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重要性の原則とは? 企業会計において重要な判断基準を紹介

重要性の原則とは? 企業会計において重要な判断基準を紹介

重要性の原則は、効率的な会計処理と財務諸表の明瞭性向上に貢献している概念です。企業会計原則注解に記載されたこの原則は、実務上大きな役割を果たしていますが、その適用には慎重な判断が求められます。

ここでは、重要性の原則の定義や適用例、基準などを紹介します。企業会計においては基本となる規定ですので、経理や会計を担当している方はぜひご覧ください。


この記事の監修者
ACLEAN会計事務所 代表  公認会計士・税理士 

重要性の原則とは

重要性の原則とは、重要性の乏しい項目に対して簡便な会計処理を認める原則です。

企業会計において、重要性の原則は、会計処理の効率化と財務諸表の明瞭性向上に寄与しています。この原則は、企業の会計実務に大きな影響を及ぼしています。

以下では、重要性の原則の定義や役割、適用された背景について解説します。この原則を正しく適用するためにも理解を深めておきましょう。

重要性の原則の定義

前述のとおり、重要性の原則とは、重要性の乏しい項目に対して簡便な会計処理を認める原則です。

例えば、金額が少額の取引や、企業の財政状態や経営成績に大きな影響を与えない項目について、簡略化された会計処理を行うことができます。これにより、経理担当者は重要性の高い業務により多くの時間を割くことができるため、全体的な会計業務の質の向上につながるのです。

ただし、重要性の判断は慎重に行う必要があり、単に金額の大小だけでなく、取引の性質や企業の状況も考慮しなければならないため注意しましょう。

企業会計原則における位置づけ

重要性の原則は、企業会計原則の注解に明記されている原則の一つです。この原則は、企業会計原則の一般原則の一部ではありませんが、その重要性ゆえに一般原則と同等の位置づけとされています。

企業会計原則とは、1949年に旧大蔵省(現金融庁)によって制定された企業会計の基本的な指針です。長年、企業会計を行う際の基盤とされている原則となっています。

重要性の原則は、この企業会計原則を補完する役割を担っており、企業に適切な情報開示を促しているのです。

重要性の原則が適用される背景

重要性の原則の適用目的は、会計処理の効率化と財務諸表の明瞭性向上です。

企業の会計処理には膨大な量の取引が含まれていて、すべての取引を厳密に処理すると煩雑になるだけでなく、労力もかかってしまいます。
そこで、重要性の低い項目を簡略化することで、効率化を進められるとともに、本当に重要な情報を明確にすることができるのです。

また、重要な情報が明確になることで、財務諸表の利用者は企業の財政状態や経営成績をより正確に理解することができるようになります。

重要性の原則を適用することによって、社内だけでなく社外にも良い影響を及ぼせるのです。


重要性の原則の具体的な適用例

重要性の原則は、企業会計を行う上で効率化につながる規定です。実務においてさまざまな場面で適用されていますが、どのような処理が認められるのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

ここでは、具体的な適用例を挙げて説明します。これらの例を通じて、重要性の原則がどのように会計実務に活かされているかを理解しましょう。

少額な消耗品や固定資産の処理

少額の消耗品や備品、固定資産は、重要性の原則に基づき一括償却資産として費用処理できます。例えば、20万円未満の少額減価償却資産を購入時に一括で経費計上することが認められています。

対象企業

取得価格

償却方法

すべての企業

10万円未満

全額損金算入

20万円未満

一括償却資産

3年で均等償却

中小企業

30万円未満

少額減価償却資産

全額損益算入(年間で300万円以内)

このような処理を行わない場合、消耗品や備品、固定資産についての管理が煩雑になり、実務効率が悪くなる可能性があります。

重要性の原則を適用すると、重要性の低い少額の項目を購入時に一括で費用処理できるため、減価償却計算や固定資産台帳の管理が簡素化されるのです。

経過勘定項目の処理

重要性の乏しい前払費用等も、経過勘定処理を省略することができます。例えば、少額の保険料や家賃の前払いについて、期間按分せずに支払時に全額費用処理することが可能です。

通常、前払費用は発生した期間に費用を配分するため、決算時に経過勘定処理を行います。しかし、金額が小さく影響が少ない場合は、この処理を行わない方が会計処理が分かりやすい場合があるのです。

重要性の原則の適用により、これらの少額の経過勘定項目を支払時に全額費用処理できるため、決算時の調整仕訳が減少します。これにより、決算業務の効率化を図ることができます。

引当金の計上

重要性の乏しい引当金についても、重要性の原則に基づき計上を省略できます。例えば、少額の賞与引当金や修繕引当金について、引当金を設定せずに発生時に費用処理することが可能です。

一般的に、将来の特定の費用や損失に備えて引当金を計上しますが、金額が小さい場合、この処理を行うことでかえって会計処理が複雑になる可能性があります。

重要性の原則を適用することで、これらの少額の引当金を計上せずに、発生時に費用処理できるため、引当金の計算や管理がしやすくなります。

棚卸資産の付随費用の処理

重要性の乏しい付随費用は、棚卸資産の取得原価に含めずに簡易処理をしても良いとされています。例えば、少額の運送費や保管料は棚卸資産の取得原価に含めず、発生時に経費処理することが可能です。

通常、棚卸資産の取得に関連する付随費用は取得原価に含めますが、金額が小さい場合、この処理を行うことでかえって原価計算が複雑化し、時間がかかる場合があります。

これらの少額の付随費用を発生時に経費処理できると、棚卸資産の原価計算をする際の効率向上が見込めます。


重要性の判断基準

重要性の原則を適用する際、何を基準に重要性を判断すればよいのでしょうか。企業会計原則注解には重要性の原則についての金額基準や判断基準は明記されていません。そのため利害関係者の意思決定を左右するほどに大きい影響力をもつか否かで判断する必要があります。

ここでは、重要性の判断基準や考慮すべきポイントについて詳しく見ていきます。実際に会計処理をする際にぜひ役立ててください。

金額的重要性の判断

金額的重要性の判断基準は、一般的に税引前当期純利益の5%未満を目安とします。ただし、この基準は絶対的なものではなく、企業の規模や業種によって柔軟に判断します。

金額的重要性の判断で考慮する点は、企業の財政状態や経営成績です。また、大企業と中小企業では同じ金額でも重要性の判断が異なる場合があります。

赤字の場合は税引前当期純利益を基準にすることができないため、総資産や売上高など、他の指標を用いて判断しましょう。重要なのは、企業の状況に応じて適切な判断基準を設定し、一貫性をもって適用することです。

質的重要性の判断

質的重要性は、取引の性質や企業の状況に基づいて判断されます。例えば、違法性のある取引や関連当事者との取引は、金額が小さくても重要性が高いと判断される場合があります。

質的重要性の判断で考慮する点は以下の通りです。

  1. 取引の性質(通常の営業活動か、特殊な取引か)
  2. 企業の事業内容との関連性
  3. 利害関係者の意思決定への影響
  4. 法令や規制との関係
  5. 将来的な影響の可能性

これらの要素を総合的に判断し、金額的には小さくても質的に重要と判断される場合は、重要性の原則を適用せずに厳密な会計処理を行いましょう。

業種や企業規模による判断の違い

重要性の判断基準は、企業の特性や規模によって異なります。例えば、製造業と小売業では在庫の重要性が異なるため、棚卸資産に関する重要性の判断基準も変わってきます。

<業種による違いの例>

  • 製造業:原材料や仕掛品の管理が重要
  • 小売業:商品在庫の管理が中心
  • サービス業:人件費や固定資産の管理が重要


<企業規模による違いの例>

  • 大企業:個々の取引金額が大きいため、重要性の基準値も高くなる
  • 中小企業:取引金額が比較的小さいため、重要性の基準値も低くなる

このように、重要性の判断基準は一律ではないため、各企業の状況や必要に応じて適切に設定しましょう。


重要性の原則の適用におけるリスクと注意点

重要性の原則は会計処理の効率化や財務諸表の明瞭性の向上などに寄与しますが、適用する際には注意が必要です。

ここでは、重要性の原則を適用する際のリスクや注意点について詳しく見ていきます。財務諸表は、社内だけでなく社外にも影響を及ぼす大切なものです。重要性の原則を適用する前に、以下のことに必ず留意しておきましょう。

過度な適用によるリスク

重要性の原則の過度な適用は、財務諸表の信頼性低下や利益の不正操作につながる恐れがあります。

例えば、多くの少額取引を意図的に重要性がないとして処理すると、全体として大きな影響を及ぼす恐れがあり危険です。また、重要性の判断が適切でない場合、監査において重要な虚偽表示を見逃すリスクが高まります。これにより財務諸表が歪んでしまう場合があり、結果として、投資家や債権者など利害関係者が誤った判断をする可能性が増大します。

これらのリスクを回避するために、重要性の原則の適用に際しては慎重な判断をし、定期的に判断基準の見直しを行いましょう。

適切な開示の重要性

重要性の原則を適用する際は、その会計方針を適切に開示することが重要です。

財務諸表の注記等で重要性の原則の適用方針を明確に示すことで、財務諸表の透明性と信頼性を高めることができます。また、前期から変更がある場合は、その理由と影響を詳細に説明するとよりわかりやすくなるでしょう。

このような適切な開示をすることにより、財務諸表の比較可能性が向上し、利害関係者がより正確に財務情報を理解し、適切な判断を下すことができるようになります。


重要性の原則と他の会計原則との関係性

重要性の原則は他の会計原則とも密接に関連しています。重要性の原則を適用するなかで、他の原則に矛盾していないか確認することが必要です。

ここでは、特に重要な関係性をもつ原則について詳しく見ていきます。適正な財務諸表の作成のために以下のことに注意しましょう。

正規の簿記の原則との調和

重要性の原則に基づく簡便な処理は、正規の簿記の原則に反しないとされています。しかし、簡便な処理を行う際も、取引の記録は正確かつ網羅的に行わなければなりません。

重要性の原則と正規の簿記の原則を調和させるためには、すべての取引を漏れなく記録し、簡便な処理を行う場合でもその根拠と方法を明確にすることが重要です。また、重要性の判断基準を明確に設定し、一貫して適用するとともに、定期的に簡便処理の妥当性を見直すことが求められます。

これらのポイントを押さえることで、正確性と効率性のバランスを取った会計処理が可能になるのです。

真実性の原則との整合性

重要性の原則の適用の際には、財務諸表の真実性を損なわないよう注意が必要です。

真実性の原則は、財務諸表が企業の財政状態と経営成績に関して、真実の報告を提供することを求めています。重要性の判断を誤ってしまった場合、財務諸表が企業の実態を適切に表示できず、真実性が保てなくなる恐れがあります。真実性の原則と重要性の原則を整合させるために、前述したような金額的重要性や質的重要性を考慮し、重要性の判断基準を慎重に設定して定期的に見直すことが重要です。

これらのポイントを意識することで、重要性の原則を適用しつつ、財務諸表の真実性を確保することができます。


重要性の原則の実務上の意義

重要性の原則は、会計処理の簡素化、効率化に貢献し、財務諸表の明瞭性向上などをもたらします。

ここでは、この原則を適用することによって得られる実務上のメリットについて詳しく見ていきます。会計に関わる仕事をしている方は、以下を参考にして実務に役立ててください。

経理業務の効率化

重要性の原則の適用は、経理業務の効率化を進めるのに効果的です。

例えば、少額固定資産の一括償却により減価償却計算や固定資産台帳の管理が簡素化されます。これにより、期末の決算整理仕訳の減少が見込めるのです。また、少額引当金の省略により引当金の計算や管理が容易になれば、債権債務管理を簡素化することが可能です。

これらの簡便処理が可能になれば、経理担当者はより重要性の高い業務に注力できるようになります。結果として、経理部門全体の生産性や企業の財務管理の質向上につながるでしょう。

財務諸表の明瞭性向上

重要性の原則の適用は、財務諸表の明瞭性を大きく向上させます。

重要性の原則を適用することによって、重要性の低い項目を集約、省略することができ、本当に重要な科目の表示、注記情報が明確になります。また、細かな情報が整理されることで企業の財政状態や経営成績の全体像が把握しやすくなるため、重要な情報に焦点を当てることができ他社との比較も容易になるでしょう。

これにより、財務諸表の有用性が高まり、企業と利害関係者とのコミュニケーションが円滑にできます。


重要性の原則を適切に理解して実務に活かそう

重要性の原則は、重要性の乏しい事項に関して簡易的な会計処理を認める規定です。この原則を実務に活かすことで、経理業務の効率化と財務諸表の明瞭性向上が期待できます。ただし、慎重な判断が必要であることを忘れてはいけません。過度な適用は財務諸表の信頼性を損なう恐れがあります。

この原則の本質を理解し適切に適用することで、より効果的な企業会計が実現できるのです。本記事で紹介した注意点を考慮しながら、実際の業務に取り入れてみてください。


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監修者プロフィール

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辻 哲弥

ACLEAN会計事務所 代表 公認会計士・税理士

1998年愛知県一宮市生まれ。2017年愛知県立一宮高等学校卒業後、2018年公認会計士試験受験。2019年有限責任監査法人トーマツに同年最年少の20歳で入社し、製造業・建設業・不動産業・銀行・運送業・製薬業・IT・官公庁等、幅広い業種で延べ20社以上の監査業務に従事。

2022年同法人を退社後、慶應義塾大学大学院法務研究科に入学。大学院で法律を勉強する傍ら、会計事務所にて税務を学ぶ。同年8月公認会計士登録(登録番号:42636)。同年9月税理士登録(登録番号:149486)、ACLEAN会計事務所設立、再生可能エネルギー電力会社のCFO就任。美ボディコンテスト優勝経験あり。

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