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脱ハンコのネクストステップ、 それが「デジタル稟議」

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脱ハンコのネクストステップ、 それが「デジタル稟議」

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新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、世の中では脱ハンコが一気に進みました。当初は民間企業が主でしたが、菅義偉総理大臣になって以降は官庁でも活発化しています。たとえば河野太郎行政改革担当大臣を中心とした、脱ハンコの推進。また、福岡市役所では行政手続きに関する申請書に対してハンコレスが決まり、運用もされました。さらには内閣もデジタル庁の創設を進めており、社会的にデジタル化の流れが加速しています。

本稿では、これらの脱ハンコ化について、ワークフロー総研所長を兼任する私、岡本の見解を述べたいと思います。同時に、脱ハンコを迎えた社会のこれからや、あるべき姿をお話させていただきます。

安直な脱ハンコではなく意思表示の本質を議論すべき

私の立場とすれば、脱ハンコ化は望ましいことではあります。しかし、現在表立っている議論では、単純にハンコをやめることが目的となっているように感じています。本質はそこではありません。今までの慣習において、意思表示にハンコを用いていたとすれば、意思表示をハンコ以外の何で行うのかという本質を議論すべきです。

誰が、何を、どのように確認し、そして最終的に判断するかという「行為そのもの」は、ハンコがあろうがなかろうが必要です。目的は、その行為が誰にとっても扱いやすく、効率化できることです。私は、一連の脱ハンコ化をきっかけに、どういう意思表示の仕組みがあり、対象者がどう確認したのかがワンセットであるべきだと思います。

ビジネスにおける業務的なものは効率化が重要であり、脱ハンコも推進されるべきです。ただし結婚や出生時の申請など、プライベートなものは伝統的な意味合いもあり、こちらに関してはハンコが重要視されるべきでしょう。あるべき姿は、今回の脱ハンコ化をきっかけに意思表示の本質を議論すること。そのうえで業務を設計することが大切です。

コロナ禍におけるテレワークの浸透で、遠隔で打ち合わせなどを行うコミュニケーションが当たり前となり、訪問や出張も減り、一方で在宅勤務は増えました。これはデジタルが生み出した利便性ですが、直接会うことがゼロになったかといえばそんなことはありません。出社に関しても同様です。

それは、対面コミュニケーションならではのメリットもあるからです。紙とハンコの問題にも同じことがいえます。たとえば、提案書は画面で見るだけではなく手元に紙としてあったほうが、説得力が増すといったケースもあるでしょう。デジタル化には、選択肢を残して臨機応変に対応できる柔軟性が大切だと思います。

テレワークはよりよいワークライフバランスをもたらした

コロナ禍では感染しないために人との接触を避ける、そのために出社をさせないという動きが多くの企業で見られ、テレワークが導入されました。これは、企業の意思決定の中に「社員の健康を守る」という要素が加わったものと捉えられます。

ただし、出社しないことで健康を阻害する面があることも見逃せません。たとえば、外出自粛による運動不足やストレスの蓄積。加えて、直接会話しないことによるメンタルの低下もあるでしょう。

健康を守る目的で3密を徹底することは大切ですが、テレワークで在宅勤務をしていただけでは健康な生活は送れません。この先には、よりよいワークライフバランスが求められるようになるでしょう。つまりは仕事と健康的な生活の両立です。

テレワークで在宅時間が増えた分、これまでは難しかった育児参加ができた人もいるでしょう。結果的にその充実感は、仕事への意欲向上にもつながります。多くの企業がテレワークを導入しましたが、その効果は感染防止などの健康面だけではありませんでした。従業員がよりよいワークライフバランスを享受できることで、体だけではなく心の健康も維持できるというメリットもあったのです。

デジタル稟議で経営にイノベーションを

コミュニケーションのデジタル化について述べましたが、これはあくまでインフラが整った状態。次のステップはこのデジタル基盤を使って、ビジネスを今まで以上に円滑に進めることです。より具体的に言えば、最新テクノロジーの力で、ビジネスの仕組みや経営を再構築すること。効率化を図り、生産性とともに競争力も上げる。これがデジタルトランスフォーメーション(DX)の本質です。

そのためにはまず、社外におけるビジネスの効率化が欠かせません。テレワークの浸透とともに請求書や契約書の電子化が一気に進み、その結果として物理的、人的コストが削減されました。また、業務のスピードアップが実現した、正確性がアップした、ログが残せて紛失の恐れもなくなったなど、デジタル化のメリットが話題となっています。

その一方、社内の効率化は何かという議論も生まれています。ここで押さえておくべきテーマは何か。それは、事業やビジネスを企画提案し、承認や意思決定されるプロセスを見直すことです。この見直しが、社内のビジネス効率化において重要なポイントです。誰かが起案し、依頼して決定されるという一連の繰り返しが仕事であり組織で言えば稟議です。企画をはじめ、契約、購入、採用、事業提携など、多くの仕事には稟議があります。特に、新しい物事を起案するプロセスは稟議に集約されます。

新しい物事の起案とはつまりイノベーションであり、企業の発展にはイノベーションが起こりやすくすることが大切だと考えます。そのためにはデジタル化により稟議を行いやすい環境を整え、新しいアイデアを生み出しやすくすることが大切です。これを私は「デジタル稟議」と提唱します。

デジタル稟議によって現場の声をライトに拾って反映し、経営者との距離を近くし組織を強くする。これは特に中小企業に重要です。なぜなら、中小企業は稟議の仕組みができていないといったことや、従業員数が少なくても社長の権限が強く現場社員との距離があるという会社も少なくないからです。気軽に起案できるデジタル稟議という仕組みで社内制度を作り、イノベーションを起こしやすくするのです。

バックオフィスのDXが会社を強くする

デジタル稟議のメリットにはまず、脱ハンコやペーパーレスによるコスト削減のほか、オペレーションの簡易性、即時性、正確性も挙げられます。いつ、誰が、何をどのように判断して承認・決裁されたかと、ログが残ることでいつでも参照でき、知見として資産化、コンプライアンス面でもメリットがあります。

そして、時間や場所にとらわれないので無駄な会議がなくなります。稟議では複数の関係者が提案内容を理解した上で承認が行われますが、時間や場所にとらわれないため、きちんと冷静に承認者も検討が可能です。つまり、稟議の質が向上します。同時に意思決定も早くなり、中小企業に重要なスピード経営が実現します。そのうえで、新しいビジネスやイノベーションが生まれやすくなるのです。

デジタル稟議はバックオフィスのDXであり、これがフロントオフィスに良い影響を与えます。バックはフロントの支援業務なので、結果的に全体の効率化につながり会社の売上がアップしていきます。

デジタル稟議は表面的にはペーパーレス化に見えますが、本質は業務の効率化であり、社内業務の変革なのです。稟議が進化すれば、社内の知見(意思決定)が溜まり、確実に今後の仕事に活きてきます。また、参照が容易になることで、繰り返し発生する同じような問い合わせ対応も劇的に削減することが可能です。バックオフィスが経営に対してインパクトを与えられる、それがデジタル稟議です。ここにデジタル稟議の展望があると私は思います。

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著者プロフィール

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岡本 康広

株式会社エイトレッド 代表取締役社長/ワークフロー総研 所長

ワークフローシステムを開発・提供するエイトレッドの代表取締役社長も務める。
ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。

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