元入金とは? 計算方法や仕訳例を解説
元入金は、個人事業主の会計で使用する勘定科目です。
確定申告時に賃借対照表への記載が必要です。また、利益や事業主が個人で使用した事業用資金の入出金など、計算するときに多くの要素から影響を受けます。
貸借対照表上で元入金の合計の不一致やマイナスがあると、計算の誤りを疑われる可能性があるので、正確な計算が欠かせません。
本記事では、元入金の基本的な概念や計算方法、仕訳方法などについて解説します。
元入金とは
元入金は、個人事業主の貸借対照表における純資産の勘定科目です。
開業資金や年ごとの損益に加え、事業主がプライベートで使用した事業用資金の入出金も踏まえて計上します。
個人資産で事業用の入出金を行う場合は、残った金額を元入金とします。
元入金が持つ性質は、以下のとおりです。
開業資金 |
開業時に使用した資金 |
年ごとの損益を計算した金額 |
年ごとの損益を来期の期首に繰越して元入金とする |
事業主勘定を含めた金額 |
事業主がプライベート口座から事業に使ったもの、事業用口座からプライベートに使ったものを計算する |
元入金の価値は、事業を辞めるときに事業主に戻る、または負担する価値を表します。
ただし、これはあくまで帳簿上の価額の参考にするものです。実際に事業を辞めるときに、資産を売却して負債を返済した後の残りの価値とは異なります。
事業用資産を売却した場合は、個人事業の場合、当該資産を個人用に振り替えた場合と同様の処理となりますが、税金計算には影響が出るリスクもありますので、注意が必要です。
元入金と資本金の違い
元入金は、法人でいう「資本金」にあたりますが、資本金とは処理方法や性質が異なります。
元入金と資本金の違いをまとめた表は、以下のとおりです。
元入金 |
資本金 |
|
金額の変動 |
毎年変動する |
基本的に固定され変動しない (増資や減資で変動する場合もある) |
当年損益の処理 |
当年損益が翌年に算入される |
当年損益は翌年に算入されない (利益剰余金として資本金と区別される) |
会計の仕組み
|
マイナスになる場合がある (決算時に事業主貸が事業主借より多い場合など) |
マイナスになることはない (1円以上) |
このように、元入金を資本金と比較すると、金額の変動や処理方法、仕組みが大きく異なります。
元入金の計算方法
2年目以降の元入金は、その年の利益と事業主借、事業主貸の額を使って計算します。
計算式は以下のとおりです。
元入金=前年の元入金+その年の純利益+その年の事業主借-その年の事業主貸
ここでは、事業主借と事業主貸について詳しく解説します。
事業主借
事業主借とは、事業用資金を事業主個人の資金から借りることを意味する勘定科目です。
例えば、文具やパソコンの購入、水道光熱費など、事業に必要な経費を事業用とは別の事業主個人の財布から出した場合などが該当します。
本業の「事業所得」とならない収入は、事業主借で処理すると覚えておきましょう。預金の利息である「利子所得」や、固定資産を売却したときの「譲渡所得」などは、事業主借として処理します。
事業主貸
事業主貸とは、事業用資金から事業主個人の使途に資金を貸すことを意味する勘定科目です。
例えば、事業用資金の口座から個人の生活費を引き出した場合が該当します。また、所得税や住民税は経費にならないため、事業主の個人的な支出とされます。
国民年金保険料や国民健康保険保険料も同様、個人に使用される支出のため、事業用資金から支払われた場合は事業主貸としての処理が必要です。
ただし、国民年金保険料や国民健康保険料は、確定申告で所得金額から控除できます。
元入金の仕訳処理
元入金は、以下の場合に仕訳処理を行う必要があります。
- 開業したとき
- 決算時
- 事業主貸が事業主借より多い時
仕訳例を使って一つずつ説明します。
開業したとき
開業資金として10万円を用意した場合の仕訳処理は以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
普通預金 |
100,000 |
元入金 |
100,000 |
開業時に資金を用意した場合、これを元入金として計上します。
元入金を現金で準備した場合の仕訳処理は以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
現金 |
100,000 |
元入金 |
100,000 |
また、開業時に社用車やパソコンなどの固定資産を購入した場合や、個人用の備品を事業用の資産とする場合も、その取得価額を元入金として計上します。
ただし、中古資産を取得する場合、取得価格が元入金とならない場合がありますので、注意が必要です。
<例>150万円の社用車を開業時に用意した場合
借方 |
貸方 |
||
車両運搬具 |
1,500,000 |
元入金 |
1,500,000 |
決算時
次に、決算時の仕訳処理は以下のとおりです。
<例>
- 年間の売上高:100万円
- 年間の経費 :20万円
- 事業主借:30万円
- 事業主貸:50万円
借方 |
貸方 |
||
利益 |
800,000 |
元入金 |
800,000 |
事業主借 |
300,000 |
元入金 |
300,000 |
元入金 |
500,000 |
事業主貸 |
500,000 |
元入金は開業時と期首にのみ使う勘定科目のため、基本的に決算時まで変動しません。
決算時に期中の事業主借や事業主貸を振替処理して、翌期首の元入金を算出します。
事業主貸が事業主借より多い時
事業主貸が事業主借より多い場合、差額分の元入金が減ることになるため、以下のとおり仕訳処理を行います。
<例>
- 事業主借:30万円
- 事業主貸:50万円
借方 |
貸方 |
||
事業主借 |
300,000 |
事業主貸 |
500,000 |
元入金 |
200,000 |
事業主貸が事業主借より20万円多いため、その分が元入金から減ります。
元入金を確定申告する際の注意点
元入金を確定申告する際の注意点は、以下のとおりです。
- 前期末残高と期首残高が一致しているか
- 元入金か事業主借で記入方法が違う
それぞれについて詳しく解説します。
前期末残高と期首残高が一致しているか
確定申告時に算出する前期末残高と、翌年の期首残高は、一致している必要があります。
中でも事業主借、事業主貸、元入金の残高には特に注意が必要です。
事業主借と事業主貸は相殺されるため、期首残高が0になっていることを確認しましょう。
また、元入金は決算時に算出した期末の元入金が翌期に振り替えられるため、期末残高と期首残高が一致している必要があります。
一致しない場合は、単純な仕訳ミスや、期末残高の確定前に翌期への振替処理を行った可能性が考えられるため、必ず確認しましょう。
元入金か事業主借で記入方法が違う
開業時の資金を「元入金」にするか「事業主借」にするかで、貸借対照表の記入方法が異なります。
開業時の資金を事業主借にすると、貸借対照表の期首部分に記入できません。元入金が前期末の事業主借を含むため、重複しないようになっていることが理由です。
一方、開業時の資金を元入金にすると、期首欄に開業資金の額を反映できます。
「賃借対照表の金額が合わない」と悩まないためには、この点を理解しておく必要があります。
元入金に関するまとめ
元入金は、開業時の資金から利益や事業主借、事業主貸の金額を期ごとに計算し、翌期に繰り越すため、年ごとに変動します。
正しく計算するためには、事業主借や事業主貸を忘れずに記録し、決算時に正確に仕訳処理を行う必要があります。
確定申告ソフトを使用すると、簿記や会計の知識がなくても正確な申告が可能です。
確定申告ソフトを使用しない場合は、利益や事業主借、事業主貸のそれぞれを丁寧に確認し、金額を確定させておきましょう。