課税仕入れとは? 計算方法やインボイス制度による影響をわかりやすく解説
課税仕入れは、消費税を納税するうえで正しく理解しておくべき考え方です。消費税は、企業が顧客から預かり、仕入れや外注先に支払った税額を差し引いて納税します。その際に覚えておくべきことが「課税仕入れ」です。
本記事では、課税仕入れの定義や控除に関するルール、そして具体的な計算方法を詳しく解説します。
経理業務に関わる方にとって、消費税の適切な管理は不可欠です。ぜひこの記事を参考にして、納税業務をよりスムーズに進めてください。
課税仕入れとは
課税仕入れとは、「事業のための購入」のことで、商品や製品など棚卸資産の仕入れや、事業用の機械や建物の購入・賃借などが課税仕入れにあたります。
事業のための購入であれば、仕入先が個人事業主や消費者の場合でも、課税仕入れにあたります。
一方で、土地の購入費や賃借などの非課税取引、課税対象外の給与・賃金などは、課税仕入れに含まれません。
仕入税額控除におけるルール
ここでは、仕入税額控除におけるルールについて詳しく解説します。
- 適用取引
- 適用要件
それぞれ、わかりやすく解説します。
適用取引
消費税の仕入税額控除の要件は、「課税仕入れであること」です。そのため、仕入税額控除は、すべての課税仕入れに適用されます。
次のような出費は、課税仕入れにあたります。
- 商品や製品など棚卸資産の仕入れ
- 事業用の機械や建物の購入・賃借
- 車両や器具備品などの購入・賃借
- 原材料の購入
- 事務用品の購入
- 運送などのサービスの購入
- 広告宣伝費、厚生費、接待交際費などの支払い
- 通信費、水道光熱費などの支払い
- 修繕のための支払い
- 外部の業者や個人事業主への支払い
なお、インターネットを介した電子書籍や広告配信サービスなどの「電子通信利用役務の提供」は、国内外どちらから行った場合でも国内取引とみなされます。
よって、消費税の課税対象です。
適用要件
仕入税額控除の適用を受けるには、帳簿と請求書の保存が必要です。保存期間は、7年間と定められています。
帳簿を閉鎖した日もしくは、請求書を受領した日の属する課税期間末日の翌日から、2か月を経過した日が基準日です。
税込支払額が3万円未満の取引については、取引内容が記載された帳簿を保存するのみで問題ありません。
帳簿と請求書の記載項目は、それぞれ次の通りです。
記載項目 |
|
帳簿 |
|
請求書 |
|
出典:No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項|国税庁
課税仕入控除の計算方法
課税仕入控除額の計算方法は、条件によって次の4通りから選択できます。
- 全額控除
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
- 簡易課税制度
それぞれ解説します。
全額控除
課税仕入控除の対象となる取引は数多くあるため、厳密に行うと手間がかかります。
そのため、下記の条件を両方満たす場合は、課税売上にかかる消費税額から、仕入控除税額の全額を控除して計算することが認められています。
- 課税期間中の課税売上高が5億円以下
- 課税売上割合が95%以上
課税期間が1年未満の場合は、課税期間の課税売上高をその課税期間の月数で割り、年換算して判定します。全額控除の要件に満たない場合は、他いずれかの計算方法を選択しましょう。
個別対応方式
個別対応方式では、仕入にかかる消費税を下記の3つに区分して納付税額を計算します。
- ① 課税売上に対応する仕入れは全額控除する
- ② 非課税売上に対応する仕入れは控除しない
- ③ ①②に共通する仕入れは課税売上割合(課税期間中の総売上高のうち課税売上高の比率)を乗じた分を控除する
個別対応方式のメリットは、課税売上に対する貢献度が高い課税仕入れほど、控除できる額も大きくなることです。
一括比例配分方式
一括比例配分方式では、個別対応方式のような区分を行わず、すべての税額における課税売上割合が控除額になります。
例えば、課税仕入れにかかる消費税の合計額が100万円、課税売上割合が50%であれば、控除額は50万円です。
個別対応方式のように、仕入れを区分できない場合や、非課税売上が多い場合など、個別対応方式と比較して、一括比例配分方式のほうが有利だと判断した場合に選択できます。
ただし、一括比例配分方式を選択すると、少なくとも2年間は個別対応方式を選択できなくなるので注意が必要です。
簡易課税制度
簡易課税制度は、前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の企業が選択できる計算方法です。個人事業主の場合は、前々年度の課税売上高が基準になります。
簡易課税制度では、課税売上高に「みなし仕入率」を掛けて控除額を算出します。
みなし仕入率は、業種によって6種類に分かれています。
事業区分 |
みなし仕入率 |
業種 |
第1種事業 |
90% |
卸売業 |
第2種事業 |
80% |
小売業 |
第3種事業 |
70% |
農業・林業・漁業 |
第4種事業 |
60% |
飲食店など (第4種事業以外にあてはまらない業種) |
第5種事業 |
50% |
運輸通信業、金融・保険業 、サービス業 |
第6種事業 |
40% |
不動産業 |
簡易課税制度は、課税売上高の税額が分かれば計算できるのがメリットで、課税仕入れの区分や税額を考える必要がありません。
適用する場合は、課税期間の開始日前日までに、税務署への届出が必要です。
インボイス制度による課税仕入れへの影響
インボイス制度は、事業者が消費税の納税額を正確に計算するための制度です。適格請求書(インボイス)を用いることで、取引に係る消費税額を正しく把握することが可能になります。
令和元年の消費税率の引き上げに伴い、10%と8%の消費税率が混在しており、消費税額の集計がより複雑化していることも、インボイス制度導入の背景となっています。
インボイス制度が導入されると、消費税の計算における仕入税額控除の可否に影響します。具体的には、仕入税額控除を適用するために、適格請求書(インボイス)が必要です。
これまでは、仕入等に係る請求書を入手すれば、仕入税額控除が適用可能でした。しかし、今後は、適格請求書発行事業者として登録を受けた事業者が発行する適格請求書(インボイス)を入手する必要があります。
仮に、適格請求書発行事業者以外の事業者から入手した請求書に基づいて仕入等を行った場合は、仕入等に係る消費税について仕入税額控除を適用することができません。結果的に、自社が納付する消費税額が増加します。
このように、消費税の納税額に直接影響する可能性があるため、インボイス制度については十分に理解したうえでの対処が必要です。
【関連記事はこちら】
消費税の仕入税額控除とは? 要件や計算方法、インボイス制度との関係を解説課税仕入れについてのまとめ
課税仕入れは「事業のための購入」を指し、該当する支出が幅広いのが特徴です。
そのため、土地の購入費や賃借などの非課税取引、課税対象外の給与・賃金など、課税仕入れの「対象外のもの」を覚えておくとわかりやすいでしょう。
控除額の計算方法は、以下の4種類があります。
- 全額控除
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
- 簡易課税制度
全額控除が、最も有利な方法です。
令和5年10月1日から適用されるインボイス制度の影響についても、しっかりと理解したうえで業務を進めましょう。