もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ③ 「月次決算」
初めて経理担当者になる方向けに経理の仕事を解説する、「経理の仕事シリーズ」。
第3回は、「月次決算」について説明していきます。
1.月次決算とは?
企業は法人税支払いのために、1年に1回決算書を作成します。これを年次決算といいます。それに対して、毎月決算を行うことを月次決算といいます。
ここでは、なぜ月次決算を行うべきなのか考えていきます。
(1)経営内容の早期把握
経営環境の変化が激しい昨今、タイムリーに経営内容を把握することが求められます。
1年に1回の決算書作成時に経営内容を把握するのでは、経営環境の変化に追いつくことができません。迅速な経営判断するためには、月次決算にて早期に経営内容を把握する必要があります。
(2)経営目標との乖離
企業は毎年経営目標を策定します。月次決算を行うことで、計画の進捗を毎月確認することができます。
計画の進捗を確認する際は、業績が良い場合、悪い場合共に原因を分析することが重要です。業績が悪い場合は原因を分析して、次月以降に改善する必要があります。また、業績が良い場合も原因を分析することにより、今後の経営に生かすことができます。
このように月次決算にて進捗管理を行うことで、計画達成の可能性を高めることができます。
(3)年次決算の負担軽減
1年に1回の決算作業は必ず行わなければなりません。決算書は決算日の翌日から2か月以内に作成することが原則ですが、決算期にまとめて作業を行うのでは膨大な労力がかかります。
月次決算を行うことで、日次業務で行った仕訳の誤りなどを早期にチェックすることにより、決算書作成の負担を軽減することができます。
2.月次決算の手順
ここからは月次決算の具体的な手順を説明していきます。
(1)現預金の残高確認
まずは帳簿上の現預金残高と実際の現金及び銀行通帳の預金残高が一致しているか確認しましょう。日々の仕訳が間違いなければ残高は一致するはずです。もし残高が合わない場合は、必ず原因を把握する必要があります。
原因については、①現金の数え間違い②仕訳の間違い(勘定科目の間違いや記載ミス)を再度確認してみましょう。
会計ソフトを使用している場合は、自動集計により現預金残高はすぐに分かります。
しかし、会計ソフトを使用していない場合は、現預金残高を手作業で集計する必要があります。その際には日々の仕訳から「総勘定元帳」「合計残高試算表」を作成していきます。
実際の仕分けから「総勘定元帳」「合計残高試算表」を作成してみましょう。
<仕訳>
① (単位:円)
借方 |
貸方 |
現金 100,000 |
売掛金 100,000 |
②
借方 |
貸方 |
現金 50,000 |
売掛金 50,000 |
③
借方 |
貸方 |
仕入 50,000 |
現金 50,000 |
<総勘定元帳>
①~③の仕訳から現金勘定をまとめていきます。
<残高試算表>
総勘定元帳から現金残高を集計します。
借方残高 |
勘定 |
貸方残高 |
100,000 |
現金 |
これにより現金残高が100,000円であることが分かりました。
このような流れにて、勘定科目の残高を集計していく必要があります。
(2)売上高の確定
次に日々の仕訳を集計して売上高を確定させます。
まずは請求書などを見直して、売上の計上漏れがないか確認します。月次決算では仕訳漏れがないか確認することも重要な目的になりますので、慎重に見直しを行います。
売上高が確定したら、売掛金がきちんと入金されているかについても確認します。せっかく売上を計上しても、実際の売上金が回収されないと意味がありません。
売掛金については、決済口座の通帳に「期日通りに入金されているか」「入金金額に間違いがないか」を確認します。売掛金が入金されていた場合は「売掛金の消し込み」をする必要があり、下記のような仕分けを行います。
<売掛金の消し込み>
①売上計上時
借方 |
貸方 |
売掛金 100,000 |
売上 100,000 |
②売掛金100,000円が普通預金に入金された
借方 |
貸方 |
普通預金 100,000 |
売掛金 100,000 |
②の仕訳によって「売掛金」が相殺されて消し込みされました。
売掛金の入金の際に振り込み手数料が差し引かれるケースもあることから注意しましょう。
借方 |
貸方 |
普通預金 99,450 振込手数料 550 |
売掛金 100,000 |
現預金の残高確認をした際に「預金残高」が合わない場合は、売掛金の消し込みがされていないことが原因になりますので注意しましょう。
(3)売上原価の確定
売上原価は、売り上げた商品に対して直接かかった費用のことを指します。
売上原価の算式
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高―期末商品棚卸高
決算期では実地棚卸といって商品数などを実際に数えますが、月次決算では実地棚卸ではなく帳簿上の棚卸高を参考に売上原価を算出していきます。
しかし、実際に出来上がった試算表を見ると、商品棚卸を考慮していない試算表が多いことも事実です。商品棚卸を毎月管理することが手間になることが主な原因ですが、商品棚卸を考慮しないと正確な利益を算出することができません。
正確な利益を把握するためにも、商品棚卸を考慮しなければなりません。
ここからは具体的な仕訳について見ていきましょう。
<売上原価算定の仕訳>
期首商品棚卸高 1,000,000円 期末商品棚卸高 1,500,000円
1 期首商品棚卸高を仕入に振り替え
借方 |
貸方 |
仕入 1,000,000 |
繰越商品 1,000,000 |
期首商品棚卸高は既に売上として計上されています。そのため売上原価(売上に対する費用)として計上する必要があります。そのため繰越商品から仕入勘定に振り替えています。
2 期末商品棚卸高を繰越商品に振り替え
借方 |
貸方 |
繰越商品 1,500,000 |
仕入 1,500,000 |
期末商品棚卸高は今期中には売上として計上されていません。そのため売上原価の計上から外す必要があります。そのため仕入勘定から繰越商品に振り替えています。
売上原価の公式と上記の仕訳を絡めて覚えておきましょう。
売上原価=
期首商品棚卸高(①の仕訳)+当期商品仕入高―期末商品棚卸高(②の仕訳)
(4)仮払金・仮受金の確認
仮払金・仮受金共に一時的に使用する勘定科目です。決算までには仮払金・仮受金を消し込みする必要があります。日次業務においては仮払金・仮受金の精算業務を行いますが、月次決算では処理が長期化していないか確認しましょう。
特に仮払金において長期間精算されていないものは、不祥事件に繋がりやすいことから十分に注意しましょう。
(5)経過勘定の計上
「通信料を3か月分まとめて後払いする」といった「未払費用」があった場合は、実際の経費の支払いは後払いになりますが、月次経費には1か月分を計上する必要があります。
経過勘定には「未払費用」以外にも、「前払費用」「未収収益」「前受収益」があり、それぞれのケースに合わせた仕訳を行います。
(6)月次配賦経費の計上
賞与などは年に2~3回程度支給される企業が多いと思います。
この場合、賞与が支給される月と支給されない月で経費のバラつきが大きくなります。
これでは月次での業績比較が難しくなってしまいます。
通常では年間の賞与予算を12分の1にして、毎月費用として計上します。これにより費用のバラつきを抑えることができ、月次での業績比較を行いやすくなります。
賞与、減価償却費、保険料などは「月次配賦経費」と呼ばれ、年間予算を12分の1にして毎月の経費に計上しますので注意しましょう。
(1)~(6)までの作業を行った後に、実際の月次試算表を作成します。
会計ソフトを導入していれば、自動的に月次試算表を作成してくれます。会計ソフトを導入していない場合は、手作業で集計する必要があります。
3.月次試算表の活用
月次試算表を作成しただけでは意味がありません。
必ず前月や前年同期と比較して業績推移を検証する必要があります。検証する際には、売上の推移は勿論のこと、収益状況や数値の上で異常値がないか確認しましょう。
前年と比べて異常に高い経費があった場合は、原因を分析しなければなりません。「材料費が高騰しているのか?」「経費の無駄遣いをしているか?」または「数値の入力が間違っている」可能性もありますので注意しましょう。
4.最後に
今回は月次試算表について説明しましたが、いかがだったでしょうか。
月次試算表を作成しただけでは意味がありません。
月次試算表を分析して、業績状況や経営計画との乖離などを速やかに把握して経営に活かすことが必要です。
また、月次試算表を十分に検証することにより年次決算の作業負担の軽減も図れますので、今後の業務に活用してはいかがでしょうか。