減損とは? 対象となる固定資産や計算方法・会計処理をわかりやすく
減損処理は、企業の正確な資産価値を把握するうえで重要な処理のひとつです。
本記事では、減損の概要や、対象となるもの、メリット・デメリット、実施する際の手順などをそれぞれ解説します。
減損処理をおこなう経理担当者や財務担当者はぜひ参考にしてください。
減損とは?
減損とは、固定資産の収益性が減ることにより、投資した金額が回収できなくなった状態を指します。また、固定資産が減損の状態に陥った際、その固定資産の帳簿価額を、回収可能な金額まで減らすことを、減損処理といいます。
減価償却との違い
減価償却とは、減損処理と同じく、固定資産の帳簿上の価値を減らす処理です。
減価償却では、固定資産の経年劣化を、帳簿上の価値に反映させるものです。減価償却の対象となる固定資産に対しては、毎年少しずつその価値を減らしていく処理が行われます。
減損処理と減価償却は、処理をおこなう原因とタイミングがそれぞれ異なります。減損処理は、対象となる固定資産の収益性が落ちることが原因となり、投資した金額の回収が見込めなくなったタイミングで実施します。
一方で減価償却は、経年劣化を原因とするため、毎年実施されます。
減損の対象となるもの・ならないもの
減損処理は、すべての固定資産に対して行われるものではありません。ここでは、減損処理の対象となる3種類の固定資産と、対象外となる固定資産についてそれぞれ解説します。
対象となる3種類の固定資産
減損処理の対象となる固定資産は以下の3種類です。
- 有形固定資産
- 無形固定資産
- 投資その他の資産
それぞれ見ていきましょう。
有形固定資産
有形固定資産とは、事業において長期的に使用する、形のある資産のことです。
有形固定資産には以下のようなものがあります。
- 土地
- 建物
- 機械装置
- 車両
- リース資産
- 建設仮勘定 など
無形固定資産
無形固定資産とは、事業において使用する、形のない資産のことです。
無形固定資産には以下のようなものがあります。
- ソフトウェア
- 知的財産権
- 借地権
- のれん(営業権)など
投資その他の資産
有形固定資産、無形固定資産のいずれにも該当しない資産は、投資その他の資産となります。
具体的には下記のものがあります。なお、減損会計の対象とならない資産は除いています。
- 長期前払費用
減損会計の対象外となる固定資産
以下に挙げる固定資産は、それぞれ別途の基準があり、そちらに従って会計処理をおこなうため、減損会計の対象外となります。
- 金融商品に関する会計基準における金融資産
- 税効果会計に係る会計基準における繰延税金資産
- 退職給付に係る会計基準における前払年金費用
- 研究開発費等に係る会計基準において無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウェア
- 長期前払利息など財務活動から生ずる損益に関する経過勘定項目
減損をおこなうメリット・デメリット
ここでは、減損処理をおこなう際のメリットとデメリットについて、それぞれ見ていきましょう。
減損処理のメリット
減損処理のメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
- 減価償却費が減らせる
- 財務諸表が正確になる
減価償却費が減らせる
減損処理を行った場合、一時的に多額な費用が計上されるものの、翌期以降に計上する予定であった減価償却費が減ることとなります。
このため、翌期以降に利益が出やすい構造になります。また、前年対比で損益計算書を見たときに、業績が回復している印象を持つことができます。
なお、日本の会計基準においては、一度計上した減損損失を収益力が回復したことにより戻し入れることは認められていません。
財務諸表が正確になる
減損処理は、固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を減額する処理です。
これにより、固定資産の資産価値がより正しく貸借対照表に反映されるようになります。
減損処理のデメリット
減損処理のデメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
- 多額の費用が計上される
- 企業の評価が下がるおそれがある
多額の費用が計上される
減損損失を計上することで、計上する費用が多額になる場合があります。また、減損損失を計上する場合は、営業活動から生ずる損益やキャッシュ・フローが継続してマイナスになっていることが原因であることが多く、繰延税金資産を計上している場合はその回収可能性にも疑義が生じることがあります。
繰延税金資産も併せて取崩しを行う必要がある場合は、減損損失と併せてかなり多額の費用が計上されることもあります。
企業の評価が下がるおそれがある
減損損失を計上する場合は、事業や投資が上手くいっていない結果と見なされるため、損失の計上額以上に企業の評価が下がり、上場会社では株価等に影響することがあります。
減損の会計処理の流れ
減損処理を実施する際の流れは、以下の4つのステップに分けることができます。
- 資産のグルーピング
- 減損の兆候の判定
- 減損の認識
- 減損の測定
ここでは、上記4ステップに加えて、減損の会計処理の計算例についても紹介していきます。
1.資産のグルーピング
複数の資産が一体となってキャッシュを生み出す場合は、減損会計を行うかの判定や計算を行うにあたっての資産を、どこまでまとめるか検討を行う必要があります。
これを資産のグルーピングといいます。資産のグルーピングは、他の資産または資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います。
2.減損の兆候の判定
資産グループに減損の兆候があるか判定します。減損の兆候とは、資産または資産グループに減損が生じている可能性を示す事象を意味します。
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針では、減損の兆候には例えば以下の事象があると示されています。
- 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっている
- 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある
- 経営環境が著しく悪化している
- 市場価格の著しく下落している
なお、上記はあくまでも例示に過ぎないとされており、その会社特有の減損の兆候がある資産または資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識します。
3.減損の認識
検討の結果、認識するための要件にあてはまらない場合は、兆候があったとしても減損損失の測定は行いません。
減損損失を認識することとなった場合、次のステップである測定の検討を行います。
4.減損の測定
減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失として計上します。
計算式で表すと以下のようになります。
減損損失=固定資産の帳簿価額ー回収可能価額
回収可能価額とは以下のいずれか高い方の金額をいいます。
- 正味売却価額
- 使用価値
なお、使用価値は将来キャッシュフローを現在価値に割り引くことで計算されます。
減損の会計処理
例えば、固定資産に対して1,000,000円の減損損失を認識する場合の会計処理は以下の通りとなります。
(減損損失)1,000,000/(固定資産)1,000,000
減損についてのまとめ
減損とは、固定資産の収益性が減ることで、投資した金額が回収できなくなった状態です。減損処理とは、減損の状態に陥った固定資産の帳簿における価値を、回収できる金額まで減らすことを指します。
減損処理は企業が保有する固定資産の大部分を対象とします。ただし別途の規定があるものについては対象外となります。
減損処理をおこなうことで、企業は減価償却費を減らし、財務諸表も正確なものにすることが可能です。
ただし減損処理の直後は大きな赤字を出しやすい傾向にあるため、企業の価値や信頼を落とすおそれもあります。減損処理を実施する際には、メリット・デメリットを理解したうえで慎重に進めましょう。
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