もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ② 「小口現金」
「現金その場限り」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
この言葉は、「現金授受の際にその場で現金を十分に確認し、後から現金が合わないと言うのは通用しない」ということを意味します。
これは「現金その場限りの原則」と呼ばれて、金融機関など現金を取り扱う職場で良く言われます。経理業務においても現金を取り扱うことから、「現金その場限り」という言葉を常に意識しなければなりません。
今回は、「小口現金」の取り扱いについて解説していきます。
1. 小口現金とは
経理担当者には、「小口現金」といって、少額の経費などを精算するために一定額の現金が預けられます。そして、「手提げ金庫」が用意されて、小口現金を日々管理します。
・手提げ金庫
少額の経費精算などの場合に、銀行口座から都度現金を引き出すことは非効率的です。
このような場合に、経理担当者の手提げ金庫から現金を引き出して経費精算することが一般的です。
小口現金の管理を行う際には「現金出納帳」を作成します。
手提げ金庫から現金を出し入れした際は、必ず現金出納帳に記入します。
そして毎日、現金出納帳の残高と手提げ金庫の現金残高を合わせることが基本です。
もし現金出納帳の残高と手提げ金庫の現金残高が合わないことがあれば、原因を追究する必要があります。
現金残高が合わない場合は、次の3点を確認します。
①現金の数え間違い
まずは手提げ金庫の現金を数え間違えているケースです。
お札の勘定、いわゆる「札勘」については慣れが必要です。毎日お札を数えるうちに札勘のスピードは上がりますので、継続的にトレーニングを行うことが重要です。
手提げ金庫の現金を、落ち着いてもう一度数えてみて下さい。
②現金出納帳の記載ミス
手提げ金庫の現金が合っている場合、次は現金出納帳の記載ミスを調べてみましょう。
手提げ金庫から現金を引き出す場合は、必ず領収書などの証票と引き換えに現金出金することが原則です。
証票などを再度確認して、現金出納帳への転記ミスがないか調べてみましょう。
それ以外にも「証票自体を紛失している」「証票なしに現金を出金してしまった」などの原因が考えられますので、良く確認してみましょう。
③現金取り扱い時のミス
手元金庫の現金も間違いなく、現金出納帳の記載ミスもない場合は、現金の取り扱い時に現金を多く(又は少なく)取り扱った可能性が高いです。
「現金を預かる際に多く(又は少なく)預かってしまった」「現金出金の際に多く(又は少なく)支払ってしまった」などの原因が考えられます。
「現金その場限り」という言葉通り、後から「実は現金が少なかった」とは言えません。現金を預かったその場で、納得がいくまで現金を数えましょう。
また現金支払いの際も、十分に現金を確認すると共に、現金を渡す相手にも現金が間違いないか確認をしてもらいましょう。
現金の取り扱い相違は、取引先との信用問題にも繋がる可能性があるために、慎重な取り扱いが必要です。
2. 経費の精算
小口現金は少額の経費精算に使われることが多いです。
ここでは小口現金における経費精算について解説していきます。
(1)経費精算の方法
経費精算の方法は2つあります。
① 立替払い
立替払いとは、従業員が消耗品購入など少額の経費を立て替えた金額を精算するものです。
経費精算までの流れは下記のようになります。
<経費精算までの流れ>
- ア.従業員が経費精算にあたり立替払いをする。
- イ.従業員が経理担当者に領収書などの証票を渡し、経費精算を依頼する。
- ウ.経理担当者は領収書の不備がないか確認する。
- エ.従業員へ立替払いした経費を精算する。
経理担当者は領収書の不備がないか特にチェックする必要があります。
- 金額に改ざん等がないか
- 日付、宛名がきちんと書いてあるか
- 個人的な用途に使用した領収書ではないか
②仮払金
経費精算は、基本的には立替払い方式が基本になります。
しかし、比較的多額の物品の購入や遠方に出張する場合は、立替払いする従業員の負担が大きくなってしまいます。
このような場合は仮払い方式により経費精算を行います。
<仮払い方式の手順>
- ア.仮払金を必要とする従業員が「仮払金申請書」を申請する。
- イ.「仮払金申請書」の承認後に、従業員に仮払金として現金を手渡す。
- ウ.物品購入や出張後に領収書を持参して精算手続きを依頼する。
- エ.仮払金の精算終了後に上席に報告する。
まずは、仮払金申請書に申請金額、使用する目的などを記入して経理部に提出します。
経理部は申請金額、使用する目的が妥当であるか判断します。仮払いにて現金を手渡す際は、必ず仮払金申請書の承認後に手続きをします。
経理担当者は、仮払金の精算が長期化しないように管理すべきです。
仮払金は実際の経費を使用する前に現金を手渡すために、本来の目的以外の事に使用される可能性があります。「仮払金をギャンブルに使ってしまった」など、本来の目的以外に使用されることは、残念ながら起こりえます。
仮払金を本来の目的通りに使用していないために、領収書などの証票を提出することができずに精算が長期化します。
このような少額の経費を使い込みから始まり、次第に使い込みをする金額が大きくなります。最終的には会社の金を横領するなどの事件に発展する可能性もあります。
このような事態を引き起こさないように、会社として仮払金精算に関するルールを決めて管理する必要があります。
(2)仮払金の仕訳
仮払金の仕訳について説明します。
①仮払金発生時
出張に際して仮払金として10万円を従業員に払った。
借方 |
貸方 |
仮払金 100,000円 |
現金 100,000円 |
②仮払金精算時
出張後に仮払金の精算を行った。旅費の交通費にて9万円かかり、差額の1万円を経理担当者に渡した。
借方 |
貸方 |
旅費交通費 90,000円 現 金 10,000円 |
仮払金 100,000円 |
①と②の仕訳を合算すると下記のような仕訳が完成します。
借方 |
貸方 |
旅費交通費 90,000円 |
現金 90,000円 |
3.領収書がない場合の処理方法
経費を支払った証明として領収書を証票として保管することは経理業務の基本です。
しかし、領収書をもらえないケースはどのように経理処理をしたら良いでしょうか。
領収書がもらえないケースとして、祝儀や香典などの冠婚葬祭で使われる経費や交通費などが挙げられます。
(1)冠婚葬祭に使われる経費
冠婚葬祭の場合、領収書は発行されません。この場合は、出金伝票に日付・支払先・金額・内容などを記入して上席の承認を得ます。また、領収書の代わりに招待状や葬儀の案内、新聞のお悔やみ記事などを保管しておきましょう。
(2)交通費などの経費
出張などで電車やバスなどの交通機関を利用した場合、領収書を発行してもらうことは可能です。しかし、出張の都度、精算書を発行することは従業員の手間になることは間違いありません。
交通費などの経費精算は「交通費精算書」を利用することが一般的です。出張する際に交通費精算書に、訪問先や乗車区間や乗車金額などを記載して経理担当者に経費精算を依頼します。この際にインターネットなどで目的地までの料金表などを添付し、乗車金額が妥当であるか判断します。最終的に上席までの承認を得た上で、経費精算を行います。
領収書がもらえないケースは領収書に代わる証票を残しておくことがポイントです。
経費を使った記録をしっかり残しておくことにより、経費としての正当性を証明することができます。
4.最後に
今回は小口現金について説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
小口現金の管理は、経理担当者が最初に任されることが多い仕事です。
「現金その場限り」という言葉を常に頭に置きながら、小口現金を取り扱うことが重要です。
この記事を通して、小口現金の取り扱いをマスターしていただけたら幸いです。