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税理士による書面添付制度

著者: 税理士  髙橋 昌也

税理士による書面添付制度

以前の記事(税理士について)で、ちいさなお仕事を始めるに当たっては、税理士のお付き合いをするのはそれなりに有用であることに触れました。

今回は、その税理士に許されている「書面添付制度」についてご紹介します。


制度の概要

※参考リンク 日本税理士会連合会「書面添付制度」

税理士による書面添付制度は、税理士のみに許されている権利です。簡単にいうと、

・申告書を作成するに当たってどんな事項に注意し、どんな資料を参考にしたのか?

これらについて、所定の書式に従って記載することができる制度です。記載した書面を税務申告書に添付して、提出することができます。そのため「書面添付制度」と呼ばれています。
記載できる事項には、こんな項目があります。

・(税理士が)自ら作成記入した帳簿書類に記載されている事項
・(税理士が顧客から)提示を受けた帳簿書類に記載されている事項
・(税理士が)計算し、整理した主な事項 そのうち顕著な増減事項
・(税理士が顧客からの)相談に応じた事項 etc.

こういった事項について、税理士が自分の言葉でまとめて記載します。具体的には、次のような点を重視して書くことが大切です。


事業の大まかな内容について

特に開業したばかりの場合、どのような内容の仕事をしているのか説明することで、各会計項目の補足的な説明をすることができます。

「製造工程において、専門性が高い作業が多く、外注に依頼している部分が多いので原価率が高い」
「人と会って話をする必要性が高く、会議費や接待飲食代が多い」
「大規模な設備投資が必要な事業で、固定資産や借入金が多く計上されている」

こういった要素について、書面にまとめることで自社の大まかな特徴を税務署に知らせることができます。


大きな変動があった項目

経済状況や自社の経営体制が変化した場合、各会計科目に大きな変動が出ることは珍しくありません。

「受注単価の引き上げに成功したため、前年に比べて粗利益率が大幅に向上した」
「世界的な原材料高騰のあおりを受けて、原価率が大きく伸びた」
「新規雇用を進めたため、人件費や社会保険料を含めた労務費の計上額が増えた」

こういった変化について、数字だけから推察するのは難しいです。書面添付を活用することで、数字の変化とその背景まで提示することができるため、申告書に含まれる情報量を飛躍的に高めることができます。

重要なのは、税務申告上で問題になりそうな点を中心に記載することです。そして、この書面を作れるのは税理士だけですので、経営者と税理士がしっかりと話し合いを行い、どんな内容を記載するのか、きちんと打ち合わせをすることが好ましいです。


税務調査が省略になることも

この書面添付制度ですが、明確なメリットがひとつあります。税務調査が省略されることがあるのです。

税務調査というのは、別に悪いことをしていなくても、ある程度事業を継続しているといつかは来るものです。「どんな資料を用意しているのか」「税務上問題のある処理をしていないか」といった点について、税務署としては納税者がきちんと申告をしているのか確認をしたいのです。

では、誰にでも調査が来るのか?というと、やはり調査が来やすいパターンがあります。そのうちのひとつが、会計科目の変動が激しいときです。

・前年に比べて売上が大きく増加(あるいは減少)した
・経費の比率が大きく変わっている

こういうときには、やはり税務署の人も気になります。特に事業規模が大きくなってきたときに、税務調査が来ることは珍しくありません。

その税務調査ですが、どんなに短くても丸一日、長いケースだと一週間といった期間、拘束されることがあります。特に人手が不足しがちな中小零細企業で、経営者がそれだけの時間を拘束されるというのは、それなりに痛手です。また、単純に「何か指摘されないかな」という強いストレスも受けることになります。

そこで役立つのが書面添付制度です。

上述の通り、書面の中には「使用している書類」や「変化が激しい会計項目」について、補足説明をする欄が設けられています。特に議論を呼びそうなところや変化が目立つ項目について、書面にしっかりと記載しておくと、税務署の人もそれを読んで「そういうことなのか」と理解することができます。

そしてそれでも税務署の人が気になるとき、いきなり調査になるのではなく、まず税理士に対して意見聴取が行われます。意見聴取は概ね30分から一時間くらいで終わることが多く、税務署員と税理士の間で「こんな感じです」というやりとりをします。

意見聴取の結果、調査の必要がないと判断された場合には調査が省略されることもあります。何よりも時間が貴重な経営者にとって、この調査省略の効果はかなり大きなものです。 


金融機関が参考にすることも

書面添付制度は、基本的には税務署への対応をするための制度です。しかし、書面をしっかりと記載することで、副次的な効果が期待できます。それは金融機関との交渉です。

金融機関とのやり取りは、以下のようなときに行われます。

・新しく融資を申し込むとき
・毎年の税務申告を終えたあとの報告

お金を借りるとき、借りたあと、どちらの時点でも金融機関に対して自社の情報を適切に提示することは、とても大切です。そして、金融機関の担当者は、経営者から聴取した情報を元に、自行に対する稟議書を作成します。

実はこの稟議書の作成、担当者にとってかなりの重荷なることが珍しくありません。特に会計上目立った動きがあるような場合、その原因をどうやって説明するのか頭を悩ませることが珍しくないのだとか。

そこで有効活用されるのが、書面添付制度です。

繰り返しになりますが、書面添付制度にまとめられているのは「どんな状況か」「どんな変化が起こっているのか」という、数字だけだと読み取りにくい情報です。ここらへんの情報についてきちんと記載することで、稟議書作成がとても楽になることがあるそうです。

稟議書が楽に書ける、ということはそれだけ融資が楽に受けられる可能性がある、ということを意味します。このメリットは想像以上に大きく、自社事業の可能性を大きく広げる可能性も秘めています。


経営者と税理士間の信頼構築も

そして忘れてはならないのは、納税者である経営者と税理士間での信頼構築です。書面の作成と確認を通じて両者間の認識を共有することで、より円滑に今後の事業を進めていくことができます。

つまり書面というひとつの制度を通じて「納税者(経営者)」「税務署」「金融機関」「税理士」という四者の間で、適切な情報共有と信頼関係を構築することができます。

残念ながら、書面添付制度は実施率がそれほど高くなく、その認知度もイマイチです。税理士とお付き合いをする場合には、ぜひ本制度の活用について前向きにご検討を頂きたいものです。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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