銀行融資のポイント「銀行員は融資審査の際に何を見ているのか①」
銀行に融資申込をする際に、銀行員はどのような点に着目して審査をしているのでしょうか?銀行員が着目するポイントが分かれば、今後の融資交渉をスムーズに進めることができます。
今回は、融資審査の際に「決算書のどこに着目しているのか?」について2回に分けて解説します。
1.売上
売上については、高いから必ずしも良いとは限りません。売上が高くても費用が嵩み赤字計上している企業では財務内容は良いとはいえません。
つまり、売上と利益はセットで見なければなりません。
売上については、過去3年から5年程度の売上推移を決算書にて検証します。
「売上が伸びているのか」「売上にバラつきがあるのか」「売上が下がり続けているのか」など売上推移を見ることにより、企業が置かれている状況が分かります。
(1)売上が伸びている場合
売上が好調に推移しているときは、企業業績は好調に推移していると判断され融資が承認される可能性が高いです。
融資申込の際には、売上が伸びている要因を融資担当者に伝えるようにしましょう。
銀行員は幅広い業種の企業について、融資審査をおこないます。しかし、銀行員はそれぞれの業界のプロではありません。決算書から売上が伸びているという事実は分かりますが、なぜ売上が伸びているかは分からないことが多いです。
「自社の強み」「どのような企業からの注文が増えているか」「顧客から評価されている点」など自社の強みや経営環境などをきちんと銀行員に伝えることを意識しましょう。
(2)売上にバラつきがある場合
売上にバラつきがある場合は、その要因を説明できるようにしましょう。
アイスクリームやかき氷などは気温が高くなると売上が増加する傾向にあります。これは分かりやすい例ですが、業界や地域ごとに売上が大きくバラつく要因がある際には、融資担当者にきちんと伝えるようにしましょう。
(3)売上が下がり続けている場合
売上が下がり続けているからといって、融資が承認されないわけではありません。
売上が減少している原因や売上改善に向けての改善策を融資担当者に説明するようにしましょう。銀行融資においては、社長の経営に対する姿勢が重視されます。
今後の経営方針について銀行担当者にきちんと話すことにより、融資が承認される可能性を高めることができます。
2.利益
利益については「当期利益がプラスだから問題ない」と思っていませんか?
利益を検証する際に重要なポイントを説明します。
(1)営業利益がマイナスになっていないか?
融資審査においては、営業利益を重視します。
なぜなら、営業利益は本業である事業活動で稼いだ利益だからです。
営業利益が赤字の企業は現状の収支構造を改善しない限り、今後も赤字が継続することになります。資金繰りも当然厳しくなり、資金不足の都度、融資を受けないと事業継続が困難になる傾向が強いです。
営業利益が赤字である場合は、融資申込をおこなう際に「営業利益が赤字になった原因」「黒字にするための改善策」をきちんと説明する必要があります。
営業利益=売上高-売上原価-販売管理費
であることから、改善策としては「売上を向上させる」「売上原価を削減する」「販売管理費を削減する」ことが考えられます。
それぞれの項目ごとに改善策を考えた上で、融資担当者と交渉することをお勧めします。
(2)一過性の損益が計上されているか?
銀行審査においては雑収入や特別利益に含まれる一過性の損益は控除して審査します。
一過性の利益とは、固定資産売却益や有価証券売却損などの勘定科目を指します。一過性の利益は毎期必ず発生する勘定科目ではないために、企業が通常の営業活動から得た利益とは区別されます。
このように、当期利益では黒字計上している場合においても、一過性の利益を控除すると実際は赤字決算であると判断されるケースも多いです。
3.減価償却
減価償却についても銀行融資の際に着目されるポイントです。
税務上において、法人の減価償却は任意とされています。
つまり、減価償却を実施しない企業でも税務上は問題ありません。
しかし、融資審査の場合は問題になるケースが多いです。
(1)減価償却を適正額計上しているか?
「減価償却を実施したA社」と「減価償却を実施していないB社」ではA社の方が減価償却を費用計上しているために利益が小さくなります。この状態でA社、B社の融資審査をおこなう場合、A社が融資審査において不利に働くことになります。
融資審査においては、減価償却を実施していない場合は「減価償却不足」とみなされます。銀行は、決算書の別表16や固定資産台帳から減価償却不足額を算出し、実質利益を算出したうえで融資審査をおこないます。
(2)減価償却を毎年実施しているか?
減価償却を不定期に実施している企業の場合は、「利益を調整している」という見方をされる可能性が高いです。
法人の場合は減価償却の実施は任意です。減価償却を不定期に実施している企業は、当期利益を黒字化させるために減価償却を調整しているケースが多いです。
また、減価償却を実施していない場合は、貸借対照表の固定資産が簿価のまま計上されており減少していません。つまり、実際の固定資産の時価とはかけ離れた数値にて貸借対照表に計上されている可能性が高いです。金融機関においては、減価償却不足を不良資産と認定して、適正な簿価に修正したうえで融資審査をおこないます。
以上から、減価償却の実施は任意ではありますが、融資審査を考慮すると適切に実施することをお勧めします。
4.現預金
決算書を見る際に現預金も注目するポイントです。
(1)現金勘定は適正額か?
現預金勘定は「現金」と「預金」に分かれます。
「預金10,000,000円」と「現金10,000,000円」では、意味合いが全く異なります。
預金であれば預金通帳の残高を示しますが、現金の場合は会社に現金そのものを置いていなければなりません。会社の金庫に本当に現金が置いてあれば良いのですが、通常なら手元に多額の現金を置かないことが多いと思います。また、売上金も通帳振込というケースがほとんどであり、現金で受領するというケースは少ないです。これらのことからも、決算書の現金勘定に多額の金額が計上されていることは、不自然であることが多いです。
融資審査の際に現金勘定に着目する理由は、現金が異常に多い企業は粉飾決算をおこなっていることが多いからです。
現金が過剰になる場合の粉飾決算の手法は下記の通りです。
<粉飾決算の例>
・社長が会社の現金を個人的に使用するも、貸付金として経理処理していない
・接待交際費などを会社の現金で支払いするも、経理処理していない
上記の例では杜撰な経理体制により、粉飾決算に至った例です。
融資申込の際に、決算書の現金勘定が多く計上されている場合は融資担当者に理由を説明することをお勧めします。
(2)現預金の推移状況は?
融資審査においては、決算書から5年程度の現預金推移を検証します。
決算書における現預金については、あくまで決算日における残高であり、バラつきがあるのは当然です。しかし、5年程度の推移で見れば、どの程度の現預金を確保している企業であるか分かります。
融資審査の場合は、平均月商に対して現預金がどの程度確保されているかに着目します。
平均月商の1ヶ月にも満たない現預金残高で推移している企業は、資金繰りは厳しい状態であることが分かります。
5.売掛金
売掛金については「回収不能になっている売掛金はあるか?」がポイントになります。
売掛金は将来的にはキャッシュとして回収されるべきものです。
しかし、売掛金が回収不能であれば、売掛金として計上されているもののキャッシュとして回収されません。
また、運転資金の融資申込があった際に正常運転資金から融資判断をします。
正常運転資金=売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産-支払債務(買掛金・支払手形)という式で算出されます。
正常運転資金は、事業を継続していくうえで必要な資金です。融資審査においても、正常運転資金の範囲内の融資申込であれば融資承認される可能性は高いです。
ここで、売掛金の一部が回収不能であった場合は、適正な正常運転資金の算出ができなくなります。通常では、決算書の付属明細から固定化している売掛金がないかを判断します。
また、銀行員から回収不能な売掛金がないかヒアリングを受ける可能性もあります。
6.棚卸資産
棚卸資産については、売上と連動して増減している場合は問題ありません。
売上が毎期減少しているにもかかわらず、棚卸資産が変化していない場合は売れ残りなど不良在庫がある可能性が高いです。
また、架空在庫を計上することにより、利益を水増しするなどの粉飾決算をしている可能性もあります。
売上原価は「期首棚卸資産+当期仕入高-期末棚卸資産」という式で求められます。架空在庫を計上することにより期末棚卸資産は増加します。これにより、売上原価を減らし当期利益を水増しするという粉飾決算が完成します。
融資審査において銀行は、業種ごとの平均在庫についてのデータを保有しています。これにより企業ごとに適正在庫を算出します。適正在庫より過剰に在庫が多い場合は不良資産として認定するケースが多いです。
ただし、「商品が為替レートの関係で通常より安く仕入れることが可能なので、まとめて仕入した」など適正な理由があれば、銀行の融資担当者に伝えておきましょう。
7.最後に
今回は、銀行員が決算書を見る際に着目するポイントの前半部分を解説しましたが、いかがだったでしょうか。
次回は、「銀行員が決算書を見る際に着目するポイント②」ということで、後半部分を解説していきます。