インボイス制度導入に向けた特例
インボイス制度について、過去2回ほど紹介をしました(「消費税のインボイス制度」「インボイス制度を巡る対応」)。
消費税用の登録番号が記載された請求書や領収書がなければ、仕入税額控除(消費税計算における経費のようなもの)が認められなくなる、という制度です。
基礎的な部分については以前の記事をご参照頂くとして、今回はその特例についてお話をします。
免税事業者等からの課税仕入に係る経過措置
これまで、誰から仕入をしたとしても、それが消費税の課税取引であれば、仕入税額控除が認められてきました。しかし、インボイス制度導入後には、消費税の登録番号をもつ課税事業者からの仕入のみ、仕入税額控除が認められるように変わります。
この変更ですが、業種によっては大変大きな影響が予想されます。例えば以下のような業種です。
【出版業】
フリーランスのライターへ記事を依頼している場合、ライターの多くは免税事業者
【イベント業】
スタッフの多くは外注であることが多く、その大半は免税事業者
【スポーツや芸能】
ほとんどが外注としての取り扱いで、小規模な事業者(つまり免税事業者)が大半
【物流業】
ドライバーは外注形式である会社も多く、ほぼ全員が免税事業者
その他、建設の一人親方や理美容院など、雇用ではなく外注の形で事業を行っている業種は様々です。そのすべての業種について、インボイス制度導入と同時に、免税事業者に対する経費の支払いが仕入税額控除の対象から外れます。
あまりにも影響が大きいため、期間限定での経過措置が取られることになっています。所定の事項を記載し、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存していると、以下の割合で仕入税額控除を受けることができます。
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで:仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで:仕入税額相当額の50%
国としては、6年の経過措置期間を用意することで影響を緩和しながら、緩やかに選択を迫る意向のようです。
仕入側の選択)
免税事業者との取引について、継続をするのか取引を打ち切るのか。
継続をするのだとしたら、税負担が増加する分をどのように吸収してくのか。
売上側の選択)
引き続き免税事業者を選択する場合、取引先から消費税分の値下げや取引停止を提示される可能性がある。
消費税の課税事業者となることも検討するべきか。
今後数年間かけて、免税事業者を巡る事業環境が激変することが予想されます。また、一部では「この経過措置は使わない」と公言している企業も出ています。経過措置適用には取引業者の分類が必須のため、そんな手間はかけられない、と判断したのでしょう。これが何を意味するかと言えば「課税事業者以外は相手にしない」と言っている、ということです。
免税事業者の登録手続
インボイス制度とは別の話として。実は消費税には、自ら課税事業者を選択することができる制度があります。
この届出書を提出することで、本来は免税である事業者(例:「年間売上高が毎年1,000万円に届かない」「開業したばかりの事業者」等々)も消費税の課税事業者となります。なぜこのような制度があるかと言うと、場合によっては、消費税の課税事業者を選択した方が有利になることがあるためです。
大規模な設備投資等を行うと、売上時に預かった消費税より、仕入税額控除の金額が上回ることがあります。その場合、消費税の申告をすることで、超過額の還付を受けることができます。たまにそういった条件に合致する事業者もいるため、あえて消費税の納税義務者を選ぶことができるようになっています。
事業者を選択しようとする場合、原則的には「課税事業者になろうとする事業年度初日の前日」までに提出しなければなりません。例えば個人事業主であれば、課税事業者になりたい年の前年12月31日までに提出する必要があります。新規開業時には例外もあるので、提出を検討するときには提出期限を確認するようにしましょう。
この届出書を提出することにより、課税事業者を選択することができます。例えば令和3年12月31日までに課税事業者選択届出書を税務署に提出すれば、令和4年1月1日~12月31日は課税事業者となり、申告と納税が必要となります。
課税事業者の選択をやめようとする場合には、またそのための手続きがあります。提出できない期限など細かいルールが色々とありますが、今回はそのあたりの説明は省略させて頂きます。
この「課税事業者の選択」という仕組みについて、今回のインボイス制度では特例が設けられています。上述の通り、基本的に「課税事業者の選択」は通年で行うものです。その点について、次のような経過措置が設けられています。
※大前提として、インボイス制度は令和5年10月1日に始まります。そして消費税の登録番号を取得できるのは、消費税の課税事業者に限定されています。
●登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の場合(経過措置適用を希望)
例:免税事業者である個人事業主が、令和5年10月1日から登録番号を取得したい
この場合、令和5年3月31日までにインボイス制度に関する登録申請書を提出することで、令和5年10月1日から消費税の課税事業者となり、登録番号が記載された請求書等を発行できるようになります。
個人事業主の事業年度は1月1日~12月31日に固定されています。つまり、この経過措置の適用を受けた年に限って、
1月1日~9月30日:免税事業者
10月1日~12月31日:課税事業者
このような変則的な形で消費税の課税事業者となります。当然、10月~12月は課税事業者ですので、消費税の確定申告が必要です。そしてこの手続をする場合、上述の「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要とされています。
上記の個人事業主が、令和6年1月1日以降に登録を希望する場合には、少し話が変わってきます。この場合、
・「消費税課税事業者選択届出書」を提出
・その上で令和5年11月30日までにインボイス制度の登録申請書を提出
このように、本来の「課税事業者選択時の手続き」と似たような手続きが必要です。
遅くとも令和4年中に決断を
免税事業者が令和5年10月1日からの登録を希望する場合、上述の通り令和5年3月31日までには「課税事業者になるか否か」の決断をしなければいけません(提出が困難な事情がある場合には令和5年9月30日までの提出も認められてはいます)。つまり、もうそれほどのんびりと検討している時間はありません。
そして、登録申請の受付は令和3年10月1日から始まります。そのころから報道等を通じて情報が広まり始め、一気に動きが加速することも予想されます。
また免税事業者が課税事業者となることを選択する場合「簡易課税制度」という制度の検討が必須です。こちらについても提出期限の特例等があり、収集すべき情報と検討すべき課題は多岐にわたります。
すでに選別のときは始まっています。もしあなたが免税事業者と取引が多いのであれば、事業の仕組みを考える必要があります。そして自分自身が免税事業者ならば、ほんとうにそのままでいいのか、早急に検討を始めることをオススメします。