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節税?保障?どちらを優先する? 中小企業のための保険と税金

著者: 税理士  髙橋 昌也

節税?保障?どちらを優先する? 中小企業のための保険と税金

前回、保険についてリスクの方向から検討していきました。死亡リスクと生存リスク、自分の状況に応じた保障の準備など、保険の活用には検討すべき事項がいくつもあります。その上で、考え方をもう一歩進めて、保険の使い方について考えてみます。



前提確認

本記事を読むに当たっての注意点です。本文中でも触れていますが、保険契約は税務上の取り扱いがしょっちゅう変わります。ですので、実際に保険加入をする際には「どこまでが経費になるのか?」「返戻金の取り扱いは?」という点について、保険会社に事前確認をすることを強くオススメします。


保険と節税

今回の記事で検討してみたいのは、ずばり節税です。この「保険と節税」という組み合わせは、相当以前からあります。すごく簡単に言えば「保険に入って経費を増やして税金を安くしよう!」というものです。

この手の話を聴いたことがある方も多いのではないかと思います。「社長さんとかお金持ちがやっている、なんか悪いこと」みたいな漠然としたイメージを持たれている方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。

この方法ですが、随分と以前から存在します。保険会社も「節税商品」という括りで保険商品を開発しており、それを前面に押し出して営業をかけていたりします。

保険の代理店や税理士(税理士が保険の代理店をしていることもよくあります)が、利益の出ている会社の社長さんに対して「このままだと税金が高いから、保険にでも入って節税しましょう」みたいな勧誘をすることも、割と珍しくない光景です。

以前は死亡保険を活用する手法が一般的でしたが、最近では医療保険なんかを使った手法が出てきました。保険商品の種類が多様化するに従って、節税保険も増えていったような状況です。


節税保険と課税庁の戦い

実は何かしらの売り込みをするとき、「税金」「節税」という言葉はとんでもない魔力を発揮します。ともかく税金というのは嫌われ者です。その結果「節税ができるものは良いものだ」と思ってもらうことが、非常に簡単なのです。ですので、上記の節税保険も、税金を払いたくない社長さんたちから絶大な支持を受け、相当な数の契約が締結されたと言われています。

ただ、その流れに対して待ったをかけているのが課税庁です。前回記事の復習になりますが、保険の本分は保障性です。しかし節税保険は、保障はどうでもよく(とまでは言わないまでも、二の次であることは事実)、節税という運用性を極端に求めるものです。保険という商品の中では、かなりいびつな存在と言えます。

近年、課税庁(国税庁)は保険を活用した節税について、かなり厳しく取り締まるようになってきました。簡単に言うと「こういう仕組みの保険に入っても、経費は増やせませんよ」というような改正をどんどん進めているのです。そしてその改正を受けて、また保険会社はあたらしい保険商品を開発して・・・という、まさにイタチごっこが続いています。

節税保険に入りたいと思ったときには、こういう改正によるリスクについても認識しておく必要があります。


節税というより、課税の繰延

もうひとつ、保険を使った「節税」とよく言われるのですが、実は正しい言葉遣いとは言えないかもしれません。というのも、ここで行われているのは節税ではなく「課税の繰延」だからです。

簡単に言えば、節税保険というのは「保険料を支払って経費の上乗せをする」ことにより、利益を減らして税負担を減らすというものです。そして一定期間が経過したところで解約をし、保険会社から返戻金を受け取ります。

ここで重要なのは返戻金の取り扱いです。「保険料を支払ったときに経費になる」ということは「返戻金を受け取ったときには売上になる」ということです。売上が増えるということは、利益が増えるわけですから、返戻金を受け取ったときには税負担が増えます。

つまり、節税(税金を安くする)ではなく、税金の負担を先送りにしているだけなのです。返戻金を受け取るときには、税負担が増えるのを受け入れるか、何か別の経費をつくるなりしなければいけません。

節税保険の中には、返戻金に対する課税についても対処しているものがあったりします。ただし、当然別のリスクが存在していますし、前述の通り税制改正によって取り扱いが大きく変わる可能性もあります。


節税保険を使いこなすのは難しい

節税商品を上手に使いこなすためには様々な点に配慮する必要があります。

  • 短期間で解約をしてしまうと返戻金が思ったより少なくなり、大損に
  • 支払う金額が少ないと節税効果はないので、保険料が高額に
  • 税制改正の影響を常に注視する必要がある
  • 返戻金を受け取るときに、何か対処方法(退職金など)を講じないと税負担が増える

そして何よりも重要なのは次の点です。

  • 節税保険を使うと、手元資金は減少することを自覚する

保険料を1,000万円払ったところで、安くなる税金はせいぜい3~400万円がいいところです。つまり、差引で6~700万円くらいの手元資金が減少します。この点を見過ごし「税金が安くなるのは良いことだ」という考えだけで節税保険を使うと、ほんとうに痛い目をみます。

潤沢な手元資金があり、中長期に渡って安定した事業経営をできることが見込まれる。そういう企業でなければ節税保険をうまく使いこなすことはできません。下手をすると「税金は下げられたけど、保険会社を儲けさせただけ」なんてことにもなりかねません。


まずは保障をきちんと

このように、保険を使って「節税」を試みるのは、それなりに大変です。そして、繰り返しになりますが、保険の本分は運用ではなく保障性です。

保険という商品自体は、事業経営をしていく上ではとても大切なものです。万が一のときに顧客や社員、取引先、金融機関に迷惑をかけないためにも、保険を使って適切な保障を準備することは、安定した事業経営をする上で欠かすことができません。

必要な保障を用意するために保険加入し、結果として経費が増え節税につながった。これであれば何も悪いことは起こっていません。保険はともかく「保障性」から検討していく。これが基礎にして奥義なのではないかと思います。

税理士としての個人的経験としても、お客様に「掛け捨ての安い保険に入って、保障をしっかり確保しましょう」ということは推奨しますが、いわゆる節税保険については、オススメすることはほとんどありません。

小さな仕事というのは、一年先の状況すら見通せないことがほとんどです。節税保険で手元資金を減らすくらいなら、素直に税金を負担して、手元資金をしっかり残しておく方が良いのでは?と考えています。

ただし、このあたりは税理士、そして社長さんによっても考え方が大きく変わります。本記事についても、あくまでひとつの参考意見と捉えて頂き、自分なりの保険活用方法を検討して頂ければ幸いです。

保険活用は、他にもご紹介したい点があるので、それはまた次回に。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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