給与計算ってどうやるの? 高年齢雇用継続給付とは?
生涯現役時代といわれるようになりました。内閣府「令和3年版高齢社会白書」から年齢階級別の就業状況をみてみると、男性就業者の割合は、60~64歳で82.6%、65~69歳で60.0%となっています。女性就業者の割合は、60~64歳で59.7%、65~69歳で39.9%と男性ほどではありませんが、低くはない数字です。一般に、60歳以降に働く場合、賃金が低下します。そこで、下がった賃金を一部補てんするため、雇用保険には高年齢者雇用継続給付という制度が設けられています。今回は、高年齢雇用継続給付について説明します。
定年制と高年齢者雇用確保措置
定年制とは、労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度をいいます。企業が労働者の定年を定める場合、高年齢者雇用安定法により、その年齢は60歳を下回ることはできません。ただし、同法では、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年年齢を6 5歳未満としている企業に、高年齢者雇用確保措置として、次の①から③のうち いずれかの措置の実施を義務づけています。
【高年齢者雇用確保措置】
- ① 定年の引上げ
- ② 継続雇用制度の導入
- ③ 定年の定めの廃止
厚生労働省「令和2年 高年齢者の雇用状況」によると、65歳までの雇用確保措置のある企業は99.9%となっており、わが国では65歳までの雇用はほぼ確保されている状況であることが分かります。雇用確保措置を実施済の企業における措置内容の内訳は以下の通りです。
継続雇用制度の導入 |
76.4% |
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定年の引上げ |
20.9% |
定年制の廃止 |
2.7% |
なお、企業が定年制を設ける場合、定年は退職に関する事項になりますから、必ず就業規則に定めを置きましょう。
【継続雇用制度を導入する場合の規定例】
第〇条(定年等)
- 1 労働者の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
- 2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由または退職事由に該当しない労働者については、満65歳に達した日の属する月の末日まで継続雇用する。
【定年を65歳とする規定例】
第〇条(定年)
労働者の定年は満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
高年齢雇用継続給付とは
高年齢者雇用確保措置を導入するにあたり、60歳以降の労働者の賃金や労働時間、契約期間などを見直すことがあります。特に賃金が下がる場合、高齢者の意欲やモチベーションに影響を与えてしまうことがあるので、モチベーションの維持・喚起を図るための制度が設けられています。これが雇用保険の高年齢雇用継続給付です。
【高年齢雇用継続給付】
働く意欲と能力のある高年齢者の60歳から65歳までの雇用継続を支援、促進するための給付で、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類があります。
高年齢雇用継続給付は在職者を対象とした給付です。通常、企業がその手続きを行うことになりますから、制度の内容と手続きについて確認しておきましょう。
高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金
高年齢雇用継続給付には、基本手当を受給していない方への「高年齢雇用継続基本給付金」と基本手当を受給中に再就職した方への「高年齢再就職給付金」があります。いずれも賃金が一定程度下がった場合に支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金 |
高年齢再就職給付金 |
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基本手当の受給の有無 |
定年後にそのまま継続雇用された場合など、基本手当を受給していない方を対象とする給付金です。 |
60歳以降に離職し、基本手当を受給中に再就職した方を対象とする給付金です。 |
賃金の低下 |
60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金が60歳時点の75%未満となっている方 |
再就職後の各月に支払われる賃金が基本手当の基準となった賃金日額を30倍した額の75%未満となった方 |
受給資格 |
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高年齢雇用継続基本給付金の支給対象期間は、60 歳到達日の属する月から、65 歳に到達する日の属する月までの間となります。高年齢再就職給付金については、再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が200日以上のときは、再就職日の翌日から2年を経過する日の属する月までとなり、支給残日数が100日以上200日未満のときは1年を経過するまでとなります(2年または1年を経過する前に65歳に達した場合は、65歳に達した日の属する月まで)。
給付金額は
高年齢雇用継続給付の支給金額は、「賃金額×支給率」で計算されます(支給限度額及び最低限度額あり)。支給率は賃金の低下率に応じて決められており、最大で15%です。
※令和7年度から新たに60歳となる労働者について、高年齢雇用継続給付の支給率が最大で15%から10%に縮小される予定です。
【60歳到達時の賃金月額が30万円である場合の支給例】
支給対象月に支払われた賃金 |
支給額 |
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260,000円 |
賃金が75%未満に低下していないので不支給 |
200,000円 |
16,340円 |
180,000円 |
27,000円 |
例えば、継続雇用後の支給対象月に支払われた賃金が180,000円であれば、低下率が60%なので支給率は15%、高年齢雇用継続基本給付金は「180,000円×15%=27,000円」です。よって、本人の収入は「賃金180,000円+高年齢雇用継続基本給付金27,000円=207,000円」となります。
申請手続きと添付書類
高年齢雇用継続給付の申請手続は、原則として企業が行います。ただし、被保険者本人が希望する場合は、本人が申請手続きを行うことも可能です。支給申請は、原則として2か月ごとです。
【高年齢雇用継続基本給付金の例】
初回の申請に必要な書類 |
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2回目以降の申請に必要な書類 |
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高年齢雇用継続基本給付金は60歳以上65歳未満の方を対象とする給付であるため、初回の支給申請にあたっては、被保険者の年齢を確認する書類(運転免許証や住民票の写し等)を提出しますが、マイナンバーを届け出ている場合にはハローワークで年齢の確認ができるため、被保険者の年齢を確認する書類は不要です。また、給付金の振込口座を確認するための資料として求められていた通帳やキャッシュカード等の写しも、令和3年8月1日以降、原則として不要になっています。
令和3年4月から、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。今後、雇用保険をはじめとした社会保険制度などの見直しも進められていくと思われます。常に最新の情報を確認しながら対応していきましょう。