電子帳簿保存法の罰則|対応しないとどうなる? 会計専門家が解説
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を一定の要件を満たした上で、電子データとして保存することを認めた法律です。法令順守の対応を怠ると、重大な罰則やリスクが生じる可能性があるため適切に対応しなければなりません。
この記事では電子帳簿保存法違反に伴って科される罰則や、違反するケースについて深く理解していきましょう。罰則以外のリスクや影響と対策に関しても知識を深め、会社全体で法令順守のための対応力を強めてください。
電子帳簿保存法違反の主な罰則
電子帳簿保存法に違反した場合に生じる、以下の主な罰則とその影響について詳しく解説します。
- 青色申告の承認取り消し
- 重加算税10%の追加課税
- 会社法違反による100万円以下の過料
罰則は企業にとって深刻な影響を及ぼすため、慎重に確認していきましょう。
青色申告の承認取り消し
電子帳簿保存法に違反すると罰則として青色申告の承認が取り消され、最大65万円の特別控除が受けられなくなります。また赤字の繰越控除や各種引当金の損金算入など、他の税制上の特典も失われることがあるため注意が必要です。
これにより、企業の税負担が大幅に増加するため、財務状況に深刻な影響を与えかねません。さらに、青色申告の承認取り消しは、税務署との信頼関係を損なうことにもつながり、将来の税務調査でのリスクを高める可能性もあります。
重加算税10%の追加課税
電子帳簿保存法に反する不正や改ざんが発覚した場合の罰則は、通常の追徴課税に加えて課される10%の重加算税です。この追加の10%重加算税は、既存の重加算税(最大35%)に上乗せされるため、最大で45%の重加算税が課されることもあります。
重課税によるコストだけでなく社会的信用の失墜も招くため、不正や改ざんは絶対に避けましょう。
会社法違反による100万円以下の過料
電子帳簿保存法に違反すると、会社法第976条にも抵触する可能性もあります。その場合に科される罰則は100万円以下の過料です。
具体的には、役員の選任など登記すべき事項の変更があったにもかかわらず登記を行っていなかった場合や、役員の任期が到来しているにもかかわらず改選の手続きを行っていないような場合に生じます。
この過料は、役員として任務を怠ったことに科されるものなので、役員個人の責任が問われる場合もあります。そのため、経営陣にとっても重大なリスクとなり得るのです。
電子帳簿保存法に違反するケース
電子帳簿保存法では、単に電子データを保存しているだけでは不十分なケースが存在します。
ここでは、以下の電子帳簿保存法に違反してしまうケースについてそれぞれ紹介します。
- 保存要件を満たしていない場合
- 検索要件を満たしていない場合
- 保存期限や保存期間の不備
これらのケースを理解することで、自社の対応状況を確認し、必要な改善策を講じることができるでしょう。
保存要件を満たしていない場合
電子帳簿保存法違反になるケースとしては、電子データの真実性(改ざん防止)が確保されていない保存方法を採用している場合です。具体的には、訂正・削除の履歴が残らないシステムでの保存などが該当します。
電子データの真実性を確保するために使われるのが、「タイムスタンプ」です。
タイムスタンプとは、特定の時刻に電子データが存在していたことや、改ざんされていないことを証明する機能です。また、訂正・削除の履歴を残すことで、データの変更経過を追跡可能にし、不正な操作を防ぐことができます。
これらの機能がない場合、税務調査の際にデータの信頼性を証明することが困難となり、違反とみなされる可能性が高いです。そのため、電子帳簿システムを選択する際は、これらの機能が装備されているかどうか、事前に確認しておきましょう。
検索要件を満たしていない場合
電子帳簿保存法では、取引年月日、取引金額、取引先で検索できないことで、法律要件を満たしていないと判断される可能性が高くなります。これらの項目で検索できないと、税務調査時に必要な情報を迅速に提供できず、調査官の業務を妨げることになるからです。
例えば、特定の取引先との取引履歴を確認したい場合や、特定期間の取引金額を集計したい場合に、迅速かつ正確な情報提供ができないことは、少なからず影響を及ぼすでしょう。
ただし、2024年1月の法改正で、以下のどれかに当てはまる場合は検索要件の対応が不要とされました。
- 売上高が5,000万円以下かつ、電子取引データのダウンロードの求めに応じることができること
- 電子取引データのダウンロードの求めに応じ、かつ電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしていること
- 以下の条件を満たしており、猶予措置が適用される場合
-税務調査の際に、電子取引データのダウンロード及び印刷した書面の提示・提出の求めに応じられる
-満たすべき要件にしたがって保存できなかった理由が、所轄税務署長に認められている(事前申請不要)
電子帳簿保存法の内容が改正されました(出典:国税庁)
保存期限や保存期間の不備
電子帳簿保存法では、法定保存期間(原則7年間)を満たさずに電子データを削除したり紛失したりすると、法律違反となる可能性があります。
例えば、システム更新の際に古いデータを誤って削除してしまったり、バックアップ体制が不十分でシステム障害によりデータが失われたりした場合も、違反となるかもしれません。このような事態を防ぐためには、定期的なデータのバックアップ体制を整えることが不可欠でしょう。
また、電子データへのアクセスが容易にできるかも重要なポイントです。古いデータが保存されていても、それを迅速に取り出せない状態では、実質的に保存要件を満たしていないとみなされる可能性があるからです。そのため、長期的なデータ保存と迅速なアクセスを両立できるシステムの導入や、定期的なデータ整理が必須となります。
電子帳簿保存法の罰則が適用される具体的な状況
電子帳簿保存法の罰則は法律の要件の適否だけでなく、具体的な違反行為や不適切な対応が確認された場合にも適用されます。
以下のように、罰則が適用される可能性が高い具体的な状況について詳しく解説します。
- 電子データの改ざんや不正が発覚した場合
- 税務調査で電子帳簿の提示を拒否した場合
- 電子取引データを紙のみで保存していた場合
これらの状況を理解することで、自社のリスクを的確に把握し、適切な対策を講じることができるでしょう。
電子データの改ざんや不正が発覚した場合
電子データの改ざんや不正が発覚した場合、重加算税や刑事罰が適用される可能性があります。具体的には電子帳簿の売上を過少にすることや、経費を水増しして入力する行為などが罰則対象です。
このような行為は記帳ミスではなく、意図的な脱税行為とみなされることがあるため注意しましょう。
税務調査で電子帳簿の提示を拒否した場合
法令に基づいて行われる税務調査において、正当な理由なく電子帳簿や電子書類の提示を拒否すると罰則の対象になります。具体的に挙げられる主な罰則は青色申告の承認取り消しです。
「システムの不具合で提示できない」「操作方法がわからない」などの理由は、通常、正当な理由とはみなされません。そのため、税務調査に備えて、日頃から適切なデータ管理と対応準備を行っておくことが重要です。
電子取引データを紙のみで保存していた場合
請求書をEDI(電子データ交換)やメールで受け取った場合、印刷した紙のみでの保存は電子帳簿保存法違反となります。電子取引の証憑は、原則として電子データのまま保存する必要があり、紙への出力保存は認められていないためです。
電子取引の証憑は原則として電子データのまま保存する必要があり、紙への出力保存は認められていないので注意しましょう。
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電子帳簿保存法の対象外となる書類・企業は? 重要ポイント解説電子帳簿保存法における罰則以外のリスクと影響
電子帳簿保存法に違反すると直接的な罰則だけでなく、企業にとって間接的なリスクや影響をもたらすこともあります。
罰則以外のリスクと影響にはどのようなものがあるか、詳しくみていきましょう。
税務調査の対象となる可能性の増大
電子帳簿保存法に違反すると税務調査の対象となる可能性が高まり、税務署の注意を引きやすいです。また、税務調査が頻繁に行われると、業務の中断や調査対応の負担増加につながり、企業の生産性に悪影響を及ぼすこともあります。
さらに一度税務調査の対象となると、その後も継続的な監視下に置かれます。このようなリスクを回避するためにも、電子帳簿保存法に従い適切な対応を行いましょう。
推計課税のリスク
税務署によって適切な電子帳簿がないと判断された場合、税務署の推計で課税額が決定されるリスクが高まります。推計課税は、実際の所得よりも高額になりがちで、企業にとって不利な課税となる可能性が高いです。
例えば、売上は最大限に見積もられる一方で、経費は最小限にしか認められないケースがよく見られます。この場合、実際の利益よりも多くの税金を支払わなければならないので注意しましょう。
企業の信用低下と取引への影響
電子帳簿保存法違反は法令遵守違反とみなされます。違反によって取引先からの信頼を失ってしまうため、取引機会の減少に起因することも多いです。
特に大企業との取引や公共事業への参加において、コンプライアンス違反は致命的な問題となり得ます。多くの大企業や公共機関は、取引先の選定において、法令遵守状況を重要な判断基準としているからです。信用の回復は非常に難しいので、違反を招くことのないように予め対処しておきましょう。
企業の経済的な損失
電子帳簿保存法違反による追徴課税や罰金は、企業にとって直接的な経済的損失です。重加算税や過料などの罰則的な支出は、企業の利益を圧迫する可能性があります。
追徴課税によって資金繰りが悪化してしまうと、新規投資や事業拡大の機会を逃すことにもなりかねません。経営的観点からも電子帳簿保存法の管理を怠らないようにしましょう。
電子帳簿保存法の罰則を受けないための対策
電子帳簿保存法の罰則やリスクを回避するためには、適切な対策を講じることが不可欠です。
ここからは、以下の企業が取るべき具体的な対策について、詳しく解説します。
- 電子帳簿保存法の要件を正確に理解する
- 社内のコンプライアンス体制を強化する
- 定期的な内部監査の実施
- システム導入と運用
これらの対策を適切に実施することで、法令遵守を確実にし、企業の健全な運営を支援することができるでしょう。
電子帳簿保存法の要件を正確に理解する
電子帳簿保存法の罰則を受けないためには、法律の要件を正確に理解することです。この法律は定期的に改正されるため、最新の法改正情報を確認し、自社の対応状況を継続的に見直す必要があります。
具体的には、税理士や公認会計士などの専門家に相談し、自社の状況に合わせた適切な対応方法を検討することが重要です。専門家の助言を受けることで、法律の解釈や具体的な対応方法について、より詳細かつ正確な情報を得ることができるでしょう。
社内のコンプライアンス体制を強化する
電子帳簿保存法に確実に対応するためには、社内のコンプライアンス体制を強化することが大切です。
具体的には、電子帳簿保存法対応の責任者を設置し、全社的な取り組みを推進することで法令遵守を徹底できます。また定期的な社内研修やマニュアルの整備を通じて、全従業員の電子帳簿保存法に対する理解と意識を高めることも重要です。
さらに、電子帳簿保存法対応の進捗状況を定期的に経営層に報告し、必要に応じて迅速な意思決定と対応ができる体制を整えていきましょう。
定期的な内部監査の実施
電子帳簿や電子書類の保存状況を定期的に内部で監査し、不備を早期に発見・修正することで罰則のリスクを低減することができます。内部監査の結果を基に、発見された不備に対しては改善計画を立てましょう。
そしてその実施状況を次回の監査でフォローアップするなどの対策を講じ、確実な法令遵守を実現することが有効的です。
システム導入と運用
電子帳簿保存法に対応した会計システムや文書管理システムを導入し、法令要件を満たす運用を行うことは法令遵守のための重要な施策です。システム選定の際は電子帳簿保存法の要件を満たしているか、自社の業務フローに適合しているか、将来的な拡張性があるか、サポート体制が充実しているかなどを考慮する必要があります。
システムの導入後も、定期的なアップデートや保守を行い、常に最新の法令要件に対応できる状態を維持しましょう。セキュリティと信頼性を確保するためのシステムの運用ルールを確立し、継続的に徹底してください。
電子帳簿保存法の罰則に関するよくある質問
電子帳簿保存法の罰則に関しては、様々な疑問や不安があるかもしれません。
ここでは、罰則についてのよくある質問について、詳しく解説していきます。これらの回答を理解することで、電子帳簿保存法への対応をスムーズに進めることができるでしょう。
小規模事業者も罰則の対象になる?
事業規模に関わらず、すべての事業者が電子帳簿保存法の対象です。そのため、小規模事業者でも違反時は罰則の対象になります。
個人事業主向けの電子帳簿保存法の対応については、以下の記事でも解説しているので参考にしてください。
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個人事業主のための電子帳簿保存法対応ガイド|押さえるべきポイントを解説罰則は即時に適用される?
多くの場合、電子帳簿保存法の罰則は即時に適用されるわけではありません。通常は、まず税務署からの是正指導が行われます。この指導に従い速やかに対応を行えば、罰則を回避できる可能性が高いです。
ただし、悪質な違反や繰り返しの違反の場合は、より厳しい対応がなされるため注意しましょう。
過去の違反も罰則の対象になる?
過去の一時的な違反は通常遡及適用されませんが、継続的な違反は罰則の対象となる可能性があります。そのため、過去の違反が発覚した場合は、速やかに是正措置を講じて税務署に相談することが望ましいです。
違反の内容によっては罰則を軽減できることもあるので、具体的な対応方法については専門家に相談しましょう。
電子帳簿保存法対応は企業の義務
電子帳簿保存法に違反してしまったときの罰則は主に青色申告の承認取り消しや重加算税の適用、会社法違反による過料などです。罰則を受けることによって、経済的コストの圧迫や、税務調査の頻度増加を招くことがあります。また、取引先からの信用が低下するリスクもあるでしょう。
それらの違反・罰則を避けるために、電子帳簿保存法に適切に対応することが重要です。会社全体でコンプライアンス体制やシステムを整え、理解を深めておくことでリスクを軽減することができます。不明瞭な点があれば専門的知識のある人に相談して、適切な対応を取るように取り組んでください。