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採用時には労働条件通知書を作成してトラブル防止を

著者:本山社会保険労務士事務所 所長  本山 恭子

採用時には労働条件通知書を作成してトラブル防止を


1 採用時、口約束でいいの?

面接等を行い従業員として採用する人を決定したときに何をしているでしょうか。内定通知を出して誓約書を取るなどは、新卒採用では多くの会社で行われていますが、中途採用の場合となるとどうでしょうか。書類は何も出さず口頭のみで採用する旨を告げて、出社日を決めるという会社もあるのが実情かもしれません。実は、「○○日から来てください」と言うだけでは足りないのです。労働基準法には、当該労働契約の締結時に、従業員になろうとしている人に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めがあるのです。しかも、口頭ではなく、書面等の交付により明示しなければならないとされている項目もあります。

どのような事項について説明が必要とされているのかなど、もう少し詳しく見ていきましょう。


2 明示すべき労働条件事項とは

労働条件の明示が必要な事項には定めがあり、必ず明示しなければならない絶対的明示事項と、定めをした場合には明示をしなければならない相対的明示事項の二種類があります。

下記の絶対的明示事項の「4.」の中の昇給に関する事項は除かれますが、他は書面の交付により明示しなければならないとされています。書面ですので紙はもちろんのこと、現在は労働者が希望した場合には、FAXや電子メール、SNS等での明示もできるようになっています。

【絶対的明示事項】

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  3. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  4. 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
  5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

【相対的明示事項】

  1. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  2. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  3. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  4. 安全及び衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰及び制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

上記相対的明示事項については、定めがあることで明示しなければならないとき、書面での明示義務はありませんが、明示しなければならないことには変わりはありません。就業規則にて定める事項が多く含まれることから、就業規則を用いて説明することが多いかもしれません。就業規則がない場合、定めをしないことにしようと決めてしまうこともあるかもしれませんが、「2.」には賞与に関する事項なども入っていますし、本当に定める必要がない事項かどうか確認した上で判断していきましょう。

厚生労働省では労働条件通知書のひな型を準備しています。必要な事項の漏れを防ぐこともできますし、一から作るとなると大変ですので、このようなひな型を利用してはどうでしょうか。


3 労働条件の明示義務には、企業規模等による決まりはある?

就業規則の作成義務があるのは常時使用する労働者数が10名以上と定めがありますが、労働条件の明示義務にはこのような定めはありません。また、いわゆる正社員に対してだけすればいいといった雇用形態による違いもありません。従って、初めて従業員を雇い入れるときでも、週1日数時間しか来ない学生アルバイトを雇うときでも、労働条件の明示は必要です。

これまで誰も雇ったことがないというような企業の場合、始業終業の時刻や休日などに関する決まりがほとんどないというところもあるかもしれません。それでも、明示しなければなりませんから、どういう働き方をして貰うのかを決めなければなりません。知識があまりないという場合、少し大変かもしれませんが、知識を得ながら、あるいは専門家に相談するなどして、労働基準法等の違反とならないように法律を踏まえて考えていきましょう。


4 労働条件の明示は何に役立つの?

例えば週何日、週何時間働くのかを、「入れるときに入ってもらえればいいから」というような曖昧なものにしたとします。このような場合、労使共に自分にとって都合のいい捉え方をすることがあります。会社としては、「入れるときにとは言っても、人がいないときには頼めば入ってくれるだろう」とか、労働者としては「空いている時間はできるだけ入ろう」とか。

あるとき、労働者が今週は予定が特にないからその時間全部入ろうと思って会社側に伝えたとします。会社しては、そこまで入られてもスタッフが余るし、人件費もばかにならないから断るということになるかもしれません。労働者としては、入れるとき入っていいと言われたのに話が違うと思う可能性もあります。

この例はちょっと極端かもしれませんが、相手に期待していたことがかなわなかったりすると、その後の関係に影響が出てくることもあります。

労働条件の明示をすればすべてトラブルが防げるとは言いませんが、減らしていくことは可能だと思います。また、労働条件を根拠として労使で話し合いをすることもできると思います。


5 まとめ

民法上では口約束でも契約は成り立ちます。しかし、労働基準法にて明示しなければならない労働条件が定められ、その中には書面等にて行う必要があるとされている事項があることがお判りいただけたかと思います。

わざわざ書面等にての明示が必要とされているのは、「言った、言わない」などのトラブルを防ぐ意味が込められています。労働条件通知書という労基法に基づいて企業側から一方的に示される通知書と、雇用契約書という民法に基づいて労使で締結する契約書、両方の意味合いを持つ通知書兼契約書など書式には種類がありますので、どの書式を使うかも検討し決定しましょう。

いずれにおいてもトラブルを防ぐ目的であることを念頭に、盛り込むべき事項を漏らさず、実態を表している書面を作成しましょう。会社からの労働条件についての説明を受けて、労働者が当該労働条件を理解し、納得した上で気持ちよく働いてもらえることはとても重要なことの一つと言えるでしょう。 

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著者プロフィール

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本山 恭子

本山社会保険労務士事務所 所長

特定社会保険労務士、行政書士、公認心理師、産業カウンセラー、消費生活アドバイザー
ストレスが多く、事業運営もグローバル化の中厳しく、企業、労働者共に大変な今、少しでも働きやすい環境を作るお手伝いをすることを通して、企業、労働者の皆様のお手伝いを精一杯してまいります。法律だけの四角四面でない、気持ちを汲んだサポートを心掛けています。

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