査会によって判定された場合には、建築審査会は、その者との関係では、建築確認等の適法性や妥当性を判断することなく、審査請求を「却下」することになります。中身の審査をしてもらえず、いわば「門前払い」されるということです。


〔法律上保護された利益の具体例〕

審査請求適格を有する者とは、要するに「法律上保護された利益」を有する者だ、ということは分かりました。では、具体的にはどのような利益が「法律上保護された利益」に当たるのでしょうか。

「法律上保護された利益」の具体例は、建築物の火災や倒壊による危害を受けない利益4や、日照を享受する利益5です。一番わかりやすいのは、建築確認が行われた建築計画に係る建築物が建てられる土地の隣地の住民が審査請求を行うという場合です。このような場には、一番近い隣の土地ですから、建築物の火災や倒壊による生命・身体への危害を受けない利益は必ず認められる者だといえます。また、新たな建築物が立つことによって隣地住民の土地・家屋が日陰になってしまう場合であれば、その住民は日照を享受する利益も有する者だといえます。ただし、日照被害の程度は様々ですから、日照を享受する利益の侵害が受忍限度を超えるような場合、いいかえると、健康被害につながってしまうような日照被害となる場合に限って「法律上保護された利益」が肯定されると考えられます6

家屋に住んでいなくて、土地や家屋を持っているというだけの人はどうですか。

建築計画に係る建築物の付近に土地や家屋を所有しているという方も、審査請求適格が認められうる者に当たります。「法律上保護された利益」にはそういった方々の不動産すなわち「財産」も含まれるからです7

なるほど。では、プライバシーが侵害されるとか、近くに高い建物などが立つと圧迫感がある、という住民が主張した場合には、「法律上保護された利益」が認められるのでしょうか。

確かに、建築基準法は、ご指摘のプライバシーや圧迫感の回避、さらには、通風、採光、住居の静ひつなど様々な生活環境の保全も法の目的としていると考えられますが、これらが直ちに審査請求適格を根拠づけるものとは考えられていません8。これらの環境要素が安全・衛星・日照確保から独立してストレートに審査請求適格を基礎づける利益となるわけではないといえるので、直ちには「法律上保護された利益」が認められるということにはなりません。


〔法律上保護された利益を有する者の具体的な範囲〕

それでは、「法律上保護された利益」を有する者の具体的な範囲はどうなるのでしょうか。例えば、どのくらい近くに住んでいれば審査請求適格が認められるのか、ということですが…。

近ければ近いほど認められやすくなりますが、例えば、建築物の火災や倒壊による危害を受けない利益との関係では、建築計画に係る建築物の高さの2倍の範囲内の住民あるいは不動産所有者か、というのが1つの基準になると一応はいえます。概ね、これが行政実務の考え方あるいは一応の基準と言ってよいでしょう9。とはいえ、これが絶対的な基準とはいえませんし、日照被害の場合等にはこの「2倍」という基準で判断されるわけではないと考えられるので、具体的な線引きは簡単ではありません。

微妙な判断が要求される問題だとすると、審査請求適格が問題になりそうな場合には、特に弁護士に相談した方が良さそうですね。

おっしゃるとおりです。少し長くなってしまったので、別の機会に、建築審査会での審理の手続の流れのことや弁護士の選定のポイントなどについて説明させていただきますね(→●建築審査会の手続の概要(3))


1 最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁(下線引用者)。なお、最三小判平成14年1月22日民集56巻1号46頁、宇賀克也『行政不服審査法の逐条解説〔第2版〕』(有斐閣、2017年)17頁、宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第7版〕』(有斐閣、2021年)44~45頁、青栁馨編著『新・行政不服審査の実務』三協法規出版、2019年5~6頁〔青栁馨=平裕介〕、同書53頁〔阿部造一〕参照。
2 取消訴訟(処分取消訴訟、行政事件訴訟法3条2項)とは、行政訴訟(行政事件訴訟、同法2条)のうちの抗告訴訟(同法3条1項)の一種である。
3 宇賀・前掲注(1)『行政不服審査法の逐条解説〔第2版〕』11頁参照。同頁は、行政事件訴訟法9条2項の解釈規定が審査請求適格の判断においても「類推適用されるべきことになる」とする。ただし、複数の自治体の建築審査会のメンバーを約10年担当した筆者の実務経験に照らすと、建築審査会の実務において、若干ではあるが柔軟に、すなわち、審査請求適格を少しではあるが広めに捉えようとする場合もあると思われる。もっとも、そのような場合は多くはない印象ではある。
4 中川丈久ほか編著『公法系訴訟実務の基礎〔第2版〕』(弘文堂、2011年)496頁、安本典夫『都市法概説〔第3版〕』(法律文化社、2017年)153~154頁、前掲注(1)最三小判平成14年1月22日参照。
5 中川ほか・前掲注(4)494頁、安本・前掲注(4)154頁、最一小判平成14年3月28日民集56巻3号613頁参照。
6 安本・前掲注(4)154頁、中川ほか・前掲注(4)498頁、横浜地判平成17年11月30日判例地方自治277号31頁参照。
7 仲野武志「判批」(前掲注(1)最三小判平成14年1月22日解説)宇賀克也ほか編『行政判例百選Ⅱ[第7版]』(有斐閣、2017年)341頁参照。
8 安本・前掲注(4)154~155頁参照。
9 複数の自治体の建築審査会のメンバーを約10年担当した筆者の実務経験に照らした回答である。

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著者プロフィール

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平 裕介

弁護士・法務博士(専門職)

永世綜合法律事務所、東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業。

行政事件・民事事件を中心に取り扱うとともに、行政法学を中心に研究を行い、大学や法科大学院の講義も担当する。元・東京都港区建築審査会専門調査員、小平市建築審査会委員、小平市建築紛争調停委員、国立市行政不服審査会委員、杉並区法律相談員、江戸川区法律アドバイザー、厚木市職員研修講師など自治体の委員等を多数担当し、行政争訟(市民と行政との紛争・訴訟)や自治体の法務に関する知見に精通する。

著書に、『行政手続実務体系』(民事法研究会、2021年)〔分担執筆〕、『実務解説 行政訴訟』(勁草書房、2020年)〔分担執筆〕、『法律家のための行政手続きハンドブック』(ぎょうせい、2019年)〔分担執筆〕、『新・行政不服審査の実務』(三協法規、2019年)〔分担執筆〕等多数。

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