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もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ④ 年次決算

もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズ④ 年次決算

初めて経理を担当する方向けに経理の仕事を解説する「経理の仕事シリーズ」。

今回は、年次決算について解説していきます。


この記事の著者
  中小企業診断士 

1.年次決算とは?

年次決算とは、1年に1回決算書を作成することを言います。

年次決算の目的は次の2点です。

①税務申告のため

②利害関係者への発表・公表のため

「税務申告」ついては、決算日の翌日から原則2か月以内に法人税などの税金を納付しなければなりません。納付期限までに税金を納めなかった場合は、延滞税、加算税などのペナルティが課されます。したがって、経理担当者は納付期限を経過しないように計画的に年次決算を進めていかなければなりません。

「利害関係者への発表・公表」については、決算書を利害関係者に開示するケースがあるからです。利害関係者はステークホルダーとも呼ばれ、金融機関、株主、取引先などが該当します。銀行などの金融機関は、融資審査の際に決算書にて会社の業績を判断します。株主も決算書により会社の業績や成長性を判断して株式売買を行います。

このように決算書は「税務申告」や「利害関係者への発表・公表」に使われることから、虚偽の報告は絶対に許されません。これは粉飾決算と呼ばれ、罰則の対象になります。

また、粉飾決算をすれば会社の信用を失うことを、経理担当者は常に心に留めておかなければなりません。


2.年次決算のスケジュール

ここでは、3月決算の企業を例にして、年次決算のスケジュールを確認していきましょう。

<3月>

まずは、3月末での売上や利益の見込額を想定します。

経営計画との乖離状況を確認して、売上・利益が計画通りに達成できるのか検討します。予定よりも利益が出過ぎている場合は、節税対策などを検討する必要もあるでしょう。

また、決算日当日は実地棚卸や現金精査をしなければなりません。事前に人員の確保、役割分担、当日のスケジュールなどを決める必要があります。

<4月>

4月から本格的に年次決算業務が始まります。

年次決算においては、「経過勘定の設定」「引当金の計上」「有価証券の評価」など決算特有の業務もあります。年次決算業務の具体的な解説は次章で行いますが、業務量も多いことから計画的に業務を行う必要があります。

<5月>

3月決算の企業であれば、決算書は5月中に作成しなければならず、経理担当者としては最後の大詰めとなります。決算書作成後は法人税等の税金を支払います。納付期限を経過しないように注意しなければなりません。

このように決算期においては、通常の業務以外に決算特有の業務も加わります。

経理担当者にとって繁忙期になりますので、事前にスケジュールを立てて計画的に行動することが求められます。


3.年次決算作業

年次決算では具体的にどのような作業をしていくのでしょうか。また、年次決算特有の作業がありますので詳しく解説していきます。

(1)各項目の確定

経理担当者は日々の取引を仕訳しています。年次決算では1年間の仕訳を全て集計して決算書を作成します。売上や経費の計上漏れがあった場合、正確な決算にはなりません。

ただし、全ての仕訳を決算期間内に見直すには大変な労力がかかります。また、決算書は決算日の翌日から2か月以内に作成しなければならず、スピーディーな処理が求められます。

ここでポイントになるのは、「月次決算で仕訳の見直しを行う」ことです。

月次決算とは、日々の仕訳をまとめて月次で決算を行うことです。

月次決算時に「請求書などを見直し売上の計上漏れが無いか」「仕訳の間違いが無いか」などを確認することで、年次決算の負担を大幅に減らすことができます。

各項目の確定作業において「売掛金」「買掛金」の確定は非常に重要です。通常は取引先に残高確認書を送り、「売掛金」「買掛金」の残高に相違が無いか確認してもらいます。

もし残高に相違がある場合は、「締切日を相違している」「計上基準を相違している」「仕訳のミス」などの原因が考えられます。取引先とのトラブルを回避するために、売掛金、買掛金の残高確認を必ず行うようにしましょう。

(2)現預金の確認

会社の現預金残高と帳簿上の現預金残高は合致しなければなりません。

決算日当日は会社にある現金を実際に数えて集計し、帳簿上の現金残高と突合します。

また、前回の決算日以降に現金の不突合があった場合は、「現金過不足」勘定を用いて経理処理をしています。現金過不足については、決算日までに原因を追究しなければなりません。しかし、決算日時点で原因が分からなければ「雑収入」または「雑損失」勘定で仕訳処理をしなければなりません。

預金残高については、銀行などの金融機関から決算日の残高証明書を取得して、帳簿上の預金残高と突合します。

(3)実地棚卸

商品などの棚卸資産については、決算日当日に実際の棚卸資産が帳簿上の棚卸資産と相違が無いか確認を行います。これを「実地棚卸」と言います。実地棚卸は正確な売上原価を算出するために欠かせない作業です。

売上原価とは、実際に販売された売上に対して、仕入費用がどの程度かかったかを計る指標です。

売上原価は下記の式にて算出します。

売上原価=期首棚卸高+仕入高-期末棚卸高

実地棚卸を行うことにより正確な期末棚卸高を確定することができます。

もし帳簿上の商品残高と実際の商品数などが合わない場合は、原因を調査しなければなりません。調査の結果、原因が分からない場合は実際の商品残高に合わせる仕訳を行う必要があります。

(4)有価証券の評価

株式などの有価証券は価値が変動します。決算処理においては決算日当日の株価で改めて評価を行います。

ただし、有価証券だからといって全て時価評価するわけではありません。

有価証券の種類と評価方法については下記のようになります。

<有価証券の区分と評価方法>

有価証券の区分

評価方法

売買目的有価証券

期末時価にて評価。評価差額は当期の損益にて調整する。

満期保有目的債権

原則、取得価額にて評価。債券金額と取得原価との差額が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づき算定した価額を貸借対照表価額とする。

子会社・関連会社株式

取得原価を貸借対照表価額とする。

その他の有価証券

期末時価にて評価。評価差額はその他有価証券評価差額金として純資産に計上。

(5)引当金の計上

引当金とは、翌期以降において費用または損失の発生可能性が高い場合に計上される勘定科目です。

引当金には「評価性引当金」と「負債性引当金」の2つがあります。

評価性引当金の代表は貸倒引当金です。

貸倒引当金は、売掛金や売上手形などの債権を回収することが難しくなることを想定して、一定額を引き当てるものです。引当額は過去の貸倒れの実績率を債権総額にかけ合わせて設定します。評価性引当金は翌期以降の資産の減少に備えるためのものであり、資産のマイナス項目として表示されることが一般的です。

負債性引当金には、退職給与引当金、役員賞与引当金などがあります。負債性引当金は翌期以降の損失を見越して設定するものであり、負債として表示されます。

(6)経過勘定の設定

経過勘定は決算期を跨ぐ費用や収益が発生する場合に設定します。

3月決算の企業で考えてみましょう。

1月1日に6か月分の家賃600,000円(月額家賃100,000円)を前払いした場合はどのように考えたら良いでしょうか。

この場合、1月から3月までの3か月間の家賃300,000円は今期の決算に計上します。また4月から6月までの3か月分は来期の費用として翌期の決算に計上しなくてはなりません。

<前払費用の仕訳>

①1月1日に6か月分の家賃600,000円を現金で支払った

借方

貸方

地代家賃 600,000円

現金 600,000円

②決算時:決算以降の家賃300,000円を前払費用として翌期に繰り越す

借方

貸方

前払家賃 300,000円

地代家賃 300,000円

③翌期の期首

再振替仕訳と言って、決算時の仕訳と逆の仕訳を行います

借方

貸方

地代家賃 300,000円

前払家賃 300,000円

これで翌期の費用として地代家賃300,000円が計上されました。

以上は「前払費用」の例で「費用の繰り延べ」と言われます。

経過勘定には、前払費用以外にも「前受収益」「未払費用」「未収収益」があります。

前受収益:収益の繰り延べ
6か月分の家賃を前受した場合→決算以降の収益を来期決算に繰り延べる

未払費用:費用の見越し
6か月分の家賃を後払いする場合→実際の支払いは発生していないが、今期分の支払いを今期決算に計上する

未収収益:収益の見越し
6か月分の家賃を決算日以降にまとめて受け取る場合→実際に家賃を受け取っていないが、今期決算分の収益を計上する

上記の(1)~(6)の作業を行えば、主な年次決算における業務は終わります。

実際の決算書作成は会計事務所が行うことが一般的であり、会計事務所と連携を取りながら決算を作成していきます。


4.最後に

今回は年次決算の流れについて解説してきましたが、いかがだったでしょうか?

経理担当者にとって、年次決算は最も重要な仕事と言っても過言では無いでしょう。

この記事にて年次決算の流れをマスターしていただければ幸いです。

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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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