懲戒処分とは? 種類や定義について解説!
初めて懲戒処分を行う経営者にとっては、処分に種類があるのか、どのように対処をしたらいいのかわからない部分もあるでしょう。違反を犯した従業員との間にトラブルを招かないよう、あらかじめ懲戒処分について知るのは大事なことです。
この記事では、懲戒処分の定義を踏まえながら、法律に則った考え方で順に進めていくことを説明していきます。実際にあった例から、適切な処分の方法をお教えしますので、ぜひ参考にしてください。
懲戒処分とは?
まずは、懲戒処分についての考え方を見ていきます。
懲戒処分の定義
懲戒処分とは、従業員の企業秩序維持違反行為に対する制裁罰であることが明確な、労働関係上の不利益措置のこと。従業員が企業秩序を乱す行為(非違行為:非行行為+違法行為を略す言葉)をした場合に、それに対し制裁として行われる不利益な措置を言います。
一般的に、以下の種類を程度の重さの順序で定める企業が多いです。
(軽)戒告<譴責(けんせき)<減給<出勤停止<降格<諭旨退職<懲戒解雇(重)
懲戒処分をするための条件
懲戒処分を行ううえでの条件を以下に記しました。それぞれ詳しく説明します。
就業規則にあらかじめ根拠規定(懲戒の種別および事由)を定めておく
仮に、懲戒処分に関する規定が就業規則で定められていないにも関わらず、懲戒処分を科した場合には当該懲戒処分は無効になります。労働基準法で作成義務が課されていない労働者10人未満の企業においても同様なため、会社を守る、会社の意向に沿って勤務している従業員を守るためにも、根拠規定を定めておきましょう。
ただし、懲戒処分の量定(軽重をはかって決定すること)や基準については、具体的に定めてしまうと運用がしにくくなることもありえます。また、非違行為も多種多様であり、企業側が想定できる範疇(はんちゅう)を超えることもあるため、包括条項を設けておくことが望ましいです。
以上を踏まえて就業規則に定め、従業員に周知しておきます。
法律上のルールと照らし合わせる
就業規則上の懲戒事由に該当すれば、直ちに有効になるものではありません。制裁罰であることが明確な労働関係上の不利益措置を施すうえで、必要な法理を理解して進めます。
〈処分相当性の原則〉
非違行為について客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして無効になります。
〈二重処罰禁止の原則〉
一回の非違行為に対して、二回の懲戒処分を行うことはできません。
〈不遡及の原則〉
懲戒処分の根拠規定を作成した後の非違行為に対してのみ、運用します。
〈平等処遇の原則〉
明らかに不平等な懲戒処分は、無効となる可能性があります。これは過去の懲戒処分に基づいて判断されるべきもので、急な方針変更については、その行為が懲戒処分の対象になることが就業規則に定められていたとしても懲戒処分が無効と判断されます。
手続きを正しく行う
まず、就業規則や労働協約でどのように定めるかを決めます。就業規則や労働協約で定めることにより処分の適正さを確保することになりますが、逆にその手続きを誠実に経なければ無効になることがあります。
そのため、例外規定を定めておいたり、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇のように、比較的重い処分についてのみ手続きを要すると定めておいたりすることも可能です。
懲戒処分の種類
懲戒処分には、7つの種類があります。前述したように、軽いものから重い順に紹介します。また、処分を行うにあたっての注意点も明記しましたので、参考にしてください。
戒告
戒告とは、従業員の過失や違反、非行などに対して文書または口頭で厳重注意を行い、今後の業務遂行に支障がないように将来を戒めるものをいいます。
【注意点】
懲戒処分のなかでも最も軽いとされ、問題社員に対する最初の懲戒処分として行われることが多いです。その主旨からも問題行動が将来に向かって改善されるよう、従業員に問題行動に関する根拠を示して指導することが重要です。
注意指導を繰り返しても改善されない場合は、重い処分に移行します。
譴責
従業員の過失や違反、非行などに対して始末書を提出させて将来を戒めるものを譴責といいます。今後、同様の理由で繰り返し業務遂行に支障をきたさないよう、反省文、謝罪文を盛り込んで、従業員自身の言葉で誓約させます。
【注意点】
問題社員に対する最初の懲戒処分として行われることが多いため、戒告と同様、その該当する問題行動が将来に向かって改善されるべく、指導することが必須です。戒告との違いは「始末書」を提出していることと、本人が誓約していることです。
従って、従業員本人が納得して文書を作成していることが前提であり、将来に向かって誓約事項を履行しているかどうかを管理監督することが求められます。人事考課や昇給・昇格、賞与などの一時金に影響を与える場合は、その決定プロセスを丁寧に説明します。
減給
減給とは、本来ならば従業員が受け取ることができるはずの賃金を減額するもの。経済面に影響するため、無制限に減給できるというわけではなく、労働基準法第91条により限度額(1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない)が設けられています。
【注意点】
- 一回の問題行動に対して懲戒処分として減給を行えるのは一回だけで、一定期間にわたっての減給はできません。
- 労働基準法第91条は法律上の限度額であり、これよりも少ない額を限度額とすることを就業規則で定めている場合は、就業規則に定めた額が限度額となります。
- 複数の非違行為がある場合に総額の減給は可能ですが、一賃金支払期における減給額は賃金の総額の10分の1を超えてはならないとされているため、超える部分については次期の賃金支払期に延ばさなければなりません。
- 欠勤や遅刻早退などの労務不提供を理由にする賃金控除や、人事的に降格させたことによる減給については、懲戒処分ではないため、労働基準法第91条は適用されません。
出勤停止
労働契約を存続させつつ、会社が一定期間の就業を禁止するものを出勤停止と言います。労働義務の履行を停止するため、出勤停止期間中は賃金が支払われないのが一般的です。従業員にとって、経済的な影響が大きい重い処分と言えるでしょう。
【注意点】
出勤停止期間の上限について法律上の制限はありませんが、7~30日程度が一般的です。出勤停止期間中の賃金支払いおよび期間の上限について、就業規則で定めておく必要があります。
降格
降格とは、規律違反行為があった場合に、制裁を目的として役職、職位、職能資格を引き下げること。懲戒権(秩序を保つために、規律違反に制裁を科す権限)に基づき降格処分を行う場合を指します。
【注意点】
- 労働契約の基本的内容(契約期間など)を変更することはできません。
- 降格処分に伴って減給する場合(役職給の減額など)は、減給処分とは異なるため、労働基準法第91条は適用されず、法律上の規定はありません。
- 会社側が自由に行うことができる人事権行使としての降格と明確に区分するため、厳格なルールが求められます。
論旨退職
本来は懲戒解雇に相当するような非違行為を行った従業員に対し、勧告に応じない場合には懲戒解雇をすることを前提として退職を勧告し、本人が願い出る形式をとって退職させること。懲戒解雇よりは少し軽いものの、ほぼ同様の重い処分となります。
【注意点】
- 本人が過ちを認めた場合の温情的な措置であり、退職金が支払われるのが一般的ですが、不支給・減額など、会社により定めることになりますので、会社のスタンスを基に「退職金規程」を整備しておきます。
- 雇用保険では自己都合退職として扱われますが、転職の際には申告義務を負うと考えるのが妥当です。退職後の手続きに関して、従業員に説明しておきましょう。
- 自主的に退職届を提出したことになるので、退職日までの有給休暇申請があった場合は、認める必要があります。
懲戒解雇
企業側が従業員と結ぶ労働契約を一方的に解消するという、懲戒処分として一番重いものになります。通常、懲戒解雇が科される場合は、退職金や解雇予告手当は支給しません。即日、解雇となります。
【注意点】
- 正当な理由、正当な手続きがなければ「不当解雇」となり、法律上無効になります。
- 労働基準監督署による解雇予告除外認定を受けた場合は、解雇予告手当の支払いは不要ですが、逆に省略すると労働基準法違反となるので、手順どおりに行います。
懲戒処分の手続き・流れを解説
懲戒処分は順を踏んでの手続きが重要です。流れをSTEP方式でまとめました。
STEP1:就業規則の確認
懲戒処分の種類と事由が規定されているかどうかを確認します。また、事前に従業員が理解できる状態であるかどうか、周知されていたかどうかが有効要件となります。
STEP2:事実の調査
問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当するか、非違行為を行ったとされる本人と面談する際には、一方的、高圧的な態度や大人数で囲むなど、強要されたと認識されないように留意します。周辺に対する調査では、目的を伝え、必要な情報が収集されるようにします。適正な処分のために、事実関係の全体像をしっかりと固めることを目的とします。
STEP3:弁明の機会の付与
就業規則に弁明の機会を設ける旨の規定がある場合、弁明の機会を与えずに科した懲戒処分は無効になる可能性が高くなります。また、そのような規定がなくても、適正手続保障の見地から機会を与えることが望ましいでしょう。
STEP4:処分の決定
「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効となります」
労働契約法第15条(※)に基づき、処分が重すぎないか、法理の乱用にならないかなどを確認します。
※参考:厚生労働省|労働契約法第15条
STEP5:懲戒処分通知書の交付
懲戒処分を決定し、内容に応じた文書を作成・交付します。譴責での始末書提出など、懲戒処分のなかでも軽いものであったとしても、提出期限を記載して将来への指導とします。
STEP6:社内での公表
従業員に対し、企業秩序維持違反行為に対しては制裁を科すことを明確に示すことで、再発防止に役立ちます。ただし、事実のみを公表する、懲戒対象者名の公表は控える、ハラスメントなどで被害者がいる場合には被害者のプライバシーに配慮するなど、推測されないように留意します。
これまで実際にあった懲戒処分の具体例
では、過去の例を具体的に見ていきましょう。懲戒処分の適切な考え方を知ることで、トラブル回避につなげることができます。
遅刻・無断欠勤を繰り返す従業員
不祥事と言えない非違行為のように見える遅刻・無断欠勤であっても、処分の対象となります。従業員には労務提供義務(誠実労働義務を含む)があり、その義務を怠っていることになり、重大な債務不履行になります。業務遂行上、悪影響となりますので、事前に注意指導を行ったうえで、戒告・譴責などの懲戒処分を科します。
その後の改善により、次の段階に進みましょう。
パワハラをした従業員
被害者に対し身体的・精神的苦痛を与え、職場の職務遂行能力を阻害する行為として、懲戒処分の対象となります。
量定を決定するにあたっては、以下に例を挙げます。
- 暴行・傷害などの刑法上の犯罪行為に該当する
→出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇などの重い処分 - 精神障害を発症する民法上の不法行為(損害賠償)
→出勤停止、降格などの処分 - 職場環境を阻害するもの
→譴責、減給、出勤停止など
あくまで事実に基づいての判断が必要です。
懲戒処分についてのまとめ
ここまで、懲戒処分について解説しました。10人以下の従業員がいる企業の場合は、就業規則に盛り込むことを法律で定めてはいませんが、あらかじめ規則を設けることでトラブルを回避することができます。
規則違反行為を行う従業員に対しては、それなりの罰を科したいのが心情でしょう。しかし、経営者たるもの冷静な判断は必要です。法律に則った処分、また順を踏んでの処分を行うよう、適切な処分が求められます。
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