改めて考える、ハンコ文化が引き起こす生産性低下と脱ハンコのメリットとは
河野太郎行革担当相が10月16日の会見で、約1万5千の行政手続きのうち、「99.247%の手続きで押印を廃止できる」と述べました。このように、脱ハンコが今、大きなテーマになっています。
コロナ禍を経て、今まで脱ハンコをテーマとしていなかった企業でも、現在脱ハンコ化の検討や実装を進めています。ハンコといえばどの企業でも、どなたでも使ったことがある仕事道具かと思いますが、もしかしたら将来、ハンコがオフィスでほとんど見ないシーンが実現するかもしれません。
本稿ではハンコ文化の課題と、なぜ脱ハンコを進めるべきなのか、その理由を解説します。
働き方改革実現のためには脱ハンコが必須
ハンコ文化は日本の商習慣において広くそして深く浸透していることは、こちらの記事でご紹介しています。
そもそもハンコは必要?ビジネスで使われているハンコとその理由を大解剖
しかしハンコ文化は通信、その他コミュニケーションツール等がない時代からの習慣です。働き方も多様化し、各ITツールも充実している現在において、ハンコ文化は本当に必要なのでしょうか?
2020年6月にアドビシステムズより発表された調査レポートによると、72.6%の人がハンコは生産性を下げていると回答しています。
アドビ「中小企業経営者に聞いた判子の利用実態調査」の結果を発表
具体的にはどのような問題が生産性を下げているのでしょうか? 主な要因3つを解説します。
1. 押印のためだけに出社・移動を強要される
テレワーク中も押印のためだけにやむなく出社という本末転倒な状況が発生していることは読者のみなさんもご存知のことかと思います。
近年の働き方改革でテレワークのルール整備は幾分か進みましたが、押印のために出社しなければならない状況を見ると「あくまで出社を前提とした一部」テレワークであったと言わざるを得ません。
また、本社の他に支部や支所、店舗を複数持つような他拠点企業では押印のために移動をしたりすることもあると言います。
押印は「承認してほしい人による確認がされた・承認された」ということが分かればその目的を達成することができます。押印のために本業の時間を潰してまで複数の拠点を行ったり来たりするのはとてももったいない時間の使い方をしている=本業の生産性を下げていると言えます。
2. 押印なしでは仕事が進まず、押印獲得の無駄な仕事が生まれる
ワークフローや業務プロセスを進める際に押印が必須だと、前段で触れたようなわざわざ押印のために移動が必要だったり、押印のための何度も同じ説明をしなければならなかったり、様々なムダが発生してしまいます。
押印前の根回しから押印のための移動や待ち時間、押印後の書類提出と管理で「仕事」とも言いづらい業務が発生しているのが分かります。こうしたムダは省きたいものの、押印が必須であり、押印のリレーを繋がなければ意思決定ができないため止むを得ず本業を後回しにしてでも対応しなければなりません。
こうした仕事が本来やらなければならない業務を妨げ、生産性を下げているのです。
3. ペーパーレスが進まず、一向に生産性が向上しない
ハンコ文化はそのままペーパーレスを妨げる原因となります。ペーパーレスが進まなければ結局はその書類が物理的にある場所で仕事をし、回覧や共有・決裁をしなければならないので、出張等での不在時に対応ができない、あるいは他拠点の場合は決裁のために郵送しなければならないといった手間が増えます。
加えて、紙の書類は保管・管理業務も手間がかかります。保管スペースをとる上、ファイリングやラベリングといった管理のための業務が発生します。こうした保管・管理業務がひいては、社内文書全体によく関わるバックオフィスの負担となり、バックオフィスの生産性を下げるのです。
ハンコ文化をやめ、ペーパーレスを実現できれば、いつでも・どこからでも、意思決定を下すことができ、保管・管理業務から解放されます。
これら3つの課題、みなさんも一度は感じたことがあるのではないでしょうか? とはいえ、冒頭の調査レポートにもある通り、導入にハードルを感じている方が多いのが現実です。社外とのやりとりで抵抗がある他は、社内での導入コストや抵抗がある、運用面で不安であるといった声が多く挙げられています。
次の段落では改めて脱ハンコのメリットをお伝えし、最後に脱ハンコへのアプローチについて少しだけ触れ、まとめたいと思います。
脱ハンコのメリット
脱ハンコは様々なメリットをもたらします。業務におけるメリットにとどまらず、働き方といった大きな観点からもその効果をお伝えします。
1. 業務の無駄を削減し、本来的な仕事の時間に当てられる
脱ハンコの最も大きなメリットは「生産性向上への貢献」の一言で表すことができると言っても過言ではありません。脱ハンコができれば少なくとも上記2つの課題は解消されます。日常の書類作成業務、承認依頼/承認業務はもちろん、ペーパーレスが進めば保管・管理業務もなくすことができるのです。
しかし生産性はムダな業務がなくなっただけでは上がったとは言えません。脱ハンコでムダな業務をなくす→その後、本業に充てる時間が増え、その分残業を減らすことで初めて実現します。
脱ハンコは短期的にはムダな業務をなくし、中長期的には有益な時間を生み出すことにつながるのです。
2. 場所に依存しない柔軟な働き方の実現
脱ハンコは働く場所からも私たちを解放してくれます。
ハンコ、そして押印された書類の保管・管理の観点から、働く人がその場にいかなければなりません。しかし脱ハンコができれば場所に囚われず、オンラインで意思決定ができ、どこからでも働けるようになります。
これまでテレワークの際には「テレワーク用」の仕事をまとめて持ち帰り、取り組んでいたかもしれませんが、今後はその必要はありません。オフィスの業務を選ばずに遂行することができるのです。
人手不足は日本の働き方改革に関わる大きな課題の一つです。従来の働き方にこだわらないことで、採用や従業員満足度にも良い影響をもたらすでしょう。
脱ハンコ実現のプロセス
ハンコ文化は根強いものですが、それを脱すればご紹介したようなメリットがあります。この2つのメリットはまさに、日本の働き方改革で期待する効果だと言えるのではないでしょうか。
では具体的に脱ハンコはどう進めればよいのか。それにはワークフローを使った電子化がおすすめです。
ハンコ自体の電子化は現在いくつか提供されている電子署名サービス等でも実現できますが、ワークフローシステムを使うと次のようなメリットがあります。
- 印影がつくのでハンコ文化自体は残しながら電子化できる
- ハンコだけでなく書類の電子化(ペーパーレス)も同時に実現できる
- 申請や意思決定は全て保存される。さらに過去の意思決定をすべて情報資産化できる
冒頭に述べた3つの課題はワークフローを使った脱ハンコの取り組みで、全て解決することが分かります。
長年の習慣を変革し、新しい習慣を作り上げる。これには働く人の心理的な抵抗が存在します。また、導入への費用や運用定着のリソースなどのコストもかかります。
しかし、多くの企業が脱ハンコに変わろうとしています。将来、脱ハンコというのは企業にとって当たり前になるでしょう。言い換えれば、脱ハンコを行っていない企業は、業務の生産性という面に差がつくばかりか、優秀な人材は本質的な仕事に時間を使うことを求めるため、人材の採用や定着にも影響が及ぶでしょう。結果として、企業の競争力に影響します。改めて、この機会に脱ハンコを検討してみてはいかがでしょうか。