就業規則の作り方 ハラスメント対策どうしてる?
厚生労働省によると、労働に関する相談のうち、「ハラスメント問題」が最も多く、年々増え続けている状況です。
セクハラやパワハラをはじめに、近年はマタハラやジェンハラ、さらには「リモハラ(リモートハラスメント)」が、新たなハラスメントとして生まれています。
SNSが広く普及し、たやすく炎上が起こる現代では、ハラスメント問題は企業にとって死活問題です。
本記事をもとに、ハラスメントに該当する言動を考えたうえで、企業に求められるハラスメント対策を講じていきましょう。
1. 増えているハラスメント問題
厚生労働省が設けているWEBサイト「あかるい職場応援団」によると、各都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談数は年々増えており、平成24年に相談内容でトップとなり、その後も増え続けているといいます。また、セクシャルハラスメントやいわゆるマタハラに関する都道府県労働局での相談件数では、セクシャルハラスメントに関する相談が最も多く、婚姻、妊娠・出産等に関するハラスメントについての相談が続いています。他にも不利益取扱いに関する相談も多いようです。そして、これらのハラスメントが起こってしまうことによって、心身に影響が出ているとするアンケート結果も出ています。また、職場の雰囲気が悪くなったり、従業員が能力を発揮できなくなったり、人材が流出してしまう等様々な悪い影響が出ている現状があります。
2. 求められるハラスメント対策の経過
本来は企業の中の職場環境維持向上の話ですから、企業内において対策を立案して実行し、場合によっては懲戒処分などの発令もありうるという話だと思いますが、なかなかうまくいっていない現実からなのか、ハラスメント対策に関する法律がどんどん増えています。
平成11年に職場におけるセクシャルハラスメントの防止措置について事業主に措置義務が課されたのを皮切りに、平成29年には妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて防止措置を講じることが義務付けられました。そして、令和2年6月にまずは大企業に限りますがパワーハラスメントの雇用管理上の措置義務が課され、令和4年4月からは中小企業に対しても義務付けられることが予定されています。
義務付けられている措置の一つに、ハラスメントの行為者に対し厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが挙げられているのです。
3. ハラスメント対策とは
文字数は限られますが、ハラスメントの定義等を見ていきましょう。
(1)職場におけるパワーハラスメントとは
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる次の3つの要素をすべて満たすものをいうとされています。ただし、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
- ① 優越的な関係を背景とした言動であって
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- ③ 労働者の就業環境が害されるもの
「職場」とは、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。
「労働者」とは、正規労働者だけでなく、パートタイム労働者、契約社員等雇用されるすべての労働者及び派遣労働者も含まれます。
「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するにあたって当該言動を受ける労働者が、言動の行為者とされる者に対して、抵抗又は拒絶することができない可能性が高い関係を背景として行われるものをいうとされています。ここでは必ずしも上司から部下に対するものに限られず、同僚や部下の言動やそれらの人の集団による行為なども含まれています。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らし、明らかに業務上必要性がない、または相当ではないものをいうとされています。
「就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指しています。
パワーハラスメントの代表的な言動の6類型も示されていますので、確認しておきましょう。
(2)職場におけるセクシャルハラスメントとは
職場におけるセクシャルハラスメントは、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
ここにいう「職場」「労働者」は、パワーハラスメントと同様です。
「性的な言動」とは、性的な内容の発言や性的な行動を指し、異性に対するもの、同性に対するものも該当します。性的な言動を行う者は、事業主、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者、又はその家族、学校における生徒等もなりえるとされています。
(3)職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。
ただし、妊娠の状態や育児休業制度等の利用などと嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当し、業務分担や安全配慮の観点から客観的に見て業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しないとされています。
ハラスメントに該当する例なども厚生労働省は示しています。ホームページやパンフレットで詳細をご確認願います。
「客観的に見て」「総合的に判断」などとされていますが、人によって感じ方、考え方は違うものです。会社で指針等に示して周知するだけで終わらせることなく、どのようなことがハラスメントに該当するのか、研修を実施するなどして社内において認識を合わせる努力をすることも必要ではないでしょうか。
4. 就業規則等における規定
(1)規定する方法
ハラスメントの行為者に対し、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定することも求められています。定め方はいろいろあり、次のような方法が考えられます。
- ① 就業規則にすべてを盛り込んでいく方法
- ② 就業規則の中では「詳細は別に定める」等として簡素な記載にとどめ、別規程に具体的に定めていく方法
- ③ 就業規則の服務規律に禁止行為が定められ、懲戒規定に処分方法が記載されている場合には、それ以外に明記されていない事項を、規程という形ではないリーフレットやイントラなどで周知する方法
(2)規定等に定める項目
規定等の中に次のような事項を盛り込んでいきましょう。
- ① 各ハラスメントの定義
- ② 禁止行為
- ③ 懲戒処分に関する事項
- ④ 相談及び苦情への対応に関する事項
- ⑤ プライバシー保護に関する事項
②の禁止行為では、例えばパワーハラスメントであれば、代表的な言動6類型を挙げる等、具体的に示すといいでしょう。
厚生労働省では様々な情報を出していますので、規程の作成や研修等に活用されてはいかがでしょうか。
職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)