初めての労使協定でも安心! 具体的な書き方をテンプレート付きで解説
企業が従業員と労使協定を結ぶ際には、協定内容をまとめた書類を作成する必要があります。
しかし、労使協定には様々な種類がある上に労働基準法とも関連しているため、どのような内容を盛り込めば良いのか分からず悩む方も多いでしょう。
そこで本コラムでは、各労使協定の概要から書類の形式、さらに具体的な書き方まで詳しく解説します。これを読めば、労使協定の作成に自信を持てるようになるでしょう。
すぐに使えるテンプレートもご用意したので、ぜひ参考にしてください。
労使協定の基礎知識
労使協定とは、労働者と使用者との間で交わした取り決めを、書面にまとめたものです。通常の契約は口約束でも成立しますが、労使協定は書面に残す必要があり、単なる口約束では効力は発生しません。
労働者と使用者双方が同意して取り決める協定なので、締結後は双方が労使協定に従う必要があります。
労使協定と労働協約の違い
労使協定と似た言葉に「労働協約」がありますが、この2つには以下のような違いがあります。
- 労働協約:労働組合と使用者との間で締結するもの。労働組合の組合員のみが対象となる
- 労使協定:労働者の過半数を代表する者と使用者との間で締結するもの。事業所のなかで、労使協定の適用範囲と定められたすべての労働者が対象となる
また、労使協定は民事上の効力をもたないのに対して、労働協約には民事上の効力があります。さらに労使協定には有効期間の制限はありませんが、労働協約は3年を超える定めはできません。
届出義務がある労使協定の書式
労使協定にはさまざまな種類があり、労働基準監督署に届け出る必要があるものと、届出不要のものがあります。まずは、届出義務がある労使協定の概要と書式から見ていきましょう。
36協定(時間外労働休日労働に関する労使協定)
労働者の法定労働時間は、労働基準法第32条によって1日8時間・週40時間と定められています。また、労働基準法第35条によって法定休日での労働は禁止されています。
しかし、労働基準法第36条が定める、いわゆる「36協定」を締結すれば、一定の範囲内で時間外労働・休日労働を行わせることが可能です。「36協定」の書類には、事業の種類や名称、時間外労働・休日労働を行わせる理由などを細かく記載する必要があります。
1年単位の変形労働時間に関する労使協定
繁盛期と閑散期がある事業などでは、法定労働時間どおりの勤務時間にすると、繁盛期に人手が足りなくなり閑散期に人手が余ってしまうでしょう。
このようなときに、労働基準法32条の4に基づき「1年単位の変形労働時間の労使協定」を結ぶと、1ヶ月以上1年以内の期間の勤務時間を、一定の範囲内である程度自由に決められるようになります。
「1年単位の変形労働時間に関する労使協定」の書類には、具体的な勤務時間や起算日などを記載しましょう。
1ヶ月単位の変形労働時間に関する労使協定
労働基準法第32条に基づき労使協定を締結すれば、1ヶ月単位で変形労働時間を導入することも可能です。
「1ヶ月単位の変形労働時間に関する労使協定」の書類には、具体的な勤務時間や労使協定の有効期間などをくわしく記載しておきましょう。
1週間単位の非定型的変形労働時間制の労使協定
従業員が30名未満の小売業や飲食業の場合は、1週間を単位とした変則労働時間制を導入できます。
週の労働時間を40時間に収めるなどの決まりを守れば、1日の労働時間を金曜日など忙しい日は長く、予約が少なく暇だと思われる日は短くするなどの対応が取れるようになります。
「1週間単位の非定型的変形労働時間制の労使協定」の書類には、1ヶ月単位の変形労働時間に関する労使協定の書類と同じく、具体的な勤務時間や労使協定の有効期間などを記載しましょう。
事業所外労働のみなし労働時間制に関する労使協定
労働者が事業所外で業務についていて、労働時間の計算がむずかしいときは、実働時間ではなく「みなし時間」で労働時間を計算することが可能です。
この「みなし時間」が8時間以下の場合は届出不要ですが、8時間以上の場合は労働基準法38条の2に基づいて労使協定を結び、労働基準監督署に届け出なくてはなりません。
「事業所外労働のみなし労働時間制に関する労使協定」の書類には、みなし時間で労働時間を計算することや休日労働・深夜労働した場合の取り決めなどについて記載しておきましょう。
専門業務型裁量労働制に関する労使協定
業務の内容によっては、業務遂行の方法や時間配分などを労働者の裁量にゆだねる必要があり、使用者が指示するのがむずかしいことがあるでしょう。
このような場合は、労働基準法38条の3に基づき労使協定を締結することで、あらかじめ定めた労働時間分働いたとみなして労働時間を計算できます。
「専門業務型裁量労働制に関する労使協定」の書類には、対象となる業務やみなし時間で労働時間を計算することなどについて記載しましょう。
労働者の貯蓄金の管理に関する労使協定
労働者の給与から一部天引きし、会社が預金しておく預金管理制度を導入する場合、労働基準法18条の2に基づき労使協定を結ぶ必要があります。
「労働者の貯蓄金の管理に関する労使協定」の書類には、精度の対象者や預金限度額、預入方法・払戻方法・利率などについて記載しておきましょう。
届出不要の労使協定の書式
労使協定のなかには、書類を交わす必要はあるものの、労働基準監督署に届け出る必要がないものもあります。続いては、届出不要の労使協定の概要と書式について見ていきましょう。
年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
労働者の年次有給休暇のうち、5日を超える日数分を計画的付与したい場合は、労働基準法39条に基づき「年次有給休暇の計画的付与の労使協定」を締結する必要があります。
「年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定」の書類には、計画的付与の目的や対象者、有給付与の時期などについて記載しましょう。
年次有給休暇の時間単位での付与に関する労使協定
年次有給休暇の取得は1日単位が原則ですが、労働基準法39条に基づき「年次有給休暇の時間単位での付与の労使協定」を締結すると、時間単位で取得できるようになります。
「年次有給休暇の時間単位での付与に関する労使協定」の書類には、制度の目的や対象者、時間単位での有給取得の上限などについて記載しておきましょう。
年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の労使協定
年次有給休暇の賃金の計算方法には、以下の3種類があります。
- 通常の賃金で計算する
- 平均賃金を算出して計算する
- 健康保険料の標準報酬日額をもとに計算する
このうち健康保険料の標準報酬日額をもとに賃金を計算する場合は、労働基準法39条に基づき「年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う労使協定」を結ぶ必要があります。
「年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の労使協定」の書類には、標準報酬日額をもとに賃金を計算することや、協定の有効期間などについて記載しておきましょう。
育児・看護・介護休業が出来ない者の範囲に関する労使協定
入社してから日が浅い労働者や労働日数が少ない労働者で、所定の条件に該当する場合は、育児・看護・介護休業の対象から除外することが可能です。
ただし、育児介護休業法に基づいて、「育児・看護・介護休業の適用除外の労使協定」を締結する必要があります。
「育児・看護・介護休業の適用除外に関する労使協定」の書類には、育児・看護・介護休業それぞれの適用除外の対象者の条件や、協定の有効期間などを記載しましょう。
フレックスタイム制に関する労使協定
労働者が自分で労働時間を決めるフレックスタイム制を導入する際にも、労働基準法32条の3に基づき労使協定を結ぶ必要があります。
「フレックスタイム制に関する労使協定」の書類には、フレックスタイム制の対象者や標準労働時間、コアタイムなどについて記載しておきましょう。
なお、フレックスタイム制で働く労働者の労働時間が法定労働時間を超える場合は、定時制の労働者と同じく、別途36協定を締結する必要があります。
休憩の一斉付与の例外に関する労使協定
労働基準法では、使用者は全労働者に一斉に休憩を付与するよう定められています。といっても、業務内容によっては、一斉に休憩を取るのがむずかしいこともあるでしょう。
そのような場合は、「休憩の一斉付与の例外に関する労使協定」を締結すると、交代や任意の時間で休憩が取れるようになります。
「休憩の一斉付与の例外に関する労使協定の書類」には、休憩を交代で取るのか任意の時間で取るのか、何時から何時までが休憩時間なのかなどについて記載しましょう。
賃金から法定控除以外の控除を行う場合の労使協定
賃金には全額支払いの原則があることから、本来であれば何らかの費用を控除することはできません。ただし、社会保険料や所得税、住民税などの法定控除については、賃金から控除することが認められています。
また、寮費や食事代などの法定控除以外の費用も、労働基準法24条に基づき労使協定を締結すれば、賃金から控除することが可能です。
「賃金から法定控除以外の控除を行う場合の労使協定」の書類には、控除する項目や協定の有効期間などについて記載しておきましょう。
まとめ
労働者に時間外労働や変則労働を求めたり、有給休暇を計画的付与したりする場合は、労働者と使用者の間で労使協定を結ぶ必要があります。労使協定は書面にしないと効力がないため、目的に応じた書類を用意しておきましょう。
協定を結ぶたびに一から書類を作成するよりも、テンプレートを利用するほうが効率的です。『bizocean(ビズオーシャン)』では労使協定の書類作成に役立つさまざまなテンプレートを用意していますので、ぜひご活用ください。