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中小企業のための経理財務 保険について

著者: 税理士  髙橋 昌也

中小企業のための経理財務 保険について

なかなか収束しないコロナ禍。その影響もあって、難しい舵取りを迫られている中小零細企業が多いです。

そんな中、対応について判断が分かれているものの一つに「保険」があります。

今回は保険の取り扱い方について確認していきます。


生活面と事業面

保険について考えるとき、まず2つの側面があることを前提とする必要があります。それは生活面と事業面です。

よく「自営業者は給与生活者より手厚い保障が必要」と言われます。自営業者は事業面でもリスクを背負っているからです。中小零細企業の経営者は「自分や家族に対する保障」と「会社を守るための保障」を同時に満たす必要があります。

その上で、生活と事業のリスクについては、ある程度分割して把握する方が賢明です。私生活での「結婚や出産」「親の介護」といったイベントと、事業での「設備投資に伴い借金をした」「新規雇用を進めた」というイベントが混在してしまうと、必要な保障の方法や規模について考えるのが難しくなります。

中々苦手な方も多いのですが、私生活と事業の分離は、保険を考える上でも大切な観点です。


事業上の保障に注目してみる

次に事業における保障の必要性について考えてみます。どんなときに保障の必要性が高まるのか?一番わかりやすいのは、やはり借金をしたときではないでしょうか?

借金というのは、設備投資であれ運転資金であれ、その本質は「時間を買っていること」である点は以前にも触れました。設備投資をするのにお金が貯まるまでの時間を短縮するために借金をする。事業の状況が好転するまで時間稼ぎをするため、借金をする。どちらにせよ、一定期間が経過するまでに成果を出し、借りたお金を返せるようになる必要があります。

しかし、ここで経営者に万が一の事態が起こると、当然ながら企業の利益獲得力は大きく減退します。中小零細企業において、企業の看板にはそれほど価値がないことがほとんどです。その信用力は、社長その人にかかっていることが大半だからです。

ですので、なにかしらの理由で借金をした場合、もし社長さんに万が一のことがあった場合には、その借金を返せる程度の保障は用意しておいた方が良いのではないか?これがもっともわかりやすい事業上の保険活用方法です。


リスクの種類

次に考えてみたいのは、リスクの種類です。こと人間に関わるものだと、リスクは大きく2つに大別されます。死亡リスクと生存リスクです。

死亡リスクはそのまま、誰かが死んでしまうことによるリスクです。中小零細企業において、社長が亡くなってしまうというのは最大のリスクです。ですので、この点については認識をしている方も多いですし、それを意識して社長さんには死亡保険をかけている企業も、それなりに多いのではないかと思います。

もうひとつ、最近注目が高まっているのが生存リスクです。死亡したわけではないけれど、普通に仕事ができる状態ではない。そういう状態に対しても、なにかしらの保障を用意した方が良いのではないか?という考え方が少しずつ広まっています。

これは保険会社の担当者から直接聴いた話ですが、やはり最近は、この生存リスクを気にして保険を選ぶ人が増えているようです。経営者の高齢化や医療の進展による長命化など、死亡以外のリスクをより意識させられるような話が増えていることも一因かと思います。

保険会社も、この流行を取りこぼすつもりはありません。ですので最近は、生存リスク(言い換えると就業不能リスク)を対象にした保険の販売を、かなりの勢いで進めています。その流れがまた経営者の生存リスク対策を後押しして・・・という循環がみてとれます。


生存リスク対策はそれなりに保険料が高い

ただ、生存リスク対策については、注意も必要です。それは保険料が高額になりやすいことです。

保険というのは統計学でできています。「年齢、属性(性別や喫煙の有無など)、職業、対応するリスクの種類」といった各要素を統計的に処理し、それで保障額と保険料が決まります。そして、大前提として「人間が死ぬよりも、病気や怪我の可能性はそれなりに高い」ということがあります。

したがって、死亡リスクと同じくらいの保障を生存リスクに求めると、必然的に保険料が高くなってしまうのです。「死んだわけではないけれど働けない」という状態は、ある意味で死んでしまうより怖いのでは?という気がしなくもありませんが・・・保険でそれをカバーするのは、それなりに大変だということです。

また死亡保障に比べて、生存リスク対策は保険事故判定が難しいことも注意が必要です。「人間が死んだか死んでいないか?」について悩む事例は、あまりありません。しかし、例えば医療保険ならば「このガンは今回の保険対象に含まれているのか否か?」といった点で疑問が生じる可能性が出てきます。

生存リスク対策はたしかに大切なのですが、あまり気にしすぎると際限がありません。ですので「どういう状態が怖いか?」について、ある程度割り切って絞り込む勇気も必要になってきます。


保障は保険だけで満たすものではない

死亡リスク、生存リスクともに、保険はたしかに有効な保障手段です。しかし、保険だけが保障の手段ではありません。もっとも有望なのは「人と仕組み」です。

極論を言えば、社長さんが不在になっても会社が問題なく回る状況を構築できているのであれば、社長さんに対する保障は不要ということです。もちろん、これは中々あることではありません(というか、もしそうなら、ちょっと寂しいですよね・・・)。ただし、これがある程度満たせているのであれば、仮に保険での保障がそれなりだとしても問題がありません。

企業活動の根幹にあるのは信用力です。その信用が保たれるような努力をきちんとしていることが、結果的に「必要な保障を減らす=コスト削減」にも繋がります。

逆にいうと、この点をしっかりと認識しないまま「景気が悪いから保険を削ろう」みたいな感覚で保障を減らしてしまうと、いざというときに本当の意味で洒落にならない事態になりかねません。実は経営状態が厳しいときほど、必要な保障というのは増えていることが多いからです。

厳しい経済状態が続く中、このあたりについてきちんと認識をしながら対応できている企業とそうでない企業で、大きな差が出てくる可能性は十分にあります。

また保険については、保障以外の性格も色々とあります。この点について、次回ご紹介したいと思います。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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