人件費の内訳完全ガイド! 人件費率の計算方法や目安もわかりやすく解説
人件費とは企業が従業員に支払う費用を指しますが、その内訳は給与だけではありません。福利厚生費や人材採用費など、様々な項目が含まれます。
本記事では、具体的な人件費の内訳とその計算方法について詳しく解説し、人件費率や労働分配率といった重要な指標の扱い方もお伝えします。
企業の経費を管理しコストを最適化するために、ぜひ参考にしてください。
人件費とは?
人件費とは、会社が算出する経費のうち、「従業員」に関わり発生する費用のことをいいます。
具体的には、「賃金」や「給与」といった従業員に労働の対価に対して支払われる費用や、「退職金」のように会社を退職する従業員に対して支出する費用など、会社が雇用している人材に対して支出する費用全般を人件費としています。
また、福利厚生にかかる費用も、従業員が利用することができる制度にかかる費用となるため、人件費として取り扱われます。
人件費の内訳(科目)
雇用する従業員にかかる費用全般を指す人件費には、さまざまな費用が含まれます。人件費に含まれる費用の内訳として、代表的なものは以下の通りです。
- 給与・手当・賞与
- 法定福利費
- 法定外福利費
- 人材採用費
- 研修費
- 役員報酬……など
以下では、人件費として取り扱われるそれぞれの費用を、詳しく見ていきましょう。
給与・手当・賞与
「給与」や「賞与」は従業員の労働の対価として支払われるものであるため、人件費に含まれます。給与は毎月支払われるのに対し、賞与は3カ月以上の計算期間を基礎として支給額を算出する点で異なります。
「手当」は、支給条件を満たした従業員に対して支払われるもので、具体的には以下のようなものがあります。
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 休業手当
法定福利費
法定福利費は、福利厚生費とも呼ばれることがあります。
会社が従業員に対して、給与や賞与とは別で支給するサービスなどに対して支出する費用のうち、「法的に支出を要するものに対して支出する費用」のことをいいます。
具体的には、以下のようなものが法定福利費とされています。
- 健康保険の保険料
- 介護保険の保険料
- 厚生年金保険の保険料
- 雇用保険の保険料……など
法定外福利費
法定外福利費とは、会社が従業員に対して給与や賞与とは別で支給するサービスなどに対して支出する費用のうち、「法的に支出を要するもの以外に対して支出する費用」のことです。
具体的には、以下に挙げるものなどが法定外福利費とされています。
- 人間ドックの費用補助
- 社内託児所の設置
- 短時間勤務制度
- 資格取得支援費用……など
人材採用費
人材採用費は、人材を採用する際に要した費用のことを指し、外部コストと内部コストに分けられます。
外部コストとは、有料のポータルサイトや求人情報誌への掲載費用のように、自社の外部に対して人材を採用するために支払った費用のことです。
また、社外に発注して会社説明会を開催した際の費用や、採用パンフレットの製作費用などのような外注費用についても、外部コストとされます。
内部コストとは、社内の採用に要した費用のことをいいます。求人広告を出す際の社内打ち合わせや、合同会社説明会への出展時の社内での運営費、求職者の面接などの業務にかかった費用などが、内部コストとされます。
研修費
研修費は、会社が社員の教育・研修を行う際に要した費用をいいます。
具体的には、外部講師の講師料や外部会場を借りて行う場合はその賃貸料、研修の際に使用する教材の準備費用などが含まれます。
役職者研修や管理職研修などの社内で行われる研修について発生するものも、基本的に研修費として、人件費として計上することになります。
その他の人件費
その他の人件費としては、役員報酬などがあります。役員報酬は、取締役などの役員が受け取る給与のことで、毎年1回開催される株主総会で、会社の業績や実績などを総合的に勘案したうえで、その額が決定されます。
報酬とある通り、社員への給与と同様に、人件費として扱うことになります。
人件費の出し方
人件費は、従業員への給与などと、法定福利費など、その他従業員に関わる費用の合計で算出することができます。
人件費には、「人件費率」と「労働分配率」という重要な指標があり、それぞれ人件費を用いることで算出します。
人件費率とは?
人件費率とは、売上高に対する人件費の割合を表したものです。
人件費率が高いということは、売り上げを上げるために多くの人員を動員する必要があり、会社の業績に対する人件費の負担が大きいということになります。
逆に、人件費率が低いと、売り上げを上げる際にかかった人員が少なく、効率良く売り上げを上げていることとなります。
人件費率の計算方法
人件費率は、売り上げを上げるために発生した人件費の割合の大きさで、
「(人件費/売上高)×100」
で算出することができます。人件費の額は給与や賞与、役員報酬以外にも、退職金や法定福利費等も含まれます。
給与や賞与の対象となる従業員のうち、役職者が多いほど人件費が高くなり、人件費率が高くなる傾向にあります。
人件費率の目安
人件費率の目安は、業種によって異なります。業務に必要な人員数により、人件費率が高くなるものもあれば、低い水準となる業種もあるのです。
人件費率を適正にするために行えることは、単純に人員を減らすだけではありません。
売上単価の引き上げや、原価構成を見直すことで売上原価を下げることなど、人件費率を構成する売上高を引き上げることで、同じ額の人件費でも、人件費率を大きく引き下げられるようになります。
労働分配率とは?
労働分配率とは、日常の事業活動において企業が生み出す付加価値のうち、人件費に対してどれだけの付加価値を与えているかを表した割合をいいます。労働分配率は高すぎても、低すぎても良くありません。
高すぎると、従業員のモチベーションは高まり生産性を向上させることができるようになる半面、人件費が高額になるため、企業経営においてリスクになる可能性があります。
低すぎると、人件費を安く抑えることができるようになりますが、従業員の待遇が悪化することになり、大量退職などを招く恐れがあるといえます。
労働分配率の計算方法
労働分配率は「人件費/付加価値×100」で算定します。
例:人件費45万円、付加価値90万円の場合は、労働分配率50%(450,000÷900,000×100)
また、付加価値の算定方法としては、「控除法」と「加算法」の2通りがあります。
- 控除法
売上高から商品の仕入原価や運送費、材料費、外注加工費などの外部購入費を控除して算出します。計算方法が簡略化されており、中小企業庁方式ともいわれます。 - 加算法
製造過程において発生する付加価値の額を加算していく方法です。「人件費 + 賃借料 + 税金 + 他人資本利子 + 当期純利益」で付加価値を算出し、日銀方式とも呼ばれています。
労働分配率の目安
労働分配率の目安は、業種や企業の規模によって異なりますが、大体50~70%の間くらいが平均であるといわれています。
製造業や卸売業、小売業などでは、50%前後と比較的低い水準が平均的とされており、逆に飲食店やサービス業などのように、人が売り上げを生み出すような業種に関しては70%前後が目安とされます。
また、企業の規模によっても目安が異なり、企業規模が大きくなればなるほど、労働分配率が高くなる傾向があります。
適正な人件費の考え方とは
適正な人件費の考え方には、以下が欠かせません。
- 労働分配率の割合を意識した経営戦略を考える
- 生産性を上げるための人的配置などを考慮した事業展開を進める
- 今後の人件費のシュミレーションを行うことで、適正な人件費を把握する
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
労働分配率の割合を意識した事業計画を考える
労働分配率の割合を意識した事業計画を考えるということは、人件費と売上高の割合をどの程度にするかを決めることです。
売上高の向上を図ることに重点を置きすぎると、人員が不足して、必要以上の人件費がかかるリスクが発生します。逆に、作業効率を上げるために人員を増やしすぎても、同様のリスクが発生するといえます。
そのため、売上高とその売り上げを達成するために必要な人員がどれだけ必要かを考慮し、事業計画を打ち立てていくことが求められるのです。
生産性を上げるための人的配置などを考慮した事業展開を進める
売上高を上げれば、労働分配率などの人件費に対する指標は向上すると考えられますが、売上高を上げるためにも、生産性を向上させる必要があるといえます。
生産性を向上させるために、適切な人材の配置などを考慮することは当然のことであり、人材配置の内容によっては、製造コストなどを従来よりも低く抑えるような効果をもたらすことも可能となります。
人材ごとの適性をしっかりと見極め、生産性を上げるための人材配置を考慮した事業展開を進めることは、適正な人件費を実現させるために必要な要素の一つといえるでしょう。
今後の人件費のシュミレーションを行うことで、適正な人件費を把握する
人件費は、周囲の環境によって常に変化し続けるものといえます。そのため、将来的な人材の流れなども予測したシミュレーションを行い、今後の人件費の推移をある程度の期間について把握しておくことも大切です。
これにより、将来的な人材育成や人材配置計画といった、今後の事業展開を見通すことにつながるのです。
また、労働分配率などの推移も併せて考慮することで、適正な人件費の目安を把握することも可能となります。
人件費についてのまとめ
従業員に関わる費用全般を指す人件費には、給与や賞与のみならず、退職金、役員報酬なども含まれます。また、従業員の福利厚生にかかる費用や、人材の採用・教育などにかかる費用も、人件費として取り扱います。
適正な人件費を考える際には、人件費率や労働分配率といった指標も参考になります。これらの指標も活用しながら人件費を適正化し、効率の良い経営をめざしましょう。
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