貸倒損失とはどんな勘定科目? 必要な3つの要件と仕訳方法を解説
取引先に対する売掛金や貸付金などが、何らかの事情で回収できなくなるケースがあります。
このときに使用する勘定科目が「貸倒損失」です。
貸倒損失は損失として経理処理されますが、税務上の要件を満たさなければ損金算入が認められないこともあるため、処理する際は正確な知識が必要です。
本記事では、貸倒損失の要件や仕訳処理について解説します。
貸倒損失とは
「貸倒損失」とは、何らかの事情で回収不能となった債権の、損失処理に使用する勘定科目です。
貸倒損失として計上できる債権は、たとえば以下のような理由で回収不能になったものです。
- 債務者(企業)が倒産した
- 債務者が債務超過に陥っていて、自社に対する債務を弁済できない
- 行政機関や金融機関の判断で、債務者の債務が免除された
貸倒損失が発生した場合、損益計算書に損失として計上されます。
貸倒損失の損金算入に必要な3要件
貸倒損失として損金算入するためには、対象の債権が以下3つのいずれかに該当する必要があります。
- 法律上の貸倒れ
- 事実上の貸倒れ
- 形式上の貸倒れ
それぞれ解説します。
1.法律上の貸倒れ
「法律上の貸倒れ」とは、債務者の弁済が法律の適用により免除されたことを指します。
具体的には、以下のような方法で債権が切り捨てられたケースを指します。
- 会社更生法・会社法・民事再生法などの適用を受けた
- 債権者集会の協議決定や行政機関・金融機関などのあっせんによる協議があった
- 債務者の債務超過が続いて弁済が難しくなり、債務者に対して書面で免除の旨が通知された
参考:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
2.事実上の貸倒れ
「事実上の貸倒れ」とは、債務者に債務の弁済に充てられるだけの金銭がなく、債務の全額を物理的に回収できないことを指します。
ただし、事実上の貸倒れと見なされるのは、債権の「全額」の回収が難しいと判断された場合に限ります。
つまり、一部が回収できないだけでは、事実上の貸倒れとはならないのです。
また、対象となる債権に何らかの担保物がある場合は、その担保物も処分されていなくてはなりません。
参考:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
3.形式上の貸倒れ
「形式上の貸倒れ」とは、もともと行っていた取引を停止し、その後1年以上経っても回収できない場合を指します。
取引先が弁済に応じない場合や、債権を回収するためにかかった費用が回収すべき金額を上回った場合が該当する要件です。
形式上の貸倒れは、ほかの要件と比べると明確な基準がなく、認められづらくなっています。対象となる債権が売掛債権のみである点も、注意が必要です。
参考:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
貸倒損失の会計処理
ここからは、実際に貸倒損失が発生した場合の会計処理の方法を解説します。
貸倒損失は、発生したケースに応じて計上時期が定められており、消費税が控除されたりする場合があります。
会計処理の方法は、正確に把握しておきましょう。
計上時期
貸倒損失の計上時期は、以下のとおり明確に定められています。
発生したケース |
計上時期 |
---|---|
法律上の貸倒れ (債権の切り捨てがあった) |
切り捨ての事実が発生した日の属する事業年度 |
事実上の貸倒れ (債権の回収が不可能になった) |
債権の全額回収不能が明らかになった事業年度 |
形式上の貸倒れ (取引をやめて1年以上経っても回収不能) |
|
そして、事実上の貸倒れ・形式上の貸倒れはこの計上時期に遅れてしまうと、法律上の貸倒れとしてしか計上できなくなります。
つまり、損金算入できる時期がどんどん遅れてしまうのです。
「債権回収に取り組んでいたが、結局回収できなかった」といった場合は、計上時期の遅れが認められるケースもありますが、基本的に上記の時期が基準となることを知っておいてください。
仕訳方法
続いて、法律上の貸倒れ・事実上の貸倒れ・形式上の貸倒れの、それぞれの仕訳方法を解説します。
どのケースにおいても基本的な仕訳方法に大きな違いはありませんが、場合によっては債権の一部の金額だけを、計上することもあります。
何円を貸倒損失とするのか、よく確認したうえで処理を行ってください。
法律上の貸倒れ
(例)会社更生法の決定により、弊社の取引先に対して有する債権800,000円の全額が法律上消滅した。
借方 |
貸方 |
||
---|---|---|---|
貸倒損失 |
800,000 |
売掛金 |
800,000 |
事実上の貸倒れ
(例)債権者集会による協議で、弊社の取引先に対して有する債権500,000円が全額切り捨てられることになった。
借方 |
貸方 |
||
---|---|---|---|
貸倒損失 |
500,000 |
売掛金 |
500,000 |
形式上の貸倒れ
(例)取引停止後1年以上経過する取引先に対する債権70万円について、再三の督促にもかかわらず入金が見込めなかったため、1円を備忘価額とし、残りを貸倒損失として計上した。
借方 |
貸方 |
||
---|---|---|---|
貸倒損失 |
699,999 |
売掛金 |
699,999 |
消費税の扱い方
売掛金や受取手形などが貸倒れとなった場合、そこに含まれる消費税や地方消費税は、仕入税額控除の対象となります。
しかし、消費税額の控除を受けるためには、貸倒れの事実を証明できる書類の用意も必要です。
また、同じ債権でも非課税取引である貸付金の貸倒れでは、消費税は控除されません。
どういった書類の用意が必要なのかは、次の章で解説します。
貸倒損失と税務調査
貸倒損失が発生した際、その事実を客観的に証明できる書類の用意が必要です。
貸倒損失は損金に計上されるうえ、場合によっては消費税も控除されます。すなわち、不正に貸倒損失として計上することで、大幅な節税もできてしまうのです。
こうした性質から、貸倒損失は税務調査でも厳しく確認される傾向にあります。
そのため、貸倒損失があったことと、回収しようと動いたもののできなかったことを、客観的に証明できる書類の用意が必要なのです。
一例として、以下のような書類が該当します。
- 取引時に締結した契約書
- 支払いの催促のために送った内容証明郵便
- 債権回収にかかった費用の計算書
- 債務者の過去数年分の決算資料
また、こうした書類の内容と共に、なぜ貸倒損失として計上するに至ったのかを明確に説明できるようにしておきましょう。
貸倒損失を回避するための対策
ここからは、貸倒損失を回避するための対策を2つ紹介します。
- 売掛金回収の管理を丁寧に行うこと
- 取引開始前の与信管理をすること
売掛金回収の管理を丁寧に行うこと
貸倒損失を防ぐためには、まず売掛金回収の管理を丁寧に行うことが、重要です。
貸倒れに悩まされる企業の傾向として、売掛金回収の管理が軽視されている点が挙げられます。たとえ貸倒れを見越して「貸倒引当金」を設定していても、債権の回収が保証されるわけではありません。
債権の回収期日を明確に定めたうえで、その日までに回収できていない債権がないかの確認を徹底しましょう。その上で、期日までに支払いがない場合は督促をしましょう。また、取引先の信用調査や経営状況の分析なども随時行うことが重要です。
取引開始前の与信管理をすること
取引開始前の与信管理も、貸倒れを防ぐためには非常に重要です。そもそもリスクの高い取引先とは取引を行わない、または取引の上限額を定めるといった対応を取ることで、貸倒れのリスクをさらに軽減できます。
貸倒損失が発生すると本来であれば回収できたはずの債権が回収できないうえ、計上時期を守って、かつその事実を証明する用意もしなければなりません。
貸倒損失の処理方法を知っておくことも重要ですが、そもそも貸倒損失を防ぐ対策が最も重要だと言えます
貸倒損失についてのまとめ
貸倒損失として認められる要件には、法律上の貸倒れ・事実上の貸倒れ・形式上の貸倒れの3つがあります。
万が一、貸倒れが発生した場合は、貸倒損失として計上することで、損金として扱うことができます。
ただし、貸倒れのケースごとに計上できる時期や消費税の取り扱いが異なるため、処理方法は正確に把握しておきましょう。
ただし、そもそも貸倒れを未然に防げるよう対策することを最優先に考えることが重要です。日頃から丁寧な売掛金回収の管理や、取引先の調査をして、貸倒れを防げるよう努めましょう。