少額減価償却資産とは? 特例の内容・対象・注意点を押さえよう!
固定資産には、少額減価償却資産や一括償却資産などの種類があります。企業や資産によっては特例が適用されるケースがありますので、具体的な違いや内容を把握しなければなりません。
この記事では、中小企業の経営層や財務の責任者に向けて、少額減価償却資産の概要や特例の内容や、仕訳例を解説します。
また、この記事の後半部分では、少額減価償却資産の注意点をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
少額減価償却資産とは
少額減価償却資産は、中小企業者などが取得した固定資産のうち、取得価額10万円以上で30万円未満のものです。一括償却資産や10万円未満の資産との違いを見ていきましょう。
一括償却資産との違い
一括償却資産は工場で活用する機器を除き、オフィスの備品などの償却資産で、価格が20万円未満のものに適用できる制度です。通常の償却資産は、購入月によって償却額が月単位で計算されます。
しかし、一括償却資産はいつ購入したかに関わらず、全期間の3分の1の償却費を1年間で計上します。これを法人税法で「一括償却資産の損金計上」といいます。
10万円未満の資産との違い
10万円未満の資産もしくは、使用できる期間が1年未満の減価償却資産は、一括で経費として計上できます。使用する勘定科目は消耗品などで、事業の大小を問わず全企業が対象です。
少額減価償却資産の特例とは?
中小企業の少額減価償却資産の特例は、事業で使われる取得価格が30万円以下の減価償却資産において、税法上一定金額まで全額を損金で計上できることです。青色申告者で一事業年度あたり、300万円の制限があります。
なお、正式名称は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」です。適用要件や必要な手続きを見ていきましょう。
(出典:経済産業省 少額減価償却資産の特例)
適用要件
中小企業の少額減価償却資産の特例が適用される、企業や資産をまとめました。
適用対象資産に特段の制限はありませんので、金額要件を満たせばすべての資産が対象となります。有形固定資産だけでなく、無形固定資産も含まれます。
適用対象法人
中小企業の少額減価償却資産の特例が適用可能な中小企業をまとめました。
- 青色申告法人
- 常時使用する従業員数が500人以下
- 資本金が1億円以下
- 適用除外事業者ではないこと
適用除外事業者は、過去3年間の事業年度において、所得金額の年平均額が15億円を上回る法人のことです。なお、次の2点に当てはまる中小企業は、適用条件を満たしていても、対象外になります。
- 大規模法人が発行済株式数の2分の1以上を保有
- 複数の大規模法人が発行済株式数の3分の2以上を保有
次の3点のうちいずれかに当てはまるのが大規模法人です。
- 資本金が1億円超
- 資本もしくは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員が1,000人超
- 大法人(資本金5億円以上の法人)との間に完全支配関係がある
(出典:国税庁 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却の対象となる中小企業者の範囲)
(出典:国税庁 措置法上の中小法人及び中小企業者)
適用対象資産
少額減価償却資産の特例は、取得価格が30万円以下(未満が正)の資産が対象で、次のような物が含まれます。
- 機械や器具、備品などの有形資産
- ソフトウェアや特許権などの無形資産
- 有権移転以外のリース取引による資産
- 中古の資産
ただし、貸し出し目的で利用される資産は、主要事業として運用されない限り、適用対象外です。また、特定の事業年度において、少額減価償却資産の取得価格の総額が300万円を超えた場合、損金算入が可能な金額はその総額のうち最大300万円までです。
適用するための手続き
対象となる事業年度の取得価格相当額を経費で計上しない場合、少額減価償却資産の特例は適用できません。
例えば、プリンターを3万円で購入した年度に、一括で経費として計上する場合は、少額減価償却資産の特例を適用できます。
一方、プリンター代を数年かけて経費計上する通常の減価償却を選ぶなら、この特例は適用できません。
また、確定申告時には「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例に関する明細書」を提出しなければなりません。
少額減価償却資産の特例の事例と仕訳
少額減価償却資産の特例の事例と仕訳方法を解説します。
1.現金で支払った場合
中小企業または青色申告の個人事業主が購入した、30万円未満以下の資産は最初に固定資産に、後に減価償却費で全額経費化できます。
固定資産に計上せずに、消耗品費に直接計上することもありますが、固定資産の記録は必要です。
なお、このケースでは、固定資産の償却方法は「即時償却」です。23万円のノートパソコンを現金で支払った場合の仕訳方法は次の通りです。
借方勘定科目 |
借方金額 |
貸方勘定科目 |
貸方金額 |
摘要 |
---|---|---|---|---|
工具器具備品 |
230,000円 |
現金 |
230,000円 |
ノートパソコン |
2.即時償却で計上する場合
23万円のノートパソコンを即時償却で計上する場合の仕訳方法を見ていきましょう。
借方勘定科目 |
借方金額 |
貸方勘定科目 |
貸方金額 |
摘要 |
---|---|---|---|---|
減価償却費 |
230,000円 |
工具器具備品 |
230,000円 |
減価償却費の計上 |
少額減価償却資産の特例に関する注意点
少額減価償却資産の特例にまつわる注意点をまとめました。ぜひ参考にしてください。
経理方式によって金額が異なる
少額減価償却資産の特例で参照する取得価額は、税込経理方式と税抜経理方式で異なります。
- 税込経理方式:税込み価格
- 税抜経理方式:税抜き価格
例えば、税抜きで28万円(税込み30万8,000円)の資産は、税抜経理方式で特例を適用できます。しかし、税込経理方式だと取得価額が30万円を超えるため、特例を適用できません。
消費税の経理方法は、納税者の判断で変更できますので、有利な方式に変更するのも可能です。
上限金額に気をつける
資産の取得価額によっては、少額減価償却資産の特例の上限である300万円全額を使えない可能性があります。
総額で300万円までは利用できますので、300万円を超える場合は、自身で選んで、利用する資産と利用しない資産を明確に区分する必要があります。
特別償却との重複適用はできない
中小企業等の少額減価償却資産の特例は、次のような租税特別措置法上の特例と併用できません。
- 特別償却
- 税額控除
- 圧縮記帳
まず、特別償却は通常の減価償却費に加えて、特定の条件を満たす資産の取得価額の一部を追加で償却する制度です。中小企業が特定の機械類を一定額以上取得した際、取得価額の30%を特別に償却できます。
次に、税額控除は法人税額から一定の税額を差し引ける制度で、中小企業が一定の額以上の機械類を取得した場合、取得価額の合計の7%を法人税から控除できます。
税額控除は、一括損金や即別償却と比較して節税効果は少ないものの、長期で見た場合有利になるケースがあります。一括損金計上や即別償却は、将来計上できる経費のまえどりに過ぎませんが、税額控除の場合、別枠で税金が減額されるケースが多く、全体を見て得になる場合が少なくありません。
さらに、圧縮記帳は、補助金などを使って固定資産を取得した場合、資産取得価額と補助金の収益を相殺し、資産の簿価を下げることで税負担を軽減する制度です。
少額減価償却資産についてのまとめ
中小企業者が取得した減価償却資産のうち、取得価額30万円未満のものは、少額減価償却資産の特例を適用できます。
この特例を上手に活用すると、法人税などの負担軽減を期待できるかもしれません。本記事を参考にしながら、ぜひ、少額減価償却資産の特例の理解を深めてください。
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