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資産管理における内部統制の進め方 資産管理における総務部門の役割 その3

資産管理における内部統制の進め方 資産管理における総務部門の役割 その3

この記事の著者
株式会社月刊総務 代表取締役社長   戦略総務研究所 所長 

設備投資の管理

2.設備投資の意思決定モデル

各設備投資案の優劣をどのように決定するかということです。

いくつかの設備投資案の中から採用するものを選択しなければなりませんが、これらを計数評価して順位付けできるようにするための意思決定モデルが必要となります。

よく用いられる意思決定モデルとしては、次のものが挙げられます。

  • 正味現在価値法
  • 内部利益率法
  • 収益性指数法

正味現在価値法は、設備投資によって生じる各年のキャッシュフローを資本コスト率で現在価値に割り引いた合計額から、設備投資に必要な現金支出額を差し引いて正味現在価値を算出し、これがプラスであれば採用し、マイナスであれば棄却するという手法です。

複数の設備投資案を比較する場合は、正味現在価値がプラスの値となる設備投資案のうち、正味現在価値が最も大きい案から順次採用することになります。

内部利益率法は、設備投資によって生じる各年のキャッシュフローの現在価値合計額が設備投資に必要な現金支出額と等しくなる割引率(内部利益率)を算出し、この内部利益率が最も大きくなる設備投資案を採用する手法です。

もちろん、資本コスト率を下回る内部利益率となった場合は棄却すべき案であるといえます。

収益性指数法は、分子を設備投資によって生じる各年のキャッシュフローを資本コスト率で現在価値に割り引いた合計額とし、分母を設備投資に必要な現金支出額として、算出される収益性指数が1.0を上回っていれば採用し、下回っていれば棄却するという手法です。

計算式から明らかな通り、三つの手法のいずれを利用しても、ある一つの設備投資案の採否という観点からは同じ結論が得られることになります。

ただし、限られた資本、投資予算のもとで、いくつかの設備投資案を選択して実施する場合には結論が異なります。利益金額を重視するか、利益率を重視するかという相違があるためです。

いうまでもなく、正味現在価値法は利益金額を基準とした評価法であり、内部利益率法および収益性指数法は利益率を基準としています。いかに利益率の高い設備投資案であっても投下資本の絶対額が小さければ企業全体の将来キャッシュフローに与えるインパクトは限定的です。

したがって、設備投資予算に制約がある場合、内部利益率や収益性指数の高い順から設備投資案を選択した場合に必ずしも利益金額が最大になるというわけではないのです。

3.設備投資案の将来キャッシュフロー予測

意思決定モデルにどのような数値をあてはめて計算するかという問題領域です。

いかに精緻な意思決定モデルを設けても、そこに入力する数値が適切でなければ正確な順位付けができません。

投資額の予測は比較的容易に行えますが、将来キャッシュフローを予測することは容易ではありません。条件設定次第でキャッシュフロー予測の数値も大きく変化するため、想定されるさまざまな要件を厳密に設定する必要があります。

この点からも、過去の固定資産の現物管理を担ってきた総務部門が現実的な固定資産活用の経済的効果について情報提供することの重要性が高いことは明らかです。

4.調達資本コスト

どのような設備投資も、調達資本コストを上回る利益を上げなければ失敗であるといえます。

単純に現金ベースでの収支がプラスになっていればよしとするのは誤りです。経理・財務部門以外の部署で誤って理解されているケースが多く見受けられます。

設備投資の意思決定モデルからも明らかなように、投下する資本でどれだけの利益を上げられるかという投下資本利益率が資本コスト率を上回っていなければなりません。資本コストの算定方法まで理解する必要はありませんが、このような考え方については理解しておくことが望ましいでしょう。

5.資本の配分

調達可能な、もしくは投下可能な資本の金額には限りがあります。

この制約条件の下、最大の投下資本利益率または利益額を上げることとなる設備投資案の組み合わせをいかに決定するかという問題です。これも設備投資の意思決定モデルで解説した通り、制約条件次第で結論が変わるものであり、検討にあたって留意が必要です。

6.リスク要因など定性的な問題

計数的に表すことのできないさまざまな要因を評価・検討する問題領域です。設備役資を実施する国、地域の選択など経理・財務部門以外の部署が有するさまざまな人的・情報ネットワークを活用して検討することができます。


経理・財務部門への情報提供

経理・財務部門が設備投資の意思決定モデルを適用するにあたって、総務部門からの情報提供が有意義であることは先に述べた通りですが、資産管理における総務部門の果たすべき役割はこれだけにとどまるものではありません。

資産の活用度合い、陳腐化などの定性情報を総務部門が吸い上げ、認識し、減損会計(資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めない状態となった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理)の基礎情報として経理部門に伝達し、正確な財務報告の実現に寄与したり、既存資産の有効活用を各部門に対して促すことも必要です。

また、買い替え、更新投資の意思決定に必要な情報をまとめることも総務部門が担うのが効果的であるといえます。

このように、内部統制という観点から業務の効率化を実現し、誤謬・不正を防止するとともに、経常意思決定や正確な財務報告に必要な情報を提供するという観点で、あらためて資産管理における総務部門の果たすべき役割について検討していただければと思います。

次回に続く

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

総務の最新動向について

総務の在り方、総務のプロとは

戦略総務の実現の仕方・考え方

総務のDXWithコロナのオフィス事情

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