資産除去債務の仕訳方法とは? 適用の背景や税務上の考えをわかりやすく解説
資産除去債務は、有形固定資産の取得に伴い生じ、将来の有形固定資産の除去に関する義務を指します。
有形固定資産の除去費用の合理的な見積りが可能な場合、あらかじめ負債として計上しなければなりません。
上場企業などで開示が要求され、投資情報としても重要です。
この記事では、資産除去債務の意味や適切な仕訳方法について解説します。
資産除去債務とは
資産除去債務とは、有形固定資産の取得や使用に伴い、売却や破棄などの除去に関して法律や契約で要求される資産の除去義務を指します。
簡単にいうと、あらかじめ有形固定資産の除去に必要な費用を把握しているのであれば、取得時に負債として計上する会計処理です。
適用される資産
資産除去債務は、具体的にどのような除去費用に適用されるのでしょうか。主な具体例は以下のとおりです。
- 賃貸契約が終了した時の原状回復費用
- 借りていた土地を更地に戻す撤去費用
- 建物などのアスベストの除去費用
導入された理由
「資産除去債務に関する会計基準」等が公表される前は、一部の事例(例えば、電力業界で原子力発電施設の解体費用につき発電実績に応じて解体引当金を計上するなど)を除いて、国際的な会計基準で見られるような、資産除去債務を負債として計上するとともに、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理は行われていませんでした。
しかし、有形固定資産のこのような除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることは投資情報として役立つため、資産除去債務の会計処理が導入されました。
導入により、上場企業等は「資産除去債務に関する会計基準」等に従った会計処理が求められることとなりました。
資産除去債務の仕訳方法
ここでは、資産除去債務の仕訳方法を紹介します。
A社は期首に賃貸物件である本社建物で間仕切り工事を行った。工事費用は3,000,000円であり、現状回復のための費用は500,000円と見積もっている。賃貸借契約の終了は10年後であり、割引率は3.0%とする。
▼仕訳方法
借方 |
貸方 |
建物 3,372,046 |
現金預金 3,000,000 資産除去債務 372,046 ※1 |
※1 500,000÷(1.03)10
期末決算において、時の経過による資産除去債務の増加を計上した。
▼仕訳方法
借方 |
貸方 |
利息費用 11,161 |
資産除去債務 11,161 ※2 |
※2 372,046×0.03
期末決算において、間仕切りと資産計上した除去費用の減価償却を計上した。
なお、耐用年数は15年とする。
▼仕訳方法
借方 |
貸方 |
減価償却費 224,803 ※3 |
減価償却累計額 224,803 |
※3 3,372,046÷15
資産除去債務の仕訳における税務上の考え方
ここでは、資産除去債務の仕訳における税務上の考え方について、損金・消費税のそれぞれで解説します。
損金
資産除去債務は会計上の見積りであり、債務未確定のため、税務上は損金とすることはできません。
したがって、資産除去債務の仕訳方法の「時の経過による資産除去債務の増加」及び「資産計上した除去費用の減価償却」については税務上加算調整が必要となります。
これに関連して、資産に計上される資産除去債務に対応する除去費用は将来加算一時差異に、負債に計上される資産除去債務は将来減算一時差異に該当するため、税効果会計の対象となります。
将来減算一時差異については、繰延税金資産の回収可能性の検討が必要となるため注意しましょう。
消費税
前述の通り、資産除去債務は会計上の見積りであるため、消費税の課税対象とはなりません。
そのため、会計ソフトへは有形固定資産は課税(土地であれば非課税)、資産除去債務は不課税として入力する必要があるため注意が必要です。
なお、資産除去債務は実際に撤去などを行った際に課税対象となります。
資産除去債務の仕訳方法についてまとめ
資産除去債務は、有形固定資産の取得時にあらかじめ把握している除去費用を負債として計上したものです。
そのため、合理的な見積りが可能な場合、法令や契約等の要求に基づく将来の除去費用を資産除去債務として計上する必要があります。
中小企業は免除されますが、上場企業は処理が必要です。算定時、期末処理、除去時にそれぞれ会計処理が必要なため、タイミングと仕訳方法を正しく理解しておきましょう。