令和3年度規制緩和の内容と対応について
令和2年12月10日に政府与党から「令和3年度税制改正大綱」(以下、大綱)が発表され、12月21日に閣議決定されました。これにより、電子帳簿等保存制度(以下、保存制度)の見直しが行われ、電子帳簿保存法(以下、電帳法)が大幅に改正されることになりました。
すでに今年(令和3年)の3月末に大綱に基づき電帳法と電帳法施行規則が改正され、さらに電帳法施行令も新たに創設されました。例年のスケジュール感ですと、6月末か7月上旬に国税庁から取扱通達とQ&A(一問一答)が発表される予定ですが、発表されるまでは運用面を含めた詳細な要件は確定しません。執筆時点(5月末)では、あくまでも大綱の範囲を超える詳細な要件にまで言及することができませんので、予めご了承ください。
令和3年度税制改正の基本的な考え方について
今回、大幅な電帳法の改正が行われますが、その背景はやはり新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)の蔓延が大きな要因となっています。このことは、大綱の基本的な考え方のなかで
「今回の感染症では、わが国における行政サービスや民間分野のデジタル化の遅れなど、様々な課題が浮き彫りになった。(中略)わが国社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組みを強力に推進することとする。」
としており、感染症が引き金になったことが分かります。
また、保存制度の見直しの目的としては、
「経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続を抜本的に見直す。」
としています。生産性の向上やテレワークの推進は、従来から電子化の目的でしたが、「記帳水準の向上」はあまり聞きなれない目的だと思います。これについては後で少し触れますが、実は中小企業や小規模事業者の記帳水準が想像以上に低いことに起因していると聞いています。適正に記帳されていないことで、緊急事態宣言下における持続化給付金や家賃支援給付金等の申請手続きに手間取ってしまったり、申請できないという事態が起こったため、政府も問題視しているようです。
電子帳簿等保存制度の見直しについて
保存制度には、大きく分けて電子帳簿保存と電子書類保存、さらにスキャナ保存、電子取引の取引情報保存の4制度がありますが、今回は電子書類保存を省略して、3制度の改正について概要を解説します。また、今回の改正の施行日はいずれも令和4年1月1日になります。
(1)電子帳簿保存
承認制度の廃止や、優良な電子帳簿とその他の電子帳簿の2種類の電子帳簿保存が認められます。優良な電子帳簿においては、法人税等の保存義務が課せられる帳簿について、現行の要件(検索機能は見直し後の要件)を充足して届出書を提出することにより、その電子帳簿に関連して過少申告があった場合には、過少申告加算税の5%が軽減されます。その他の電子帳簿については、正規の簿記の原則に従うなど一定の要件を満たす場合には、電子データのまま保存することが可能となります。
また、優良な電子帳簿の要件を満たして対象帳簿の備付け及び保存を行い、届出書の提出がある場合は、所得税の青色申告特別控除(65万円)が適用できます。
(2)スキャナ保存
こちらも承認制度が廃止されます。さらに受領者が入力する場合の自署の廃止や、入力期限が最長約2ヶ月以内に統一され、訂正・削除履歴の残るクラウド等で保存する場合はタイムスタンプが不要になります。また、運用の難しさから導入を阻害していた適正事務処理要件が廃止され、入力後に書類の廃棄が可能になるほか、検索要件についても検索項目が取引年月日、取引金額、取引先名に限定され、税務当局のダウンロード要求に応じる場合は、範囲指定や組合せ検索も不要となります。
しかし、このように保存要件を大幅に緩和する一方で、保存する電子データに関して改ざん等の不正が把握されたときは、重加算税が10%加重されることになり、今回初めて明確な罰則規定が定められることになりました。
(3)電子取引の取引情報保存
タイムスタンプの付与期間が、現行の「授受後遅滞なく」からスキャナ保存と同様に「最長約2ヶ月以内」になり、検索要件については検索項目が取引年月日、取引金額、取引先名に限定され、税務当局のダウンロード要求に応じる場合は範囲指定や組合せ検索も不要となります。加えて、判定期間における売上高が1,000万円以下である事業者が税務当局のダウンロード要求に応じる場合は、全ての検索要件が不要になります。
一方で、現行では取引データを書面に出力して紙で保存することが認められていましたが、この出力書面については税法上の保存書類と認められないことになります。従って、施行日以降に電子取引を行った場合は、電帳法の要件に従って取引情報を電子データで保存する必要があります。さらに、スキャナ保存と同様に、電子データに関して改ざん等の不正が把握されたときは、重加算税が10%加重されることになります。
令和3年度電帳法改正の対応について
今回の改正は、要件を大幅に緩和することで民間企業のデジタル化の加速を後押しする一方で、保存する電子データに関連して改ざん等の不正が把握された際は、重加算税を10%加重するなど、納税者側に適正な形でのデータ保存が強く求められることになります。さらに、今後主流となることが想定される電子取引の取引情報については、書面に出力して保存することが認められなくなりますので、電帳法の要件に従って、当該取引情報を何らかの形で電子データとして正しく保存することが義務付けられることになります。
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(以下、JIIMA)では、利用者の予見可能性を向上させるという観点から、電帳法対応を謳う市販のソフトウェア製品が、電帳法の保存要件を満たしているかを公的な立場でチェックし、法的要件を満足していると判断したものを認証し公表する制度を行っています。このJIIMA認証制度については次回で詳しく解説しますが、JIIMA認証を取得したソフトウェア製品を使用することにより、利用者が安心して正しく保存制度を導入することが可能となります。
今後の検討課題について
今回の大綱では、附則として検討事項が記載されています。保存制度の見直しの関係では、
納税者の事務負担やコストにも配慮しつつ、記帳水準の向上、電子帳簿の信頼性の確保に向け優良な電子帳簿の普及を促進するための更なる措置、記帳義務の適正な履行を担保するためのデジタル社会にふさわしい諸制度のあり方やその工程等に付いて早期に検討を行い、結論を得る。
とされており、記帳水準の向上や優良な電子帳簿の普及促進に注力して行くことが見て取れます。今回の改正がその第1歩であり、今後デジタル社会に向けてさらなる制度の見直しが行われることが予想されます。