もしも経理をやることになったら…経理の仕事シリーズ① 仕訳業務
「明日から経理部へ異動」
このような人事異動があった場合、あなたはどういう反応を示すでしょうか?
「簿記の知識があるので、経理部に異動しても問題ない」とおっしゃる人もいるでしょう。
しかし、経理の知識が全くない方は、いきなり経理部と言われても困惑すると思います。
今回から「経理の仕事シリーズ」と題して、経理の経験がない方でも経理業務について理解できるように説明していきます。
第1回は「仕訳業務」について解説します。
1. 仕訳業務の意義
仕訳業務とは、日々の取引を簿記の知識を活用して帳簿に記録していくことを指します。
法人の場合、1年に1回決算書を作成しなければなりません。決算書を作成する目的は、「法人税などの税金を確定させるため」「社外の利害関係者に会社の経営状態を報告するため」の2つが挙げられます。
決算書を作成すると言っても、決算時期だけ資料を作成すれば良いのではありません。
法人の取引については、「お金」が絡めば全て仕訳の対象になり、年間の仕訳は膨大な数になります。よって年間の取引を決算期にまとめて仕訳することは不可能です。日々の仕訳を積み重ねて決算書が出来ています。このことからも、日々の仕訳業務を積み重ねることが重要であることが分かります。
2. 仕訳に必要な簿記知識
経理業務には簿記の知識が必要になります。ただし、考え方が分かればそれ程難しいものではありません。
ここでは、経理業務に必要な簿記知識について解説していきます。
(1)仕訳のルール
仕訳を行う際は、取引を2つの視点から捉えることが必要です。
例えば、「商品を現金10万円で仕入れた」という取引が発生した場合、どのような考え方をしたら良いのでしょうか?
「商品を現金10万円で仕入れた」という取引は、「資産である商品が10万円増加する」と「資産である現金が10万円減少する」という2つの取引に分けることが出来ます。
・「商品を現金10万円で仕入れた」場合
「商品を買掛金10万円で仕入れた」という取引は、「資産である商品が10万円増加する」と「負債である買掛金が10万円増加する」という2つの取引に分けられます。
「商品を買掛金10万円で仕入れた」という取引は、「資産である商品が10万円増加する」と「負債である買掛金が10万円増加する」という2つの取引に分けられます。
・「商品を買掛金10万円で仕入れた」場合
この取引は、商品10万円分を購入したことが「原因」で、現金10万円の減少、買掛金10万円の増加という「結果」になりました。
このように取引は「原因」と「結果」という2つの視点から考えることが出来ます。
これを取引の二面性と言います。
仕訳をする際には取引の二面性を意識することが大切です。
①「借方」と「貸方」
取引の二面性により仕訳する際に、「借方」「貸方」という言葉が出てきます。
仕訳をする際に、左側に書く項目を「借方」、右側に書く項目を「貸方」と言います。
そして仕訳をする際には勘定科目グループを覚えなければなりません。
図1:勘定科目グループ
仕訳は「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」の組み合わせになります。
それぞれの項目により「借方」「貸方」のどちらに記載するかルールがあります。
このルールは、先ほどの図1 勘定科目グループと深い関連があります。
図1において「資産」「費用」は左側に配置されています。それに対して「負債」「資本」「収益」は右側に配置されています。
これは各項目が増加した場合、「資産」「費用」は左側にある「借方」に記載すること、「負債」「資本」「収益」は右側にある「貸方」に記載することにリンクしています。
②勘定科目
勘定科目は仕訳を行う際に用いる取引項目です。
勘定科目は数多くあり全てを覚えることは困難です。ただし、日常業務の中で頻繁に用いられる勘定科目は覚える必要があります。
勘定科目は「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」のいずれかに分類されます。
代表的な勘定科目は次の通りです。
- ・資産:商品や建物など会社の財産や売掛金などの債権
- 「現金」「預金」「売掛金」「受取手形」「商品」「土地」「建物」「備品」など
- ・負債:会社が支払うべき債務
- 「支払手形」「買掛金」「未払金」「借入金」など
- ・資本:会社設立時の出資金と利益の蓄積
- 「資本金」「資本準備金」「利益準備金」「繰越利益剰余金」など
- ・収益:会社の収益に繋がるもの
- 「売上金」「受取利息」「受取手数料」「受取配当金」など
- ・費用:会社の費用にあたるもの
- 「仕入」「給与」「役員報酬」「接待交際費」「広告宣伝費」「水道光熱費」など
3. 仕訳の実例
ここからは実際のビジネスを例にして、仕訳を解説していきます。
まずは「売上が発生した際の仕訳」について考えていきます。
実際のビジネスにおける受発注の流れは下記のように進むことが一般的です。
- 見積書作成
- 発注書受領(注文を受ける)
- 商品出荷
- 商品引渡
- 商品検収
- 売上代金の回収
さて、「売上」はどの時点で計上すべきでしょうか?
実は「売上を計上するタイミング」は企業で選ぶことが出来ます。
主に利用されている売上計上基準は下記の通りです。
売上計上基準は一度決定した場合、合理的な理由がなければ頻繁に変えることは出来ません。これを継続適用と言います。売上計上基準を頻繁に変更した場合、利益調整が可能になるからです。
ここでは「出荷基準」を適用している企業を例に説明します。
(1)売上発生時の仕訳
・1月20日に200,000円分の商品を倉庫から出庫しT株式会社へ送付した
出荷基準を採用しており、商品を倉庫から出荷した日が売上計上日となります。
実際の実務では、出荷する際には「納品書」を商品と共に送付します。納品書の日付を売上計上日とする企業が多いです。
1月20日付にて商品を発送した時点で、
貸方に「売上 200,000円」、
借方に「売掛金200,000円」という仕訳をしました。
(2)売上代金回収時の仕訳
上記の例では、T株式会社に売掛金にて商品を販売しました。
売掛金で商品を販売したので、実際の現金はまだ入金されていません。
実際にT株式会社から売上代金が入金された場合の仕訳を考えていきましょう。
・T株式会社から売掛金200,000円分が銀行預金に入金された
取引の二面性に沿って考えていきます。
銀行預金に200,000万円が入金された→資産である「現金預金」が200,000円増えた。
売掛金200,000万円が入金された→資産である「売掛金」が200,000円減った。
「資産」の増加である「現金預金 200,000円」の仕訳は借方(左側)、「資産」の減少である「売掛金 200,000円」は貸方(右側)に記載します。
ここでは単純な「売上発生時の仕訳」について考えてみました。
実際のビジネスにおいては、膨大な売上取引が発生するために日々の仕訳をキチンと行う必要があります。また、売掛金についても通常1か月分の売上を纏めて、販売先に請求を出します。つまり、売掛金については「売掛金台帳」を記載することで、一社毎に売掛金を管理する必要があります。
4. 最後に
今回は仕訳の基本的なルールについて説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
仕訳については、実際の業務において慣れていくことが大切です。
会社の取引には一定のルールや方法があり、使用する勘定科目も会社毎に特徴が違います。仕訳作業を多くこなすことにより、仕訳のスピードも速くなります。
また、仕訳業務は手作業ではなく、会計ソフトに入力することが一般的です。会社が利用している会計ソフトの入力に慣れることも、仕訳のスピードを上げる重要な要素になります。
是非、この記事で基本的な仕訳のルールを学んで、実際の業務に生かしていただければ幸いです。