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今さら聞けない! インボイス制度はなぜ導入されるのか

~インボイス制度導入の背景についてわかりやすく解説します~

今さら聞けない! インボイス制度はなぜ導入されるのか

令和5年10月1日よりインボイス制度がスタートします。あと1年半となり、書籍やセミナーなどで情報がたくさん出回るようになってきました。しかしながら、インボイス制度がどんなものかイマイチわかっていないけれど今更聞けないという方も多いのではないでしょうか。そんな方のために、インボイス制度について複数回に分けてお伝えします。


この記事の著者
  税理士 

消費税法の歴史

消費税法は、昭和63年12月30日に公布されて平成元年4月1日から実施されました。

消費税はかなり産みの苦しみを味わった税です。我が国においてこのような大型消費税が導入されるのは初めてではなく、古くは昭和23年9月1日に施行された「取引高税」がありました。戦後の混乱の中、闇所得が多く取引高税の調査で収入が捕捉されてしまうことに中小企業が耐えられず、印紙納付という手間もあり、翌昭和24年12月31日には廃止されています。

この取引高税には仕入税額控除の仕組みがないため、取引の後の段階になるほど税負担が累積して重くなるものでした。

次に大平内閣時に大型間接税の導入検討がされていますが、行政改革による経費の節減、歳出の合理化等財政再建をすべきとして第35回衆議院議員選挙期間中に見送りを表明し、導入が見送られました(しかしながら自民党は大幅に議席減)。

その後、中曽根内閣において昭和62年に「売上税」法案が国会に提出されました。

売上税は、税額票方式(インボイス方式)であり、税が累積しない方式が採られました。事業者は消費者に対して税額を交付することとされ、前年の売上高が1億円以下の者は免税、非課税物品は現行において非課税とされるものに加え、飲食料品・一定の飼料、住宅の譲渡等、旅客運送などがありました。

しかしながら、この売上税も廃案となります。

大きな理由としては、中曽根首相が大型間接税導入はしないとした公約に違反していると国民が感じたこと(売上税を中型と表現)、非課税品目が53品目もあり判別が困難、インボイス方式が事業者にとって負担となること、実施日が昭和63年1月1日であったため準備期間が短すぎた点が挙げられます。

その後、「消費税」の創設が昭和63年度税制改正要綱に盛り込まれ、消費税法案が国会に提出され、竹下内閣の下、昭和64年(平成元年)4月1日に実施となりました。

戦後の日本における税制は、昭和25年のシャウプ勧告に基づき所得税中心の税体系となっており、日本国民の中には税金は所得のあるところに課するもので、富める者が納めるものという意識が根付いていたため、所得のない子どもや老人であっても、赤字であっても納税が発生する間接税に対して日本国民は拒否反応を示し、消費税導入が決まったあとでも、1円玉の流通を止めれば消費税が廃止されるなどとマスコミが報道していた時期がありました。


なぜ消費税が導入されたのか

昭和60年代において、日本の将来は少子高齢化が進むことは予測されており、所得税を中心とした税体系のままではサラリーマンを中心とした中堅所得者層の負担が一層重くなる一方で、農・自営業者は税が源泉徴収されるサラリーマンよりも捕捉されにくい(クロヨン、またはトーゴーサンピン)といった問題などで納税者の重税感、不公平感が強まり、勤労意欲や事業意欲の低下が懸念されていました。

また、この時期はバブル期であり、地価の高騰から資産課税も非常に重いものとなっていました(この時期の相続税の基礎控除は2000万円+400万円×法定相続人の数)。そこで、所得、消費、資産等の間の課税のバランスを図り、全体的に均衡のとれた税体系を構築するために抜本的な税制改革をする必要があり、所得税や相続税が減税となり、消費全般に広く課税する消費税が創設されることになったのです。

このほかに、消費税導入は個別間接税の問題点の解消のためでもありました。

消費税が創設される前に「物品税」がありましたが、これは奢侈税(しゃしぜい)であり、ぜいたく品を法律に個別に明記し、それに対して異なった税率を適用するものでした。国民の平均的な所得層が低い時代には公平な税制として機能していましたが、国が豊かになりモノがあふれ、消費がモノだけでなくサービスにも拡大すると、サービスに対する課税が行われないのは公平性を欠きます。化粧品や掃除機は課税でしたが、美容サロンや家事代行は課税されませんでした。

何がぜいたく品かの定義も難しいもので、物品税法上、レコードは課税対象とされていましたが、童謡を収録したレコードは教育的観点から非課税とされていました。

「およげ!たいやきくん」は童謡と判定され非課税とされましたが、「黒ネコのタンゴ」は東京国税局以外の管内では歌謡曲とみなされ課税とされました。

このような公平性を欠いてしまった個別間接税制度を解決することも、消費税導入の要因のひとつとなりました。


売上税の反省を踏まえて

上述のような経緯から、消費に広く公平に課税する消費税の導入は避けられるものではなく、導入にあたっては売上税に対する国民の批判を十分に考慮し、簡素で分かりやすく、取引慣行にも配意し、納税者、税務関係者の事務負担に配慮したものであることが求められました。

具体的には、消費税法にはインボイス方式の導入が見送られることになり、事業者免税点制度や簡易課税制度などが設けられました。


インボイス方式への道

税の累積を排除する仕入税額控除の方法に、インボイス方式によらない代わりに帳簿上の記録等に基づいて控除する方式(帳簿方式)が採用されましたが、平成6年秋の税制改革において、制度の信頼性を高める観点から、帳簿及び請求書等の書類の保存を要件とする、いわゆる「請求書等保存方式」に改められました。

令和元年10月から軽減税率制度が導入されることになり、税率の区分が明らかにされた「区分記載請求書等保存方式」という方式を経て、とうとう令和5年10月1日からインボイス制度(「適格請求書等保存方式」)を導入することとされました。


どうしてインボイスを導入することになったのか

国税庁の説明資料においては「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」とされています。

制度的な説明は確かにこの通りになりますが、インボイス制度導入が俎上に上がったのは軽減税率導入による税収減の穴埋めのためであり、軽減税率が導入されなかったら、インボイス制度導入はされなかった可能性があります。


なぜインボイス制度が税収減を補うのか

現行の消費税法では、免税事業者から仕入れた課税事業者は仕入税額控除をすることが可能ですが、インボイス制度の下では免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができません。

そうすると、課税事業者は免税事業者を避けて取引をすることに経済的合理性があることになりますから、免税事業者は市場から排除されないために課税事業者になる必要があり、消費税を納税することになります。免税事業者は日本の事業者の約6割を占めるといいますので、かなりのインパクトになるでしょう。

また、課税事業者が免税事業者から仕入れ続けるにしても、その分は仕入税額控除ができませんから、納税額が増えることになります。


インボイス制度の問題点

インボイス制度は、小規模事業者の事務負担に配慮する目的で設けられたはずの事業者免税点制度を乗り越えて課税事業者を増やすことになります。また、免税事業者から課税事業者になるのは売上先が事業者であるBtoBの免税事業者であり、売上先が一般消費者であるBtoCの免税事業者場合は免税事業者を維持し続けるため、事業者免税点制度の公平性が保たれないことになります。

また、インボイス(適格請求書)を受け取った都度、適格請求書等発行事業者かどうか確認しなくてはならない、区分記載請求書(免税事業者が発行する請求書)の場合は経過措置適用の旨帳簿に記載が必要であるなど、軽減税率で負担が増えている経理処理がさらに煩雑となると予想されます。

次回は、インボイス制度の内容を詳しくお伝えします。

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著者プロフィール

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高山弥生

税理士

1976年埼玉県出身。一般企業に就職後、税理士事務所へ。「顧客に税目はない」をモットーに、わかりやすい本音トークが好評。「税理士事務所に入って3年以内に読む本」を始めとする高山先生の若手スタッフシリーズを執筆しており、近著に「個人事業と法人どっちがいいか考えてみた」がある。

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